今月の音遊人
今月の音遊人:児玉隼人さん「音ひとつで感動させられるプレーヤーになれるように日々練習しています」
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2021年10月、「第18回ショパン国際ピアノコンクール」で第4位入賞という快挙を成し遂げたピアニストの小林愛実さん。美しい音色と歌心に満ち、研ぎ澄まされた集中力によって紡ぎ出された演奏は多くの人々の心を打ちました。そんな小林さんにとっての音や音楽についてのお話は、演奏にも通じるものがありました。
何か特定のものというよりも、弟が車の運転中に聴いているものなど、日常で流れている曲をなんとなく耳にしていることが多いので、“これ!”というのが難しいですね……。しいて言えば、勉強のために色々な演奏家の音源を聴いたり練習のときに弾いたりしているものが、頭の中でずっと流れています。最近では、やはりショパンコンクールが終わったばかりということもあり、圧倒的にショパンですね。特によく弾いている『ピアノ協奏曲第1番』が一番聴いた曲でしょうか。ショパンの作品の中では『ピアノソナタ第2番』が大好きで、いろいろな演奏家の音源を聴いてきました。第1楽章はユリアンナ・アヴデーエワ、第2楽章はチョ・ソンジンなど、楽章ごとにお気に入りの演奏が違ったりします。演奏会で弾いたばかりのドヴォルザークの『ピアノ五重奏曲イ長調』もずっと頭の中で流れていますね。
音楽は私の人生を表すものですね。音楽は同じ曲を何度演奏しても毎回違うものですし、私の人生も刹那で移り変わっていますが、両者は常に重なっているように思います。ときどき、音楽は私自身なのかもしれないと思うことがあります。自分の感情を素直に出せますし、私が私であり続けることができます。ただ、“かけがえのないもの”というような表現とは少し違います。もっと自然に、そこにあるものなんです。“ない”ことは考えられないですし、いつか年を重ねて演奏活動から離れるようになったとしても、ピアノはずっと弾き続けていると思います。
そして音は、自分の理想を追い求める対象です。一音一音、その曲でどういう音が出したいのか。練習中はそれを常に探しています。その作り上げてきた音に演奏する環境が揃ったとき、“これだ!”というものが出せるんです。実はショパンコンクールのときもそれがありました。弱音がとても弾きやすいホールで、欲しいと思う音を出すことができました。特に第3次予選の『前奏曲集』ですね。ものすごく多彩な作品でいろいろな音が必要なのですが、それを表現することができたと思います。その中でも第15番の『雨だれ』はずっと試行錯誤していたのですが、コンクールのときは、曲に思い描いていたストーリーを納得いく形で演奏できたので、とてもうれしかったです。
音がきれいな人、多彩な音を持っている人だと思います。演奏は、構成力や歌いまわし、コントラストにテンポなど様々な表現で届けることができますが、その人独自の“音”を持っている人は、それだけでもいろいろな世界を創り出して見せてくれます。例えばアンドラーシュ・シフとかダニール・トリフォノフ、そして藤田真央さんなどがそういう人かなと思います。聴いた瞬間に“この人だ”という音を持っていますし、それこそ“遊んでいるような”音を出せる人たちですよね。
小林愛実〔こばやし・あいみ〕
1995年山口県生まれ。9歳で国際舞台デビューし、カーネギーホールなど世界中のホールでリサイタルを開催し高い評価を受け、国内外のトップオーケストラと多数共演を重ねる。2015年に「第17回ショパン国際ピアノコンクール」でファイナリストとなり、2021年開催の第18回では第4位入賞を果たした。2018年にはワーナークラシックスとのインターナショナル契約を結んでおり、既に2枚のディスクをリリース。今後さらなる世界的な活躍に期待がかかっている。
オフィシャルサイト
文/ 長井進之介
photo/ Makoto Nakagawa
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