Web音遊人(みゅーじん)

メンバーは替わっても、その演奏の柱は決して揺るがない/タカーチ弦楽四重奏団

アメリカのアンサンブル、タカーチ弦楽四重奏団が来日した。創設は1975年だから、すでに結成44年の大ベテラン。長い歴史の中で積み上げてきた名演奏により、常設室内楽団としていまや世界最高峰の一角を占める。1990年代以降、メンバーの入れ替わりもたびたびあった。最近では2018年にハルミ・ローズが第2バイオリンとして新規加入。カルテットの音楽に新たな風を送り込んでいる。

そんな弦楽四重奏団の演奏を2019年9月26日、ヤマハホールで聴いた。以前、彼らの演奏に接したのは第2バイオリン交代前の2016年で、同じくヤマハホールでのこと。今回のコンサートは、ローズ加入後の新生タカーチを知るのにもってこいの条件となった。

プログラムの前半はハイドンの弦楽四重奏曲第39番ハ長調《鳥》Hob.III:39と、ドヴォルザークの同第12番へ長調《アメリカ》作品96。どちらも鳥の鳴き声を思わせる部分を持つ。面白い取り合わせだ。後半はベートヴェンの同第9番ハ長調《ラズモフスキー第3番》作品59-3。ベートーヴェンはハイドンの確立した弦楽四重奏の世界をひたすら拡張し、ドヴォルザークら後輩世代にとっては同ジャンルの高い壁となって立ちふさがった。演目から見えるのは、そんな音楽史の流れだ。

冒頭のハイドンから、タカーチの4人がめっぽう腕っこきであることが分かる。ただ、その手腕の高さが作品の求めるところと一致しない。人間の対話のスタイルを曲に投影するのが18世紀音楽の身上だが、タカーチの演奏はまるで、大げさすぎる役者の芝居のよう。ウィットの利いた日常会話を思わせる部分でも、大仰なセリフ回しが多い。

そんなケレン味のある弾きぶりも、ドヴォルザーク以降は作品の内実にぴたりとはまった。たとえば《アメリカ》の第4楽章。活発でどこかユーモラスな印象もあるロンドと、ゆったりと懐の深い楽想のエピソードとの対比は、思い切って芝居がかった表現をしたほうがいっそう際立つ。そんな曲の性格に、タカーチの演奏が寄り添う。

後半、ベートーヴェンの《ラズモフスキー第3番》では、4人の個性が作品世界と呼応した。たとえば第2楽章。第1バイオリンのドゥシンベルはさまざまな音色を作り、第2バイオリンのローズは多彩な子音を繰り出す。ビオラのウォルサーが緊張感の移り変わりを表現すれば、チェロのフェイェールは空間の広がりを伸び縮みさせる。

こうした奏者の個性によって、ベートーヴェンのポリフォニーがより緊密なものとして聴こえてくる。フーガ風に進む第4楽章。4人の個性の違いが、各声部の性格を描き分けていく。そのコントラストがくっきりとしているので、作曲家の書いた緊迫した対話劇が真に迫ったものとなる。

こうした立体的な演奏は、タカーチの以前からの特徴のひとつ。メンバーが入れ替わってもなお、彼らの演奏の柱は決して揺るがない。老舗弦楽四重奏団の面目躍如である。

 

澤谷夏樹〔さわたに・なつき〕
慶應義塾大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了。2003年より音楽評論活動を開始。2007年度柴田南雄音楽評論賞奨励賞受賞。2011年度柴田南雄音楽評論賞本賞受賞。著書に『バッハ大解剖!』(監修・著)、『バッハおもしろ雑学事典』(共著)、『「バッハの素顔」展』(共著)。日本音楽学会会員、 国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員。

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:七海ひろきさん「声優の仕事をするようになって、日常の中の音に耳を傾けるようになりました」

12083views

ジョン・コルトレーン編 vol.7|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

音楽ライターの眼

ジョン・コルトレーン編 vol.7|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

9090views

マーチング

楽器探訪 Anothertake

見て、聴いて、楽しいマーチング

15555views

サクソフォンの選び方と扱い方について

楽器のあれこれQ&A

これからはじめる方必見!サクソフォンの選び方と扱い方について

55569views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

9066views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

3166views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

4695views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5342views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

30443views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1629views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

4805views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29637views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

10518views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13756views

ロニー・モントローズの最後のアルバム『10x10』が遂に発売

音楽ライターの眼

ロニー・モントローズの最後のアルバム『10X10』が遂に発売

6647views

オトノ仕事人

オーダーメイドで楽譜を作り、作・編曲家から奏者に楽譜を届ける/プロミュージシャン用の楽譜を制作する仕事

17412views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

1721views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11498views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

14127views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4488views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

2732views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7394views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25044views