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今月の音遊人:反田恭平さん「半音進行が使われている曲にハマります」
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1983年の爆走ロックンロール。モーターヘッド『アナザー・パーフェクト・デイ』40周年記念盤がリリース
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2023.11.2
tagged: 音楽ライターの眼, モーターヘッド, アナザー・パーフェクト・デイ
モーターヘッドが1983年に発表したアルバム『アナザー・パーフェクト・デイ』の40周年を記念するアニヴァーサリー・エディションが2023年11月、海外でリリースされることになった。
1975年にイギリスで結成したモーターヘッドは誰よりも激しくうるさく汚い爆走ロックンロールで人気を博し、「モーターヘッドが隣に引っ越してきたら庭の芝生が枯れる」とまでいわれた。彼らのライヴ・アルバム『極悪ライヴ No Sleep ‘til Hammersmith』(1981)は全英チャート1位を奪取。同年の野外フェス“ヘヴィ・メタル・ホロコースト”では堂々ヘッドライナーとして4万人の大観衆の前でプレイ、あまりの轟音に付近住民から苦情が出ている。
ただその後、彼らは大きなターニングポイントを迎えることになる。バンドの黄金期の一角を担ったギタリスト、“ファスト”エディ・クラークが北米ツアーの途中で脱退。レミーとドラマーの“フィルシー・アニマル”テイラーが後任として白羽の矢を立てたのは元シン・リジィ〜ワイルド・ホーシズのブライアン“ロボ”ロバートソンだった。新生モーターヘッドは北米ツアーと1982年6〜7月の初来日公演を行い、ニュー・アルバムの制作に入る。
当時のモーターヘッドはとにかく“過激”なイメージで売り出されていた。前述の“庭の芝生が枯れる”うんぬんもそうだし、「Q:誰の風呂のお湯だったら飲める?A:レミー。彼は風呂に入らないから、お湯はきれいなまま」などというジョークも流布された。『極悪ライヴ』日本盤LPに付けられた歌詞カードで「モーターヘッド」が“聴き取り不能”となっていたのも、彼らの伝説を際立たせた(実際には1977年に発売されたシングルの裏ジャケットに歌詞が掲載されており、そちらを使えば問題がなかった)。そんな状況下、1983年5月に発売となったシングル『アイ・ゴット・マイン』はファンの論議を呼ぶことになった。
今になってこの曲を聴き返すと、何がそんなに問題なのか理解に苦しむが、レミー曰く「ギターとベースがずっと同じラインを弾いていないのが気に入らないファンがいた」とのこと。ギター・リフにアルペジオが入っていたのが「犯罪に等しい」ことだったそうで、ロボの方がギターの技術とセンスはエディよりも上だったが、やっていることは大きくは変わらないと主張している。
こういうときレミーは「俺たちがやっているのはロックンロール、それだけだ」と語るのが常だったが、毎度槍玉に挙がっていたのがヴェノムだった。「あんな連中とは一緒にしないでくれ。あいつらはジョークだ」と糾弾しており、一緒に収まった写真でも何だかよそよそしい表情なのが興味深い。
そうして同月にリリースされたアルバム『アナザー・パーフェクト・デイ』は若干“音楽的”になりながらも、一本背骨が通ったモーターヘッド流のロックンロールが貫かれている。陽性のリフで第2弾シングルとなった『シャイン』やアルペジオ・リフが曲を引っ張っていく『ダンシング・オン・ユア・グレイヴ』など異色曲はあるものの、決してバンドの本道を外れるものではない。オープニングの『バック・アット・ザ・ファニー・ファーム』からラスト『ダイ・ユー・バスタード』まで。頭から突っ込んでいくサウンドが快感だ。
ちなみにロボが“音楽的”というイメージは、アルバムの内袋に付けられたコミックでも描かれている。ロボがいろんなコード進行を教え込もうとするとレミーとフィルシーが「面倒臭い」とばかり酒を飲ませ、全員でヘロヘロになって出発!という内容だが、実際に彼がそれほど品行方正でなかったことも事実である。1977年、シン・リジィ時代にはクイーンとの北米ツアーを前にして酒場の喧嘩に巻き込まれ、手の腱を切ったこともあったし、モーターヘッドに加入してからは髪を短くして赤く染め、パステルカラーのハーフパンツとバレエシューズといういでたちでステージに上がるなど、他のメンバーの精神を逆撫でする行動も見られている。彼はまた『エース・オブ・スペイズ』『オーヴァーキル』などのクラシックスをプレイすることを拒否するなど、トラブルが絶えなかった。
それに加えて彼はステージ上での集中力を欠くようになった。『レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー』によるとロボは『アナザー・パーフェクト・デイ』を演奏した後、続けて同じ曲のイントロを弾き始め、レミーに注意されると「ゴメン、悪い悪い」と言って、さらに同じ曲のイントロを弾き始めたという。結局ロボは1983年11月、ヨーロッパ・ツアーの途中で解雇。残りの日程はキャンセルとなった。その後モーターヘッドはフィル・キャンベルとワーゼルという2人のギタリストを迎えて活動を続ける。
もちろん『アナザー・パーフェクト・デイ』はそんな摩擦を感じさせない、40周年をセレブレーションされるに相応しい傑作だ。
ちなみにアルバムに伴うツアーからは1983年6月9日、シェフィールド公演が『Live 1983』として1991年に突如発表されている。さらに2006年に発売されたアルバムのデラックス・エディションには6月10日、マンチェスター公演、今回のアニヴァーサリー・エディションには6月22日、ハル公演のライヴが収録されている。いずれも曲目・演奏の大きな差はなく、新編成のバンドによる熱気溢れるステージを再体験することが可能だ。3公演それぞれ別売というのがファンの懐に厳しいが、まずは今回の再発で聴いてみて、気に入ったら他のテイクを聴いてみるのでも良いだろう。
なお初登場となるデモ・トラックの数々も未完成ゆえの生々しさを感じさせて楽しい。
フィルシーは2015年11月12日、レミーが同年12月28日に亡くなり、本作のラインアップで健在なのはロボ1人になってしまった。だが、このアルバムを聴き耽ることで、我々は40年前の“いつもの完璧な1日”に戻ることが出来るのだ。
発売元:Sanctuary
発売日:2023年11月3日
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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