Web音遊人(みゅーじん)

横浜レンタル倉庫(YRS)

われら音遊人:目指すはフェス! 楽しみ、楽しませ、さらなる高みへ

育休・産休ありで自由な“社風”

おそろいのツナギに身を包んだメンバーたちが演奏するのは、オリジナルのロック。ツインギターにアルト、テナー、バリトン2本のサクソフォン……、総勢10人によるインストが分厚い音を響かせ、グルーヴを紡ぎ出す。彼らのバンド名は、「横浜レンタル倉庫(YRS)」。社名を冠し、会社仲間で結成したバンドかと思いきや、予想外の言葉が返ってきた。
「バンドを始めた当時、スタジオ近くにあった居酒屋『養老乃瀧』で、練習後に毎回打ち上げをしていたんです。それで『YR』。ただ、そのまま『T』ではつまらないので、スプラッシュの『S』になりました」とふるふるさん(テナーサクソフォン)は笑う。

その後、「会社のような名前に変えない?」というコバ助さん(パーカッション)の軽い気持ちの発案により「横浜レンタル倉庫」に改名。
練習や活動拠点が横浜にあったわけでもなく、横浜在住のメンバーすらおらず、もちろん倉庫も無関係。音楽には真剣、でもノリはあくまでも軽やかだ。新たな名が決まるとともに、ユニフォームにもそれにふさわしいツナギが採用された。
「私たちには“産休”や“育休”もあるんですよ。無給ですが(笑)」
と教えてくれたのはともみさん(キーボード)。コバ助さんも3年間の“育休”を取ったという。その後、成長した子どもを練習に連れてくることも。「父親が退職したら子どもが入社」とひとりが言えば、「うちに世襲制なんかあった?」とツッコミが入る。そこには、自由な“社風”が満ちている。

そもそもバンドの母体となったのは、ダンサーのライブやイベントでバックバンドを務めていた、ふるふるさんとコバ助さん、カオリさん(ドラム)の3人だ。そこにメンバーとつながりがあった、ともみさんらが加わった。

メンバーのほとんどは幼い頃から何らかの楽器経験があり、社会人になって一度中断、再開したという音楽歴をもつ。そんな中にあって異色なのが、おがわさん(アルトサクソフォン)だ。
「中・高校ではバンドに憧れながら指をくわえて見ている側でした。何かやりたいという思いを心に抱えて成長して社会人になり、40歳になってヤマハの音楽教室に通い始めました。まさか、40代後半になってバンドデビューするとは」。ちなみにサクソフォン担当の4人は全員、ヤマハの音楽教室で出会った仲間だ。

横浜レンタル倉庫(YRS)

練習は長年同じスタジオで。メンバーの仕事の都合に合わせ日曜日に。

演奏者からパフォーマーに

バンドの結成は、2009年。当初はファンクやソウルのカバー曲を演奏していたが、そのカラーを変えたのがロック・バンドのメンバーとしてメジャーデビュー経験もあるノリオさん(ギター)の加入だった。
「どうせやるなら、自分たちの音楽をつくったほうが面白いですよね。昔から曲をつくるのが好きで、ロックの色をどんどん入れていきました」

ノリオさんが持ち込んだ曲を、メンバーみんなでアレンジする。かくして、ロックのオリジナル曲を演奏する大所帯のインスト・バンドという今のカタチを確立していった。

現在の主な活動は年2~3回のライブやイベントで、固定ファンも多い。2023年は音楽フェス「渋谷ズンチャカ」にも出演し、渋谷の街を揺らした。

練習はメンバーそれぞれの自宅の真ん中に位置するスタジオで、月2回実施。もちろん、練習後の打ち上げは欠かせない伝統行事だ。
「いつもの場所にいつもの人がいつものように集まる。それだけで楽しい」とカオリさん。さらに、彼らは楽しさの先も見据えていた。
「歌モノもやっていきたいし、ライブでもっと場慣れしてサマソニなどのフェスに出たいとみんなで話しています」(ノリオさん)

それぞれ自分ができることを持ち寄り、メンバー全員がひとつの方向を向いて進んでいる。
「ライブが発表会を超えるには、演奏者からパフォーマーになり、いかに会場の人たちを巻き込んでいくかを考えていかなければならないと思っています」(ふるふるさん)

始まりの一歩を踏み出した彼らは、大きなグルーヴを生もうとしている。

横浜レンタル倉庫(YRS)

2024年1月21日に行われたライブ風景。

横浜レンタル倉庫(YRS)のQ&A

Q.バンドを長く続ける秘訣は?
細かいことに干渉し合わないことでしょうか。仕事も年齢も好きな音楽のジャンルもバラバラですが、無理やり合わせたり、押しつけたり、否定したりすることはありません。あとは、打ち上げのためにやっているバンドなので(笑)、練習スタジオの近くにおいしい飲み屋さんがあることですね。

Q.バンドを躊躇している方へのメッセージは?
もし、年齢が気になって二の足を踏んでいるということでしたら、たとえ年を重ねていても諦めないことが大事だと思います。とにかくやってみればいいじゃん、という感じです。意外とやれるもんですよ。音楽は若者のものだけではないですし、自分たちが元気にやって、逆に若者を巻き込んでいければいいと思っています。

バンド紹介

●楽団名:横浜レンタル倉庫(YRS)
●結成時期:2009年
●活動内容:年2~3回ライブやイベントに出演。2023年は「渋谷ズンチャカ」に出演
●練習頻度:月2回、日曜日
●年齢構成: 30代半ば~58歳
●メンバー:ふるふる(テナーサクソフォン)、おがわ(アルトサクソフォン)、ノリオ(ギター)、ゆうちゃん(ギター)、ジェイ(ベース)、ふみふみ(バリトンサクソフォン)、きくりん(バリトンサクソフォン)、ともみ(キーボード)、コバ助(パーカッション)、カオリ(ドラム)の10人。

オフィシャルFacebook YouTube公式チャンネル

仕事を持ちながら音楽を楽しむ「われら音遊人」大募集!

音楽情報誌「音遊人」とWebマガジン「Web音遊人」にご登場いただける、仕事をしながら活動を続けているアマチュアバンドや楽団を募集しています。ジャンルは問いません。ぜひ、取材にご協力ください。
詳細はこちら

photo/ 坂本ようこ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」

21718views

音楽ライターの眼

ルイ・クープランの魅惑的なチェンバロ音楽を自然体で表現するクリストフ・ルセの妙技

4800views

アコースティックギター「FG9」

楽器探訪 Anothertake

力強さと明瞭さが拓くアコースティックギターの新たな可能性

4438views

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

楽器のあれこれQ&A

これからアコースティックギターを始める際のギターの選び方や準備について

18100views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

14784views

NHKのど自慢

オトノ仕事人

歌とともにその土地の風土と新鮮な人間ドラマを伝える「NHKのど自慢」/長寿の歌番組をつくる仕事

3366views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

26869views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8690views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11579views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6616views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8880views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11745views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11679views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27300views

パリで学んだ共通のルーツを持つ注目の若手実力派が贈る魅惑の音楽旅行!!/笹沼 樹&秋田勇魚 デュオ・コンサート

音楽ライターの眼

パリで学んだ共通のルーツを持つ注目の若手実力派が贈る魅惑の音楽旅行!!/笹沼 樹&秋田勇魚 デュオ・コンサート

685views

金谷かほり

オトノ仕事人

ひとりとして取り残すことなく、誰もが楽しめる世界を創出/演出家の仕事

1091views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

5993views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

7034views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20264views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

9352views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

9979views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12393views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34868views