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今月の音遊人:渡辺香津美さん「ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたい 」
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2021.8.2
2021年デビュー50周年を迎えたジャズギタリストの渡辺香津美さん。伺ったお話には、渡辺さんが今なおエネルギッシュな活動を続ける秘密が散りばめられていました。
いろいろあるので、一曲だけ選ぶとなるとかなり難しいのですが……。ジャズギタリストとしての私の礎となっている曲のひとつとして挙げたいのは、ウェス・モンゴメリーの『ノー・ブルース』という曲です。1965年に録音されたライブ盤『ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー・トリオ』というアルバムに入っています。ウェス・モンゴメリー(1923~68)は革新的な演奏法で一世を風靡したジャズギタリストなのですが、そんな彼のテクニックが全部入ってるといってもおかしくないほど豊かなソロが展開されているのがこの曲なんです。私はジャズギターを練習するのに、曲をまるごとコピーするというよりは、気になるフレーズを分析したりすることのほうが多いのですが、この曲だけは「全部覚えたほうがいいな」と思って、最初から最後まで、レコードを聴いては練習しました。いまでもそらで弾けますよ。以前、友人のマイク・スターンにこの話をしたとき、彼も「あの曲はギタリストのバイブルだ」と言っていましたよ。「オレも弾けるぞ」って(笑)。パット・メセニーとも同じことを話した記憶があります。
もうひとつ、パッと思い浮かんだのは、スティーヴィー・ワンダーが1973年に発表したアルバム『インナーヴィジョンズ』。曲もサウンドもアレンジもユニークで、スティーヴィーの宇宙が凝縮されている感じがします。懐かしくもあり未来的でもあり、都会的でもありアーシーでもあり。ジャズと共通する部分もたくさんあると同時に、ジャズとは違う音楽のあり方も教えてくれます。
音楽って、「時間と空間を超えた旅」だと思うんです。タイムマシンというか、タイムトラベルというか。この前、たまたまテレビで観たピアニストの演奏が素晴らしくて、アルバムも買ったのですが、その方が紡ぎ出す音を聴いていると、どこか懐かしくて、夢の中にいるような気分になれるんです。懐かしいといっても、子どもの頃や若い頃に流行った曲を聴くと当時のことを思い出す、というのとはまた違う感覚なんですよね。そんな不思議な体験をさせてもらえるのが音楽の魅力だと思います。
また、自分が音を出すときは、自分の感情とか考えを超えたところで、その音に自分が導かれているような感覚がするときがあるんです。まるで音が先生であるかのように。うまく言いあらわせないのですが、自分にとって音楽は旅であり、学校でもある。そんな気がします。
どんな人だろうなぁ。え?自分だと言ってもいいの?そう言われてみれば、私はギターという楽器を使って音を遊んでいる人かもしれないですね。ギターって、自分で音を出すのがすごく楽しい楽器なんです。ひとつのメロディでも、アコギで弾いた場合と、エレキでがっつり歪ませてサステインを効かせて弾いてみた場合というように、違う発想で試し始めるともう止まらなくて。特にエレキの場合は弾いているうちにイメージがどんどん広がってきて、曲作りを始めたつもりが、いつの間にか音作りになってしまうこともしばしば(笑)。そこがまさにギターの魔力で、時間がいくらあっても足りないんだけど、こんな楽しいことを仕事としてやっていられてよかったな、と思います。私は今年でデビュー50年になるのですが、いまだに新しい発見がたくさんあるんですよ。最近はSNSで仲間のギタリストとやりとりする機会も増えたのですが、その中で新しい奏法を知ったり、弾き方のヒントをもらったりすることも多くて、本当に終わりのない世界だな、と思いますね。
ギターに対しては、いつも新鮮な気持ちでいたいと思っています。毎日、最初にギターに触れるときは「はじめまして」、音が出たときには「ありがとう」と心の中でつぶやくんです。その気持ちが表現となってお客さまに届いたら、自分の素直な音が出せた証なんじゃないかな、と思います。でも一方では、みんなが驚くようなことをやってやろう!なんて考えちゃう自分もいて。それもギターの魔力ですね。
渡辺香津美〔わたなべ・かずみ〕
名実ともに日本が世界に誇るジャズギタリスト。17歳で衝撃のアルバムデビューを果たし、驚異の天才ギタリスト出現と話題になった。以来、ソロ活動のほか、坂本龍一と結成した伝説のバンド〈KYLYN(キリン)〉をはじめ、国内外のトップミュージシャンと共演し、ジャズのフィールドにとどまることなくギターの可能性を探求し続けている。近年はクラシックギター界からの委嘱作品も好評を博している。
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