今月の音遊人
今月の音遊人:マキタスポーツさん「オトネタ作りも、音楽に関わるようになったのも、佐野元春さんに出会ったことから始まっています」
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ブライアン・セッツァー・オーケストラが2018年1月、ジャパン・ツアーを行った。
古き良きロカビリー&スウィングに熱気あふれるタイムレスなリード・ギターを乗せて、元気いっぱいのステージ・パフォーマンスで世界の音楽ファンを魅了するブライアン・セッツァー。1981年、ストレイ・キャッツでの初来日以来、いったい何度日本を訪れただろうか。今回のジャパン・ツアーはブライアン・セッツァー・オーケストラの25周年を記念するアニヴァーサリー・ツアーとなった。
18人編成のビッグ・バンド「ブライアン・セッツァー・オーケストラ(BSO)」での活動についてブライアンは「人件費が大変なんだよね……」とボヤいており、「ロカビリー・ライオット」「ナッシュヴィランズ」などでの少人数のライヴ活動も行われている。だが、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドとギターのせめぎ合いが生み出す昂揚感は何にも代えがたい。BSOとしては2014年5月以来となる日本公演(2016年2月にはロカビリー・ライオットで来日)は札幌から福岡まで日本列島を縦断、東京では3公演が行われる大規模なものとなった。
東京最終公演となった東京ドームシティホールでのショーは、アリーナがほぼ満員。バルコニーの入りも上々で、その人気を改めて実感した。BSOのメンバーがぞろぞろとステージに上がり、最後に今晩のヒーローが姿を現すと、早くも場内の温度が急上昇する。観衆の年齢層はやや高めで、会社帰りとおぼしきお父さんやお母さんも多くいたが、彼らの心の髪型はリーゼントとポニーテイルだ。
BSOの25周年を記念するセレブレーションということで、最初から代表曲のオンパレード。「ペンシルヴァニア6-5000」「フードゥー・ヴードゥー・ドール」「ジス・キャッツ・オン・ア・ホット・ティン・ルーフ」と、ホット・ロッドのように爆音を上げて突っ走る。それからテンポを落とすが、演奏されるのがストレイ・キャッツの「気取りやキャット」なので、観衆はクールダウンする余裕を与えられず、熱くなる一方だ。彼らがようやく一息つくことを許されたのはサント&ジョニーの名曲「スリープウォーク」のレイドバックした演奏だった。
「ダーティ・ブギ」「ジャンプ・ジャイヴ&ウェイル」「ランブル・イン・ブライトン」など、アクセルを踏み込んで突っ走るショーの展開。前述の「気取りやキャット」では”お約束”の「ピンク・パンサーのテーマ」をカットするなどそれぞれの楽曲をよりタイトに凝縮したステージは、誇張でなく息をつく間もないものだった。
25周年の”お祭り”ということで、このままグレイテスト・ヒッツで最後まで行くのかと思いきや、後半からはサプライズが続き、1曲1曲のイントロごとに「おおっ!」という叫び声とも溜息ともつかない声援が上がる。
2002年にペプシのテレビCM曲として発表された「セクシー・セクシー」が久々にプレイされたのは、日本のファンへのサービスだろうか。お茶の間で流れた”イチロー・ヴァージョン”ではなかったものの、一瞬野球に絡む歌詞を挿入するなどして、さらに会場を盛り上げていた。
今回の来日公演では、最近亡くなったアーティストたちに捧げるトリビュート・コーナーも設けられた。8月8日に亡くなったグレン・キャンベルの「ウィチタ・ラインマン」と10月2日に亡くなったトム・ペティの「ランニン・ダウン・ア・ドリーム」はどちらもブライアンの愛情と敬意が込められており、観衆はノリながらも、思わずしんみりしていた。
だが湿っぽいムードはBSOのショーに似合わない。ここでステージにはお待ちかねのゲスト布袋寅泰が登場。「ロカビリー・ブギー」と「アイ・ガット・ア・ロケット・イン・マイ・ポケット」でブライアンとギター・バトルを繰り広げる。この共演は事前に発表されていたものの、知らなかったファンも少なくなかったようで、ワッと大きな声援が場内にこだました。
ライヴ本編ラストは「悩殺ストッキング」と「ロック・タウンは恋の街」。後者はトリオでもバッチリな曲だが、ビッグ・バンドのバックアップを得て、とびっきりデラックスなヴァージョンで締めくくった。
アンコール1曲目は、チャイコフスキーをビッグ・バンドでアレンジした「くるみ割り人形」だ。クリスマス・アルバム『ブギウギ・クリスマス』(2002)に収録された”季節もの”のナンバーだが、BSOの一種プログレッシヴな側面も感じさせるクラシック曲のカヴァーで、季節外れの嬉しいプレゼントとなった。
そして大団円は「イン・ザ・ムード」。実はこの日、ストレイ・キャッツの「セクシー&セブンティーン」やグラミー賞を受賞した「キャラヴァン」などは演奏されなかった。だが、スタンダード中のスタンダードであるこの名曲が飛び出してしまうと、もはや文句など垂れている余裕はない。ひたすら歌って踊って、人生を楽しんでしまうだけだ。
ブライアン・セッツァーの音楽には、まだアメリカが無垢だった時代のイノセンスが満ちている。彼の率いるどのバンドにも共通するのは、そのイノセンスを我々に惜しみなく分け与えてくれることだ。2018年、BSOは日本のオーディエンスにありったけのスリルとスマイルを振りまいてくれた。
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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