Web音遊人(みゅーじん)

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

1999年に江崎さんは独立して、オクタヴィア・レコードを設立。クラシックを中心に、国内外の巨匠から若手まで幅広く手がけ、代表取締役として会社を経営しながらレコード制作の現場にも立ち続けている。
「当社の録音は、厳格なヨーロッパの方法論は踏襲しながらも、必ず独自のアイデアを加味しています。私も50代半ばになりますが、エンジニアとしてのアイデアはまだまだあります」

以前カラヤンが言っていたという言葉を今も心に留めている。オーケストラは本拠地での活動を体の中心とすると、体を支える右足には各地をまわるツアーがあり、左足には指揮者以外の第三者から意見されるレコーディングがある、というもの。
「オーケストラが健全に機能していくためにもレコーディングは必要とされているのです。この文化を絶やさないことが僕らの使命では、と考えています。本当に末席ではありますが、レコーディングを続けることで音楽文化の一端を担っていきたいと思っています」

江崎さんには今も忘れられないレコーディングシーンがある。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の録音を初めて手がけたときのこと。かつての恩師たちに遠慮して意見できなかったのを指揮者のヴァーツラフ・ノイマンから「何も言わずにこのままレコードになったらおまえの責任になるんだぞ」と叱咤され、次のセッションで遠慮なくダメ出しをしたら、演奏者みんなから感謝された。「よいレコードを作るために大切なことは何か。レコーディング文化を体感した出来事」を胸に、これからも録音に臨む。

Q.子どもの頃、なりたかった職業は?
A.幼稚園では乗り物の運転手、小学校のときは野球をやっていたので野球選手と、男の子がなりたがるものはひと通り憧れました。

Q.これまでに聴いたなかで印象に残っている演奏は?
A.小学5、6年のときにチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を聴いて、雷に打たれたような衝撃を受けました。当時僕もトランペットを始めていたのですが、チェコフィルのトランペット奏者、ミロスラフ・ケイマルの音と、マッチ棒のような自分の音があまりに違っていて。それで父に頼んでケイマルにサインをもらいに行ったのがきっかけで、指揮者のヴァーツラフ・ノイマンにも出会い、彼らと家族ぐるみでお付き合いをするようになりました。チェコフィルが日本に来ると会いに行き、楽員ともご飯を食べに行ったりしました。社会主義国の彼らにとっては、僕たちと出かけるのがとても楽しみだったようです。

Q.学生時代の過ごし方は?
A.中学生のときに初めてチェコスロバキアを訪れました。高校1年のとき、来日したチェコフィルのトランペット奏者の具合が悪くなり、急遽、チェコフィルの演奏会にエキストラで出演したこともあります。音大に入ってからは、夏休みにチェコスロバキアを訪ねて勉強していました。

Q.チェコスロバキアで音楽を学んだきっかけは?
A.大学の教育実習で感動して教師になろうと思い、その話をノイマンにしたら「それはダメだ」と。「この書類をチェコスロバキア大使館に持って行くように」と言われ提出したら、それが留学手続きの書類だったんです(笑)。

Q.思い出に残っている曲は?
A.トランペット奏者の道を事故で断念してチェコスロバキアから帰国し、縁あってテレビ制作会社に入りました。23〜26歳のときは作詞家のマネージャー兼、現場のアシスタント・プロデューサーをしていました。ちょうどホイットニー・ヒューストンがデビューしたころで、そのあたりの洋楽全般は毎日聴いていましたね。当時、湘南のラジオ局で夕方の番組のプロデューサーもしていたのです。それまで過ごしていたチェコとはあまりに違う風景に感傷的になっていました。またトランペットを吹きたいなぁと思ったり。あの頃の一連のバラードを聴くと当時の気持ちを思い出しますね。

Q.プライベートでよく聴く音楽は?
A.好きなのはジャズですね。仕事から離れて聴くのはジャズ。古いものから新しいものまで、いろいろ聴きますが、昔のものが好きですね。

Q.休日の過ごし方は?
A.趣味は写真撮影。学生時代、チェコスロバキアに行った帰りに東ドイツに寄っていて、そこで安いレンズを買い集めていました。東西冷戦時代でしたので、日本より安く買えたんです。当時のレンズを無理やり今のカメラにくっつけて撮ると、いいボケ具合の写真が撮れるんですよ。もっぱら景色を撮影して楽しんでいます。

前のページに戻る

 

特集

曽根麻央

今月の音遊人

今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」

5193views

反田恭平 - Web音遊人

音楽ライターの眼

ユニークな個性が演奏に反映し、聴き手の心をわしづかみにする反田恭平のピアニズム

11600views

CLP-800シリーズ

楽器探訪 Anothertake

グランドピアノの演奏体験を全身で感じられる電子ピアノ── クラビノーバ「CLP-800シリーズ」

2505views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

47619views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8712views

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽文化のひとつとしてレコーディングを守りたい/レコーディングエンジニアの仕事(後編)

6392views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19880views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9226views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8751views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

2039views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5748views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31382views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

10124views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8751views

音楽ライターの眼

連載8[ジャズ事始め]“天下の台所”が呼び込んだ“ジャズで踊る”という最先端の流行

3050views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

5823views

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

われら音遊人

われら音遊人:バンド経験ゼロの主婦が集合 家庭を守り、ステージではじける!

9057views

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

楽器探訪 Anothertake

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

14878views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12822views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4801views

楽器のあれこれQ&A

講師がアドバイス!フルート初心者が知っておきたい5つのポイント

19755views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5741views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26346views