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「しあわせになろうよ」でも「なれるよ」でもなく、「なりたいね」という気持ちを歌にしました /石川さゆりインタビュー
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2020.4.21
おそらく多くの方が『津軽海峡・冬景色』『天城越え』などをカラオケのレパートリーに入れていることだろう。2020年3月で歌手生活48年目を迎え、数多くのヒット曲を世に送り出してきた石川さゆりの歌は、今や世代を超えて歌い継がれる存在だ。しかし細分化されたジャンルの中で「演歌歌手」というカテゴリーにとらわれてしまい、ひとつのイメージに固定してしまうのはいささかもったいないと思える。
それを証明する曲が2020年3月25日にリリースされた、通算126枚目のシングル『しあわせに・なりたいね』だ。自身の作詞(クレジットはKinuyo)、作曲はメディアプランナーなど幅広いフィールドで活躍する箭内道彦、編曲は山下達郎ほか多くのミュージシャンと共演するギタリストの佐橋佳幸。懐かしいフォークソングの味わいもあり、肩の力が抜けた歌い方も相まっていつの間にか一緒に口ずさんでしまう。
「今の世の中、混沌として先が見えないこともありますけれど、そういうときに誰かがぼそっと『しあわせになりたいねえ』なんてつぶやいていないかなと思い、シンプルな言葉で心の声を伝えるような歌にしたかったのです。私の歌は力強く何かを鼓舞したり歌いあげたりするタイプのものが多いのですが、一生懸命に生きていても思いもよらないことが起きてしまい『ガンバレって言われてもねえ』と愚痴りたくなることだってありますよね。そんな気持ちを代弁した歌かもしれません。みんなが求めている言葉をふんわりした毛布にくるんで伝えるような気持ちで、お花を差し出すように歌いたいのです」
ふとした瞬間に感じる繊細な感情をすくい上げ、それを言葉と歌に乗せていくような曲だが、そこには慈愛のような趣きも感じられる。曲名の真ん中にポンとうたれた点(・)も、ちょっとひと呼吸しましょうという心の余裕を感じさせるものだ。
「『しあわせになろうよ』でも『なれるよ』でもなく、『なりたいね』という気持ちに近いですね。これは『津軽海峡・冬景色』のとき阿久悠先生に教えていただいたことですが、点(・)がひとつ入ることでいろいろな風景が見え、読んだ方それぞれが自分のリズムで何かを見出すこともできるでしょう。日本人には元来『すみません』『ありがとう』という優しい言葉で周囲の方を大切に思う心がありますけれど、殺伐とした雰囲気の中であってもその優しさを見失いたくありませんし、ちょっとした呼吸や間を大切にしたいのです」
その一方、2020年2月19日に発売されたアルバム『粋~Iki~』は、『さのさ』『猫じゃ猫じゃ』『梅は咲いたか』など江戸文化を伝える端唄や都々逸の名曲をさまざまなテイストでアレンジし、21世紀的新感覚の流行歌として聴かせるという画期的なもの。石川自身のアイデアにより、童謡を集めた『童~Warashi~』(1988年発売)、民謡を集めた『民~Tami~』(2019年発売)とあわせた三部作である。
「令和の時代になり、最新のヒット曲やアニメなど日本の今を外国にアピールする文化はありますが、それとは別に日本人が生活に寄り添いながら大切に歌い継いできた音楽も、次の世代や世界へと伝えたかったのです。端唄や小唄、俗曲などは特に忘れ去られてしまいそうですが、粋なところやかっこよさを残している音楽ですし、それをさまざまなアレンジャーの方たちと一緒に現代風の味付けをすることで新しい世界が広がったと思います」
たしかにアルバムの冒頭、いきなりKREVAのラップやMIYAVIのロック・ギターが絡む『火事と喧嘩は江戸の華』を聴くだけでも、その意外なハマリ具合に驚かされる。かつて美空ひばりや江利チエミなどがチャレンジしたような、ビッグバンドジャズと日本の音楽との融合を彷彿とさせるトラックもあり、懐かしさとミスマッチ感覚から生まれた新しさが混在する斬新なアルバムになっているのだ。
「ひばりさんもネルソン・リドル・オーケストラと共演するなど、先輩方がジャンルに捕らわれることなく自由に音楽の世界を飛び跳ねていた姿はとても刺激的でした。そういう時代にお仕事をご一緒できたことも大きな財産ですし、私もその精神を受け継いでいきたいと思っています」
最後に、冒頭の「演歌歌手」という肩書きについて、率直な意見をうかがってみた。
「聴いてくださる方それぞれのイメージでいいと思いますが、演歌しか歌わないと思われてしまうのはもったいないかなとも思います。許されるなら『石川さゆりの歌』と思っていただけるとうれしいですね」
『しあわせに・なりたいね』
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2020年3月25日
料金:1,227円(税抜)
『粋~Iki~』
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2020年2月19日
料金:2,909円(税抜)
オフィシャルサイトはこちら
6月18日(木)よこすか芸術劇場(神奈川県)
6月21日(日)フェスティバルホール(大阪府)
6月22日(月)アクトシティ浜松(静岡県)
6月26日(金)サンシティ越谷市民ホール(埼玉県)
7月1日(水)名古屋国際会議場(愛知県)
7月8日(水)オリンパスホール八王子(東京都)
7月14日(火)札幌文化芸術劇場 hitaru(北海道)
7月15日(水)旭川市民文化会館(北海道)
公演は変更になる場合がありますので、詳細はオフィシャルサイトでご確認ください。
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