Web音遊人(みゅーじん)

サイレントブラス

“練習”の枠を超え人とつながる楽しさを「サイレントブラス」

音量をささやき声程度に抑えながら、いつもの吹奏感と、リアルな音色で演奏できる金管楽器専用の消音システム「サイレントブラス」。
さらに磨きがかかった音質と、利便性の高い機能で楽器演奏や音楽の楽しみ方を広げてくれる。

2つのサウンドモードと無段階リバーブがかなえるリアルな音と響き

1995年に初代モデルを発売して以来、金管楽器奏者の自宅練習をサポートしてきたサイレントブラス。2023年5月、2013年のモデルチェンジからおよそ10年ぶりに、ミュートを装着しない楽器本来の音と響きを再現するパーソナルスタジオを一新。パーソナルスタジオの新モデル「STJ」と、ピックアップミュートをセットにした「SBJシリーズ」として生まれ変わった。その背景には、ここ数年のコロナ禍によるライフスタイルの変化があったという。
「外出がままならず自宅で金管楽器を吹く人が増え、音量を落とせるサイレントブラスの需要が高まりました。ただオンラインレッスンやYouTubeへの演奏動画の投稿をしようとすると、パソコンとつなぐための機器を別に用意し、ひと手間かける必要がありました。『USBケーブルでパソコンとつなげられたら便利だな』という発想が出発点となり、開発が進んでいきました」と語る、戦略企画の鰕原えびはら孝康さん。
パソコンとつなぐことを想定するにあたり、オンラインレッスンの先生や演奏動画の視聴者に聴かせるためのサウンドモードを新たに開発。用途に応じて、奏者が聴くための「プレイヤーモード※1」と、視聴者に聴かせるための「オーディエンスモード※2」を切り替えられるようになった。
※1 プレイヤーモード:楽器を構えたときのベルの位置、向きなどを含め、奏者が自然に感じる音を再現。練習に適したモード。
※2 オーディエンスモード:聴き手の左右の耳に音が届くタイミング、音量、音色の差を調整し、客席で聴いているかのような音を再現。演奏音をパソコンなどに取り込み、出力するのに適したモード。

音づくりの鍵を握るのは、2013年のモデルチェンジより採用されているヤマハ独自の音響技術「ブラス・レゾナンス・モデリング※3」。この技術を生み出し、今回の開発で音づくりのディレクションを担当した篠田亮さんが教えてくれた。
※3 ブラス・レゾナンス・モデリング:音のこもりを補正し、ミュートを付けていない状態の音色を再現する音響技術。今回の開発では、対応するさまざまな金管楽器の音響特性を改めて見直し、より自然な音色を実現している。

「ブラス・レゾナンス・モデリングは、あくまでも奏者自身に心地良い音を届けるための技術ですが、“奏者の耳に届く音”と“聴衆の耳に届く音”は異なります。オンラインレッスンや演奏動画の投稿をする際は、楽器から離れたところにいる人が聴く音が必要になりますので、視聴者用のサウンドモードを新たに開発し、搭載することになりました。なお、もともとあった奏者が聴く音(プレイヤーモード)にも磨きをかけていますが、ここ10年のデジタル技術の進化もあり、それぞれの楽器の音響特性を踏まえた音の表現力がさらに上がりました」(篠田さん)

サイレントブラス

写真左より、戦略企画の鰕原孝康さん、ブラス・レゾナンス・モデリングを用いた音づくりを行った開発の篠田亮さんと秋山愛美さん、マーケティングの堀場信明さん。皆さん管楽器奏者であり、奏者の立場に立って開発を行った。

異なる“音のイメージ”をどう共存させるか

サイレントブラスは、さまざまな金管楽器に対応している。ひとつの楽器につき「プレイヤーモード」と「オーディエンスモード」の2つを搭載するため、合計12種類の音づくりをする必要があった。
音づくりにおいては、ヤマハの金管楽器の設計者、レコーディングエンジニア、そして開発チームが集結。プロのアーティストの試奏評価を何回も得ながら音色を決めていったという。
「楽器によって異なるベルの位置や向き、管の長さ、テーパー(管の広がる角度)など、音響特性を踏まえた音づくりをしたつもりでも、なかなかリアルな音と響きが再現できず苦労しました。また今回の開発では音のリアルさ、生々しさを追求しましたが、プロのアーティストの評価は高くても、社内のアマチュア奏者からは『もう少しふくよかな音のほうが楽しく練習できる』といった意見があり、音のリアルさと、さまざまな奏者の聴き心地の良さのバランスをどう取るか試行錯誤を重ねました」と語るのは、楽器の音響特性測定や音の加工・調整を担当した秋山愛美さん。
また同じ金管楽器奏者でも、演奏する音楽ジャンルによって音の捉え方や音に対するイメージが違うことも重要な要素となった。
「私はジャズ系のバンドでトランペットを吹いていますが、クラシックや吹奏楽の奏者とは音に対するイメージが全く異なります。オーディエンスモードで聴衆が聴く音についても、ジャズ系の奏者はベルの前にマイクを置いた生々しい音、クラシックや吹奏楽の奏者はコンサートホールの客席で聴いているような柔らかい音をイメージします。今回の開発で、異なるふたつの音のイメージを共存させる際ポイントになったのは、無段階で調整できるよう改良したリバーブです。奏者自身で細かい響きの設定をすることで、自分の音のイメージにより近づけることが可能になりました」(篠田さん)
加えて、実は多くのこだわりが詰まっていると明かしてくれたのが、音の出口である付属のイヤホン。
「当初は音づくりの開発チームで試行錯誤していましたが、納得できる音質にならず、ヤマハのイヤホン・ヘッドホンの開発チームに監修を依頼しました。ヤマハのイヤホン・ヘッドホンの技術、知見が盛り込まれており、サイレントブラス専用のチューニングを施すことで、高音域を中心に、音の鳴りと響きが格段に良くなりました」(篠田さん)
さらに奏者にとっての心地良い響きを考え、耳を完全にふさがない形状(インナーイヤー型)を採用し、オンラインレッスンで便利なマイク機能も搭載。細部に至るまで、使い手のことが考えられている。

