Web音遊人(みゅーじん)

色とりどりのショパンが新鮮な驚きをもたらす/西村由紀江インタビュー

日本とポーランドの国交樹立100周年を記念し、全国4カ所の美術館で開催される『ショパン―200年の肖像』展。美術作品や資料を通じ、生誕から約200年にわたるショパン像を紹介する大規模な展覧会とあって注目を集めている。それと連動して葉加瀬太郎が主宰するHATSレーベルより、ショパンをテーマにした同名のコンピレーション・アルバムがリリースされた。プロデュースは西村由紀江。ショパンと同じく作曲家であり、ピアニストである彼女に、このアルバムの聴きどころやショパンへの想いを語ってもらった。

アルバムの冒頭には、西村による『ノクターン』が収録されている。これはショパンの『夜想曲第2番』をアレンジした曲だが、注意深く聴かないと原曲との違いが分からないほど、さりげないアレンジとなっている。

「このアルバムでは、葉加瀬太郎さんや柏木広樹さん、ソノダオーケストラなどの皆さんがかなり大胆にショパンの曲をアレンジされているので、それなら私はピアニストとしてショパンへのリスペクトを込めて、ありのままに近い形でのシンプルなアレンジにしようと考えました。2019年の4月に『PIANO SWITCH』というアルバムをリリースしたのですが、これはピアノが好きな方が、より楽しくピアノを弾けるようになる“スイッチ”を入れられたら、と思って作ったのですね。『ノクターン』もその延長線上で、アレンジの面白さというより、ショパンが好きな方が、弾きたくなるような曲にしたいと思ったのも大きいです」

同じく西村が『前奏曲第15番』をアレンジした『雨だれ~窓辺の記憶~』は、訥々と語られる記憶の断片から、次第に想いがあふれ出てくるような、静かな感動に包まれる曲だ。

「じつは隠し味として、間奏に『黒鍵のエチュード』のフレーズを入れてみたんですよ。ショパンの中に、ショパンの曲を入れるという遊び心で」

一方で西村がセレクトした曲では、葉加瀬太郎が『英雄ポロネーズ』をトロピカルにアレンジした『A Letter From The Island』、古澤巌が奏でる郷愁に満ちた『別れの曲』、柏木広樹が『子犬のワルツ』をブラジルのショーロに変身させた『子犬のショーロ』、ソノダオーケストラによるスリリングな『幻想即興曲』など、色とりどりのショパンが新鮮な驚きをもたらしてくれる。

「みなさんそれぞれのキャラクターが出ていて、そういった意味ではショパンのアルバムではあるけれど、同時にとてもアーティスティックなアルバムでもあると思います。ここまで斬新なアレンジができるのも、ショパンのメロディーの力があってこそ。ショパンはたった39年の人生の中で、誰もが知るメロディー、いわゆる“ヒット曲”をこれだけたくさん残したなんて本当に驚異的ですよね」

ピアノを弾く人なら一度は弾いてみたいと憧れるショパン。西村にとって、ショパンとはどのような存在なのだろう?

「ショパンをはじめて弾いたのは5歳のとき。『別れのワルツ』の響きがとても素敵で、子ども心にわくわくしながら、次はどんな音になるんだろう?と夢中になって弾いた記憶があります。ちょっと渋めの大人っぽい曲ですが、当時の私の“ピアノ・スイッチ”を入れてくれた曲です。大きくなってからもショパンはたくさん弾きました。私は手が小さくて、何度もピアノを挫折しそうになったのですが、リストと違ってショパンの曲は頑張れば指が届くわけです。そして弾けるようになると、とても美しい。もうピアノを辞めたいと思ったとき、引きとめてくれたのもショパンでした」

アルバムにはボーナストラックとして、ショパンが最後に住んだパリのアパートに置いてあったプレイエル社のピアノによる演奏が収録されている(演奏:ピオトル・マフニク)。そのひなびた響きを、はじめて耳にする方は驚くかもしれない。

「たしかに現代のピアノの豊かな響きとはまったく違いますよね。ショパンはこのミニマムな響きの楽器で、あんなに煌びやかな曲たちを生み出した。頭の中ですべての音色の響きを細部まで想像して、計算して、組み立てていったわけです。ショパンというと、ロマンティックで情熱的な人というイメージがありますが、じつはすごくクールで几帳面な人でもあったのではないでしょうか。『ショパン―200年の肖像』展で直筆の楽譜や手紙を見て、あらためてそう感じました。小さな紙にきっちり綺麗に音符が並んでいて、ことこまかに指示も書き込まれているんですよ」

今回の展覧会は、世界でも最大規模になるという。2020年のショパン・コンクールに向けて、これからますます盛り上がっていきそうだ。

■アルバムインフォメーション

『ショパン‐200年の肖像』

《フレデリク・ショパンの肖像》アリ・シェフェール、1847年、油彩、カンヴァス Credit:Dordrechrs Museum
《「エチュードヘ長調 作品10の8」自筆譜(製版用)》フレデリク・ショパン、1833年以前、インク、紙) Photo:The Fryderyk Chopin Institute

発売元:ハッツアンリミテッド
発売日:2019年10月9日
価格:2,000円(税込)
詳細はこちら

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