今月の音遊人
今月の音遊人:宮本笑里さん「あの一音目を聴いただけで、救われた気持ちになりました」
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誰もが奏でたい「生きている音楽」その正体を精神科医が解き明かす/『本物の思考力を磨くための音楽学 ~「本質を見抜く力」は「感動」から作られる~』
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2019.9.26
tagged: ブックレビュー, 泉谷閑示, 本物の思考力を磨くための音楽学
「生きている音楽」と聞いて何をイメージするだろう。それはどのような音楽だろうか。
これまで、音楽の視点でしか語られてこなかったこの問いに、精神科医があらゆる角度から答えを出したのが、最新刊『本物の思考力を磨くための音楽学』だ。
3歳からピアノを始め、中学校では吹奏楽部で作・編曲も手がけたという著者、泉谷閑示。秋田の豊かな自然に囲まれて育ち、クラシックだけでなく、耳から覚えた曲を弾いて楽しむ子ども時代を過ごした。「音楽は圧倒的に面白かったし、いちばんやりたかったこと」と語る。医師になってからパリ・エコールノルマル音楽院に留学するほど、音楽への深い探究心は尽きることがない。
多くの臨床経験から、「『心』と『身体』はイコールで結べるほど深くつながっていて、どちらも自然原理によって動いている。ところが、コンピュータ的な情報処理などの非自然原理で動く『頭』が発達し、『心=身体』をコントロールしようとするあまり、葛藤や抑圧が生じてしまう」という考えを導き出した。これは音楽の本質を考えるうえでも根幹となるテーマ。人のさまざまな問題は、「ほぼ『頭』で起こっているのです」と泉谷は言う。そんな今だからこそ、「心=身体」に反応する「生きている音楽」が求められている。「生きている音楽」とは何かを知るための、ひとつのヒントが本書に登場する。それはメトロノームの音。泉谷は「『心=身体』はそのような非自然な反復には反応しません。メトロノームに従ったような演奏が、音楽的経験を引き起こさないのはそのためです」と綴っている。そして、「現代人にとって音楽はどんな意味を持つか」「人はなぜ音楽を必要とするのか」と章を展開することで、「生きている音楽」の正体を解き明かしていく。
では、「生きている音楽」を奏でられるのはどんな人なのか?その代表とも言えるのが、まだ〝頭でっかち?になっていない子ども。そのため、子どもと音楽の出会いに関わる指導者には、「技術的なことではなく、いちばん大事なことは何かを伝えてほしい」と語る。「メソッドを教え込もうとするのではなく、もっとやりたい、もっと知りたいというモチベーションを高めてあげたい。ですから『教える』とは思わないほうがいいのです。見よう見まねでバンドを始めた若者は、やるなと言われても練習するでしょう?あの情熱が『生きている音楽』をつくる源なのです」
音楽を核とした多彩なアプローチによって、「生きている音楽」への意識を高め、思考力を磨いてくれる本書。指導者はもちろん、演奏家、さらには子育て中の人や音楽愛好家に、ぜひ読んでほしい一冊だ。
『本物の思考力を磨くための音楽学~「本質を見抜く力」は「感動」から作られる~』
著者:泉谷 閑示
発売日:2019年6月23日
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:1,600円(税抜)
詳細はこちら
泉谷閑示(いずみや・かんじ)
精神科医、思想家、作曲家。東北大学医学部卒業。大学時代に音楽理論や作曲法の個人教授を受ける。東京医科歯科大学医学部附属病院、神経研究所附属晴和病院等に勤務の後、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。『「心=身体」の声を聴く』(青灯社)など著書多数。臨床経験から導き出した「頭/心=身体」という人間理解に基づき、薬物を用いない精神療法を行っている。現在、泉谷クリニック(東京・広尾)院長
文/ 芹澤一美
photo/ 柏弘一郎
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