今月の音遊人
今月の音遊人:押尾コータローさん「人は誰もが“音で遊ぶ人”、すなわち“音遊人”なんです」
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新メンデルスゾーン全集に根差した迫力に満ちた「宗教改革」と、研究を重ねた味わい深いヴァイオリン協奏曲
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2017.10.5
いま、ドイツのライブツィヒで創業したヨーロッパで長い歴史をもつ楽譜出版社、ブライトコプフ&ヘルテル社が、「新メンデルスゾーン全集」の校訂・出版を進めている。これは1960年代に旧東ドイツで始められたプロジェクトを引き継ぐもので、2017年には交響曲「宗教改革」の新全集版が出版された。
2017年はマルティン・ルターの宗教改革(1517年)の500年記念にあたり、メンデルスゾーンの交響曲「宗教改革」は、ルターのアウグスブルクの信仰告白から300年にあたる1830年に完成された。
今回、この新たな版に基づいて「宗教改革」を録音したのは、パブロ・エラス=カサド指揮フライブルク・バロック・オーケストラ。エラス=カサドは1977年スペインのグラナダ生まれ。ルネサンス、バロック音楽と現代音楽を専門に演奏し、いまヨーロッパで注目を浴びている指揮者である。
フライブルク・バロック・オーケストラは、「ピリオド(オリジナル楽器)・オーケストラのベルリン・フィル」とも称される実力派。「宗教改革」では疾走するようなテンポで、主張の強い圧倒的な存在感を放つ演奏を繰り広げている。人気の高いヴァイオリン協奏曲においても、古楽器からモダンまであらゆるスタイルと多岐にわたるレパートリーを誇るソリスト、イザベル・ファウストとともに、聴き慣れたコンチェルトに新風を吹き込んでいる。
ヴァイオリン協奏曲の楽譜は最新のものではないが、ファウストがさまざまなドイツの都市で初演を手がけた名手たちの書き込み資料などを丹念に研究した演奏となっている。
フェリックス・メンデルスゾーン(1809年~1847年)は、作曲家としては珍しく裕福な家に生まれ、恵まれた結婚生活を送り、生前からその音楽が人々に認められた稀有な存在である。父はユダヤ人の裕福な銀行家だったため、彼は幼いころから十分な音楽教育を受け、類まれな才能を発揮した。こうした環境のもとで作曲された音楽は、洗練された感覚と気品とおだやかさに満ちあふれている。
若いころから完成された作品を書いたメンデルスゾーンは、時代的にはロマン派に属するものの、作風は古典派様式を踏襲しているため、「ロマン的な古典派」と呼ばれている。彼は同時代の音楽家よりもJ.S.バッハ、ヘンデル、モーツァルトから多大な影響を受けた。それが証拠にメンデルスゾーンは1827年3月10日、バッハの没後初めて「マタイ受難曲」を指揮し、バッハ復活の第一歩を記すという偉業を成し遂げている。
演奏家としては、幼いころからピアニストとして「神童」と呼ばれるほどの腕を備え、長じて旅好きとなって各地を旅行してその印象を作品に投影させ、まずピアノで演奏した。こうしたピアニストとしての技量がさまざまなピアノ作品に色濃く映し出され、華やかな技巧と表現力が盛り込まれ、ロマンあふれる作品として開花している。
バッハ復活に尽力し、「マタイ受難曲」のすばらしさを世に知らしめたメンデルスゾーン。今度は、21世紀に生きる音楽家たちが、メンデルスゾーンの新たな魅力を発信することに力を注いでいるようだ。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー
『メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲、交響曲第5番「宗教改革」』
発売元:KING INTERNATIONAL
発売日:2017年8月8日
価格:3,000円(税込)