今月の音遊人
今月の音遊人:林英哲さん「感情までを揺り動かす太鼓の力は、民族や国が違っても通じるものなんです」
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奥泉光さんと対談する機会があり(新潮MOOK『吉祥寺のほん』2017年)、氏の著作にふんだんに登場するファンタジーなジャズの世界を読み返していた時期があった。
なかでも『ビビビ・ビ・バップ』(2016年)では、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、ディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツ、ジェリー・マリガン、クリフォード・ブラウン、リー・モーガン、ウェス・モンゴメリー、ロイ・ヘインズといったアンドロイドによるドリーム・ビッグバンドが登場したりする。
これらアンドロイド・ジャズメンは、外見が本物そっくりなだけでなく、演奏もモノホンという設定になっている。もちろんそれは、過去の音源をそのまま使用した“再生型の模倣”ではない。リアルタイムでオリジナリティのある演奏を再現することができるのだ。
著者は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)がミュージシャンたちの演奏音源を学習することでその設定を可能にしているのだけれど、最初に読んだ時点では「ボクが生きているうちにはこんな時代になるのかなぁ……」とぼんやり思えるぐらいの認識だった。
ところが、それからわずか2年を経ずにSF作品のなかの設定が現実化してしまった。
「人工知能がバンドのメンバーに! AIと人間によるジャズセッション」というヘッドラインのニュースが流れてきたのは、2019年6月16日。
これは、AIへの理解を深めることを目的とした「UPDATE{OUR}AI」というイヴェントの一環として開催された演奏会。
当日の映像を見ると、中央にスクリーン、両脇にギター、ドラムス、ベース、キーボードの“リアルな”ミュージシャンが配置され、彼らの演奏に対してAIがリアルタイムに音を出す、いや、セッションする様子が映し出される。
正直、このステージにおけるAIの演奏レヴェルはイマイチの感が否めない。
しかし、相手はAIだ。“人工知能による学習”は、人間の能力をはるかに超えるスピードで“人間の演奏に近づく”ことを可能にするのである。
ということは、問題はその先。“AIは人間の演奏を超えるのか、超えられないのか”なのではないのか──。
ボクもAIに先を越されないように、この問題に対する答えの糸口ぐらいには辿り着きたいと思うので、しばらくこのテーマを掘っていきたいと思います。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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