サイレントブラス

(写真左)高い消音性、広音域にわたる音程の安定性を保ちながら、小型化、軽量化を実現したピックアップミュート。存在を意識せず演奏に集中できる。(写真右)ベルの中に収まるコンパクトなミュートは、装着したままケースに収納できる(一部の楽器、モデルを除く)。

サイレントブラス リバーブダイヤル

リバーブは、響きの少ない「ルーム」、豊かな響きの「ホール」の2種類がある。さらに残響効果のかかり具合を無段階で調整できるリバーブダイヤルにより、細かい響きの設定ができる。

誰かと音楽を共有することで楽器演奏の楽しさがさらに広がる

迫力ある輝かしい響きが金管楽器の魅力だが、防音設備のない自宅で吹くのは難しい。時間や場所を気にせず楽器を吹けるようになることは、全ての奏者の切なる願いだ。
「金管楽器は奏者の唇が発音源で、全身を使って音を出し、音楽を表現できるところが魅力だと思います。ただ、思い切り音を出したくても自宅では難しく、音量を加減しながら吹いても楽しくない……。そんな奏者のジレンマを解決するサイレントブラスは革新的な製品で、ミュートを付けていないかのような自然な吹奏感と、さらに良くなった音質で演奏することができます。ぜひ日々の練習、演奏に役立てていただきたいです」と、マーケティングを担当する堀場信明さん。
また新しい「SBJシリーズ」は、パソコンやスマホなどのデバイスとつなぐことで、練習用ミュートの枠を超えた楽しみ方ができる。
「自宅で、ひとりで楽器を吹いても、得られる楽しさには限界があると思います。パソコンと直接つなげられる『SBJシリーズ』は、遠方の先生のオンラインレッスンを受けたり、演奏動画をYouTubeにアップしたり、ほかの人の録音に自分の音を重ねたり、ケーブル1本で多くの人と音楽の楽しさを共有できます。サイレントブラスが、奏者と世界の人をつなぐハブのような存在になってくれたらうれしいです」(鰕原さん)
サイレントブラスは、金管楽器に触れる時間を増やしてくれるだけでなく、世界中の仲間とつながることで、楽器を演奏する楽しさを無限に広げてくれそうだ。

サイレントブラスの仕組み

サイレントブラスとは、「ピックアップミュート」(消音器)と、「パーソナルスタジオ」(ヘッドホンアンプ)から構成される金管楽器専用の消音システム。音量を抑えながら、ミュートを付けていないかのような音と響きを実現する。

サイレントブラス

①ピックアップミュート
音の出口であるベルをふさぎ、音量をささやき声くらいに抑えるアイテム。管の中に入れた先端部の小型マイクが演奏音を拾い、パーソナルスタジオへ送る。
中央右下にある小さな穴が息の抜け道を作り、心地よい吹奏感を生む。

②パーソナルスタジオ「STJ」
ピックアップミュートで取り込んだ演奏音をリアルタイムでデジタル処理し、音質や音の聴こえ方を調整、イヤホンなどに出力する装置。

③外部機器とつなぐと楽しさが広がる
パーソナルスタジオ「STJ」は、付属のUSBケーブルでパソコンと接続できる。リモート会議アプリを使ってのオンラインレッスンや、無料アプリ「Rec’n’Share」での録音・録画、編集、SNSへの投稿などが手軽に楽しめる。
※スマホ、タブレットと接続する場合は別途アダプタが必要

SBJシリーズ

サイレントブラス
※写真はトランペット用のサイレントブラス「SB7J」

さらに音質がアップし、USBケーブルの接続が可能になったパーソナルスタジオ「STJ」と、ピックアップミュートをセットにした新シリーズ。パーソナルスタジオ「STJ」は6種類の金管楽器共通のアイテムで、使用する楽器のミュートを接続するとその楽器のプログラムが自動選択されるようになっている。

詳細はこちら

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:今井美樹さん「私にとって音楽は、“聴く”というより“浴びる”もの」

7032views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase10)ミヨーとジョビンのサウダージ、見出されたブラジル、ボサノバの発明

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase10)ミヨーとジョビンのサウダージ、見出されたブラジル、ボサノバの発明

2102views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

自宅で一流アーティストのライブが楽しめる自動演奏ピアノ「ディスクラビア エンスパイア」

59290views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

24139views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

8577views

オトノ仕事人

子ども向けコンサートを企画し、音楽が好きな子どもを増やす/コンサートプロデューサーの仕事

8825views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

15191views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3339views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20401views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2132views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8207views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31387views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

8049views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

32201views

演奏と語りの名手たちが、詠み、演じ、そして踊った。NHK交響楽団メンバーによるストラヴィンスキー「兵士の物語」

音楽ライターの眼

演奏と語りの名手たちが、詠み、演じ、そして踊った。NHK交響楽団メンバーによるストラヴィンスキー「兵士の物語」

5673views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

13611views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7128views

楽器探訪 Anothertake

世界の一流奏者が愛用するトランペット「Xeno Artist Model」がモデルチェンジ

27036views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

9081views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8694views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

10653views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14687views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26351views