Web音遊人(みゅーじん)

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

ローカリズムに関心が集まる時代。音楽の力で地域を活性化する動きもさかんで、全国各地の“音楽の街”は盛り上がりを見せる。
そんななか、注目されているのが「公益財団法人 音楽文化創造」認定資格である「地域音楽コーディネーター」。地域の音楽活動をサポートし、音楽家と住民、行政や諸機関の連携を構築するなどプロデュースとマネジメントを担うプロフェッショナルだ。
青森県むつ市で、地域音楽コーディネーターとして活躍する長津亜紀江さんに活動内容を伺った。

「下北Jr.ウインドオーケストラ」、略して「シモジュニ」。青森県むつ市の小学1~6年生を対象にした新しい学びの場として、2019年に誕生した。長津さんは、地域音楽コーディネーターとしてその活動を支えている。
楽器店・株式会社東京堂で文化創造事業部長を務める彼女は、ふだんは音楽教室の運営や地元の公共ホール「下北文化会館」の指定管理業務にあたっている。地域音楽コーディネーター資格を取得したきっかけは、市の小学校の部活動が廃止になったことだった。
「運動系の部活は、保護者が主体となって地域のスポーツ少年団に移行することができたのですが、音楽に関しては受け皿がなく、活動が途切れそうになっていました。公共ホールの指定管理をしている私たちに何かできることはないか。そう模索していたとき、地域音楽コーディネーター養成講座を知りました」
地域音楽コーディネーター養成講座とは、公益財団法人音楽文化創造が主催し資格認定をしている講座だ。「生涯学習と音楽」「文化と地域創生」「地域文化マネージメント」「音楽企画書の書き方」の4つの講義が設けられており、コンサートや音楽イベント、プロジェクトを企画・提案・実施するスキル、地域の行政機関・音楽団体のコーディネートや市民・職場・音楽団体の音楽活動サポートのノウハウなどを身につけることができる。
受講者は、地域で音楽による社会文化活動に携わっている人やこれから活動を始めたい人、音楽が好きな人、生涯学習音楽指導員などさまざま。

4つすべての講義を受講すると認定資格が取得でき、それぞれ音楽による地域文化創生やマネジメントに携わったり、音楽をとおして多くの人との繋がりを深めることで人々を幸せにする活動をしたりと、幅広く活躍している。

下北文化会館(大ホール)で練習する下北Jr.ウインドオーケストラのメンバー。

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい──。中学時代にクラリネットと出合い、現在も地元の吹奏楽団に所属するなど音楽活動を続ける長津さんにとって、その思いは、ひとしおだった。
資格取得とほぼ期を同じくした2019年、下北文化会館、むつ市、教育委員会、地元吹奏楽連盟、地元吹奏楽団、海上自衛隊音楽隊、地元楽器店などの協力を得て「シモジュニ」を結成。部活動から地域活動へ──新たな音楽活動がこの地に誕生した瞬間だ。その実現の影には、各団体に支援を依頼し、市長には直談判して応援を得た長津さんの活動がある。
「地域が子どもたちのために動いてくれたという実感があります。資金調達にも苦悩しておりましたが、地域音楽コーディネーターのみが受講できる探究講座でクラウドファンディングについても具体的に学んだので、地域の方々に臆することなくお話しできました。多くの地元企業や銀行、団体から寄付をいただくことができました」

海上自衛隊音楽隊員の指導によるサクソフォンの練習。楽器ごとに隊員がサポートしている。

楽器は地元の小学校から借りたり廃校から譲り受けたりし、東京堂のリペアマンが修理して使用することになった。
地元からの協力は、資金やモノだけではない。
「クリスマスコンサートや地元の吹奏楽愛好家たちが集まるコンサートに出演させていただいたり。子どもたちは、発表の場をいただくことでやる気が出ます。そして、発表の場を増やすことは、それを見てくださっている方たちの刺激になったり、生きる力につながったりするかもしれません。さまざまな良い循環が生まれていると感じています」

