今月の音遊人
今月の音遊人:松井秀太郎さん「言葉にできない感情や想いがあっても、音楽が関わることで向き合える」
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やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」
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2018.1.30
tagged: 管楽器, 楽器探訪AnotherTake, Venova, ヴェノーヴァ, Venova(ヴェノーヴァ), YVS-100
ヴェノーヴァの特徴的なフォルムをもう少し詳しく見ていきましょう。まず視覚的に引きつけられるのが「分岐管」。この分岐管があることで、ヴェノーヴァは円筒管(クラリネットなど、管の内側の太さが一定の管楽器)でありながら、円錐管(サクソフォンなど、管の内側の太さが広がっている管楽器)のような響きを出すことができるのです。
円筒管は楽器がコンパクトで大きな音孔は必要ないのですが、指使いが複雑です。一方、円錐管は、指使いはやさしいのですが音孔が大きくなり、指で塞げないためキイをつけるなど、楽器の構造が複雑になります。それに対してヴェノーヴァは、円筒管を分岐させることによって、やさしい指使いで豊かな音色と奥深い演奏表現を可能にしたのです。
次に興味がわくのは、蛇行している主管の形状。これは、「C管でソプラノリコーダーに似た運指」「演奏しやすさ」「シンプルで管楽器らしい造形」といったいくつものコンセプトを形にするために音孔の間隔を縮め、蛇行させたものです。
しかし、蛇行のさせ方は発音や音程に影響をおよぼします。2オクターブの音域と安定した音程、発音のしやすさといった条件をクリアする主管の曲げ方、音孔の位置や大きさなどが、試作を重ねるなかで導き出されていきました。
その過程で重要な役割を果たしたのが、ヤマハの高度な音響解析のシミュレーション技術と、長年にわたって培った管楽器製作のノウハウだったのです。
ヴェノーヴァの誕生は、楽器音響分野の基礎研究に長年携わってきたヤマハ株式会社研究開発統括部の増田英之さんが、分岐管理論に着目したことに端を発しています。「ひとつの長い管と、もうひとつの短い管を分岐させることで、近似的にサクソフォンの音が出せることがわかりました。この理論を応用すれば、分岐管を用いた管楽器が作れるのではないかと思いつきました」と、増田さんは振り返ります。
そして、発音と音程の両立をはかるためのシミュレーションを担当したのが同じくヤマハ株式会社研究開発統括部の末永雄一朗さん。「管の蛇行のさせ方ひとつでも特性が変わるので、シミュレーションと3Dプリンタによる試作を繰り返して調整し、発音と音程のベストバランスを探りました」
さらに、デザイナーや末永さんと連携しながら、楽器としての形を確立していったのは、教育楽器開発での経験が豊富な大野徹さん。「子どもも持ちやすいようにという視点を盛り込み、リコーダーのノウハウも取り入れながら、具体的な生産方法を模索しました。主管が蛇行しているヴェノーヴァは、リコーダーと同じ成型はできません。息漏れせず、安全に演奏できる楽器を作るために、蛇行管そのものを金型内で成型する方法に行き着きました」。
こうして、開発、デザイン、生産、販売など、それぞれの専門家が垣根を越えて一丸となり、技術力とアイデアと情熱を注ぎ込んだ渾身の新作、ヴェノーヴァは、約25年にわたる基礎研究と約2年の商品開発を経て、ついに世に送り出されたのです。
Take3ではヴェノーヴァの「購入してから吹くまで」を見てみましょう。
Take1:スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生
Take2:やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」
Take3:すぐに音を出せて、自由に演奏できる。管楽器の楽しみを多くの人に
Venovaは手軽に始められて、かつ本格的な演奏も楽しめる新しい管楽器。
<手軽>
・手軽に持って行ける、軽くてコンパクトなデザイン
・水洗いOK, お手入れも簡単
・リコーダーに似たやさしい指使い
<本格的>
・サクソフォンのような表現力豊かな音色と本格的な吹き心地
・シンプルな構造ながら2オクターブの音域
文/ 芹澤一美
photo/ 坂本ようこ
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