Web音遊人(みゅーじん)

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 交響曲第5番≪宗教改革≫ イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)パブロ・エラス=カサド(指揮)、フライブルク・バロック・オーケストラ

新メンデルスゾーン全集に根差した迫力に満ちた「宗教改革」と、研究を重ねた味わい深いヴァイオリン協奏曲

いま、ドイツのライブツィヒで創業したヨーロッパで長い歴史をもつ楽譜出版社、ブライトコプフ&ヘルテル社が、「新メンデルスゾーン全集」の校訂・出版を進めている。これは1960年代に旧東ドイツで始められたプロジェクトを引き継ぐもので、2017年には交響曲「宗教改革」の新全集版が出版された。

2017年はマルティン・ルターの宗教改革(1517年)の500年記念にあたり、メンデルスゾーンの交響曲「宗教改革」は、ルターのアウグスブルクの信仰告白から300年にあたる1830年に完成された。

今回、この新たな版に基づいて「宗教改革」を録音したのは、パブロ・エラス=カサド指揮フライブルク・バロック・オーケストラ。エラス=カサドは1977年スペインのグラナダ生まれ。ルネサンス、バロック音楽と現代音楽を専門に演奏し、いまヨーロッパで注目を浴びている指揮者である。

パブロ・エラス=カサド

フライブルク・バロック・オーケストラは、「ピリオド(オリジナル楽器)・オーケストラのベルリン・フィル」とも称される実力派。「宗教改革」では疾走するようなテンポで、主張の強い圧倒的な存在感を放つ演奏を繰り広げている。人気の高いヴァイオリン協奏曲においても、古楽器からモダンまであらゆるスタイルと多岐にわたるレパートリーを誇るソリスト、イザベル・ファウストとともに、聴き慣れたコンチェルトに新風を吹き込んでいる。

ヴァイオリン協奏曲の楽譜は最新のものではないが、ファウストがさまざまなドイツの都市で初演を手がけた名手たちの書き込み資料などを丹念に研究した演奏となっている。

イザベル・ファウスト

フェリックス・メンデルスゾーン(1809年~1847年)は、作曲家としては珍しく裕福な家に生まれ、恵まれた結婚生活を送り、生前からその音楽が人々に認められた稀有な存在である。父はユダヤ人の裕福な銀行家だったため、彼は幼いころから十分な音楽教育を受け、類まれな才能を発揮した。こうした環境のもとで作曲された音楽は、洗練された感覚と気品とおだやかさに満ちあふれている。

若いころから完成された作品を書いたメンデルスゾーンは、時代的にはロマン派に属するものの、作風は古典派様式を踏襲しているため、「ロマン的な古典派」と呼ばれている。彼は同時代の音楽家よりもJ.S.バッハ、ヘンデル、モーツァルトから多大な影響を受けた。それが証拠にメンデルスゾーンは1827年3月10日、バッハの没後初めて「マタイ受難曲」を指揮し、バッハ復活の第一歩を記すという偉業を成し遂げている。

演奏家としては、幼いころからピアニストとして「神童」と呼ばれるほどの腕を備え、長じて旅好きとなって各地を旅行してその印象を作品に投影させ、まずピアノで演奏した。こうしたピアニストとしての技量がさまざまなピアノ作品に色濃く映し出され、華やかな技巧と表現力が盛り込まれ、ロマンあふれる作品として開花している。

バッハ復活に尽力し、「マタイ受難曲」のすばらしさを世に知らしめたメンデルスゾーン。今度は、21世紀に生きる音楽家たちが、メンデルスゾーンの新たな魅力を発信することに力を注いでいるようだ。

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

■アルバムインフォメーション

『メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲、交響曲第5番「宗教改革」』
発売元:KING INTERNATIONAL
発売日:2017年8月8日
価格:3,000円(税込)
詳細はこちら

 

特集

上野耕平さん

今月の音遊人

今月の音遊人: 上野耕平さん「アクセルを踏み続けることが“音で遊ぶ”へとつながる」

12460views

音楽ライターの眼

連載35[ジャズ事始め]佐藤允彦に音楽の方向を決めさせた1966年の“現代音楽祭”

1695views

CP88/73 Series

楽器探訪 Anothertake

ステージで際立つ音色とシンプルな操作性で奏者をサポート!最高のライブパフォーマンスをかなえるステージピアノ「CP88」「CP73」

15618views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

303views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

7604views

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

オトノ仕事人

マイク1本から吟味して求められる音に近づける/レコーディングエンジニアの仕事(前編)

14817views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14290views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13676views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11227views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

7831views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

4544views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29679views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9588views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

19417views

音楽ライターの眼

レスリー・ウェストの追悼CDボックス2作が発売。暑苦しい夏は暑苦しいロック・ギターで

2507views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

42780views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

7831views

楽器探訪 Anothertake

【モニター募集】37鍵ピアニカに30年ぶりの新モデルが登場!メロウな音色×おしゃれなデザインの「大人のピアニカ」

25652views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19068views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5293views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!トランペットをうまく鳴らすコツと練習方法

119950views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10677views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9904views