JAMSTEC(海洋研究開発機構)一般公開のオープニングセレモニーで演奏。後ろに見えるのは、海洋地球研究船「みらい」。

下北文化会館を拠点に活動する「シモジュニ」のメンバーは2020年3月現在で53人。当初は15人程度の参加を想定していたが、学校の垣根を超えてむつ市全域から小学生が集まった。
「シモジュニの具体的な活動は、養成講座のひとつにあったエル・システマジャパンの仕組みを参考にさせていただいています」
南米ベネズエラで生まれ、40年以上の歴史をもつ音楽教育プログラム、エル・システマ。その理念を受け継ぎ、東日本大震災の被災地の子どもたちを支援するため2012年に設立されたのがエル・システマジャパンだ。音楽の力で子どもたちを元気に。子どもたちの求心力で地域を元気に──。
「週1回の練習に加え、自主練にもほとんどの子どもたちが参加しています。音楽を通じて、子どもたちのなかにがんばる気持ちが生まれたことは本当によかったと思っています。そして、がんばる力が子どもたちにこんなにもあることを、私たち大人が逆に学びました」
さらに、地域コーディネーターの使命は、子どもたちに音楽や楽器の演奏技術を教えることだけではないと強く感じている。

2020年3月には、1年間の集大成である「ありがとうコンサート」が予定されていた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響でコンサートも練習も中止に。長津さんたちは、練習ができなくなった子どもたちのために自宅でもできるレッスン動画を配信し、その数は20本を超える。

「学校には行けない子もシモジュニの練習には来たりしていて、子どもたちが成長するために必要な場にもなっているのかなと思います。子どもたちが笑顔で元気に来ることができているかを確認できる場所でもありますね。また、たとえば鏡開きの日には、文化会館に備えた大きな鏡餅をみんなでお汁粉にして食べるなど、文化を教えていくことにもつながっているような気がします」

地元の吹奏楽祭に出演。発表の場が刺激になり、観てくださる方たちとよい循環が生まれる。

長津さんの活躍の場は、「シモジュニ」のサポートに止まらない。たとえば、下北文化会館でのコンサートの企画もそのひとつだ。
「探究講座のひとつに、『題名のない音楽会』の構成作家だった新井鷗子さんが講師を務めていらっしゃる講座があったのですが、音楽に興味がない方に興味を持っていただくための具体例などとても参考になりました」
むつ市で計画されている大規模な音楽プロジェクトにも参画しているという。
音楽で地域を元気に──日本にまたひとつ、新たな“音楽の街”が産声を上げる日は、そう遠くないかもしれない。

地域音楽コーディネーター養成講座・探究講座 受講者インタビュー(長津亜紀江さん)

Q.もし音楽に関わる仕事に就いていなければ、どんな仕事をしていたと思いますか?
A.ホップを育ててビールをつくるとか、日本酒をつくる杜氏さんとか……。育てて収穫してつくり上げる工程がある仕事がしたいですね。

Q.子どものころになりたかった職業は?
A.とにかくクラリネットが好きで、家でも毎日吹いていました。聴いてくれる人がいないので、犬に聴かせたりしていましたね。大好きなクラリネットを吹き続けたいと漠然と思っていました。

Q.好きな音楽を教えてください。
A.雑食です(笑)。先日は青森市で開催されたMONGOL800のライブに行きましたし、東京出張に行ったときにはNHK交響楽団のコンサートにも行きました。東京出張の際には好みのコンサートがないかリサーチして、足を運ぶようにしています。

Q.休日はどんなことをして過ごされていますか?
A.子どもが小学生なので、家族でいろいろな場所にキャンプに行くのが楽しみです。子どももヤマハの音楽教室に通ったり、「シモジュニ」に参加したりしているので、キャンプにはカホンを持っていきます。

■地域音楽コーディネーター養成講座

地域音楽コーディネーターの資格取得の講座で、コンサートやワークショプ、音楽イベントを企画・提案・実施するスキルが身につきます。
詳細はこちら

■下北Jr.ウインドオーケストラ

下北文化会館を活動場所として、青森県下北地方の小学生1年~6年の子どもたちを対象にした新しい学びの場です。略して「シモジュニ」。
詳細はこちら

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