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ベートーヴェンの生涯を描いた舞台『No.9-不滅の旋律-』再々演。壮大な音楽表現も大きな見どころ!
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2020.12.22
卓越した才能ゆえに波乱の人生を送ったベートーヴェン。舞台『No.9-不滅の旋律-』は、そのベートーヴェンが30歳で開いた初の演奏会(1800年)に始まり、“第九”を書き上げたあとの晩年56歳(1827年)までの半生を題材にした作品だ。
2015年、稲垣吾郎主演で初演され、2018年に再演。そして、ベートーヴェン生誕250周年の2020年再々演が決まり、大きな感動を呼んでいる。
狂気と運命、そして歓喜――迫真の演技とともに、魂を揺さぶるダイナミックな音楽表現も大きな見どころだ。演出の白井晃、ピアニストの末永匡、梅田智也に舞台やベートーヴェンへの思いを伺った。
舞台の上手、下手に配置された2台のピアノ。舞台上に俳優とともにピアニストを配し、音で共演するという意欲的で新しい演出を立案したのは、クラシック音楽にも造詣が深い白井だ。
劇中では『悲愴』『熱情』、さらに人生最後のピアノソナタである『第32番』など30曲以上のベートーヴェンの楽曲が演奏され、一曲一曲がふたりのピアニストによってリレーのように弾き継がれる。その音色は舞台の上手から、下手から、そしてときにユニゾンしながら美しく響き、20人のコーラスが“第九”を歌い上げてクライマックスを迎える。
「大幅に演出を変えることはしていなくて、初演、再演の成果を積み重ね、よりブラッシュアップしたものになっています。ただ、稽古中にピアニストのおふたりにいきなり頼み込んで、1曲だけ変更しました。それは『第29番』。ピアノソナタのなかでも大変な楽曲だと聞いて、どうしても入れたくなって……。おふたりにはご苦労をおかけしました」と白井は笑みを浮かべる。
そのピアニストのひとり、末永は初演からこの舞台に参加している。
「初演のときは、初めて舞台という作品に携わらせていただき、ベートーヴェンのピアノソナタという自分がふだん弾いているものが、作品にどのように生かされていくのかワクワクしました。今回は再々演ですが、僕には同じ『No.9』とは思えなくて。ストーリーは同じですが、感情というものがさらに深く、ときには鋭くなっていると思います。そういった意味では、これまでとはまったく違う新しいものをつくろうという気持ちでした」
一方の梅田は、今回が初参加となる。
「僕にとっては初演ですから、作品を自分なりに深く理解しようという姿勢は意識しました。役者さんの感情に合わせてこちらの感情もシンクロするように、一緒につくり上げる感覚は大切にして取り組んでいます。また、パートナーからのバトンタッチがあって、その感情を受け継ぐわけですから、それをキャッチできると結果的に自分の演奏も変わってきます。稽古では、それが毎回楽しみのひとつでもありました」
受け渡しをする末永も、またすてきなパートナーに出会えたと顔をほころばせ、こう続ける。
「ピアニスト同士の刺激だけでなく、総合舞台の全員が影響し合い、刺激し合って作品が生まれていくという感覚があります」
それは、演出を手がけた白井が重きを置くところでもあるようだ。
「ピアノの音色を通して俳優も刺激されて感覚が変わったり、逆に俳優の演技によっておふたりが刺激されて、深く入っていったりと変化しますよね。それが魅力であり、生でやっている意味だと感じます」
その白井は、ベートーヴェンの楽曲はすべて彼の生活から生まれた日記のようなものだと捉えている。
「俳優には、今のこのピアノソナタの一音があなたの心象だということを伝えてきました。それは、楽曲のすべてがベートーヴェンの心象がもとになっていると考えるからです。そのことがこの作品での一番大切なポイントになっていて。ピアニストのおふたりにはそれを体現していただいて感謝しています」
ピアニストにとって、舞台といういつもと違った環境での演奏は、コンサートやリサイタルとどう違うのか。その答えは意外にも「ふだんとほとんど変わらない」だった。
「BGMじゃないということは意識していますね。もちろんBGMは大切な役割のひとつではありますが、今回は“共演”だと思っているんです。その相手がビオラやクラリネットではなく、声や動きである。表現媒体は違うけれど、そこには必ず感情のやり取りというものがあり、ふだんとまったく違ったものをやっているということはないですね」(末永)
「僕がベートーヴェンの楽曲を演奏するときに、一番気を付けているのは感情です。音楽には必ず感情が付随されていて、それを感じるからこそ自分の指先から出る音色に直結し、お客様にダイレクトに伝わると思っています。台詞に合わせるということ以外では、ソロでやるときも今回もそういう面ではまったく一緒です」(梅田)
そんな梅田にとって、ベートーヴェンは“すばらしいというレベルでは表現できない”特別な存在。一方の末永にとっては長い間、ひたすら偉大な音楽家だった。
「作品があまりに偉大であるがゆえに、音楽的な側面からしかベートーヴェンを見ていなかったかもしれない。その偉大さばかりが先行しがちでしたが、この舞台に携わるようになって“人間”ベートーヴェンを感じるようになりました。それは、余白とか人間的な温もりといった音がもつ幅広い表現を僕に与えてくれました」
今回の『No.9-不滅の旋律-』ではヤマハのグランドピアノS3Xが使用され、調律もヤマハがサポートすることになった。よりよい響きを求めた結果だと白井はいう。
「レンジも広いですし、タッチも整っていて。楽器は僕たちのパートナーですから、いい表現につながればと思っています」(梅田)
「いろいろな感情や表現を生むことを可能にしてくれるピアノだと思います。音づくりは楽器やピアニストだけがするものではなく、調律師さんの力添えがないと絶対に超えられない壁があります。ベートーヴェンの楽曲を演奏するにあたり、すばらしい技術をお持ちの調律師さんにお願いして、あえて音を揃えずにいろいろな楽器を連想させる音が出せるようにお願いしました。そうした変化が可能なすばらしいピアノでもあります」
今回の再々演にあたり、『No.9-不滅の旋律-』は2020年11月にウィーンでの開幕を予定していたが、世界情勢を考慮して中止を決断。細心の注意を払っての東京公演は、生の舞台を体感できる待ちわびた機会になるだろう。
「ライブでしか味わえない魅力をもった作品になったと自負しています。こういった時代なので、生で見ていただく最大の喜びをお渡しできればと思っています」(白井)
「作品は生き物のように変わっていきます。初演、再演を観劇してくださった方も、新しい『No.9』を楽しんでいただけると確信していますので、それをぜひ同じ空間で味わえたらと思います」(末永)
「名曲とともにいろいろな感情を、ご自身の心に照らし合わせて聴いていただけたらと思います」(梅田)
2020年を締めくくる“第九”は、かつてない特別なものになるはずだ。
舞台『No.9-不滅の旋律』
公演期間:2020年12月13日(日)〜2021年1月7日(木)
会場:TBS赤坂ACTシアター
料金:S席13,000円、A席10,000円(いずれも税込)
演出:白井晃
出演:稲垣吾郎、剛力彩芽、末永匡(ピアノ)、梅田智也(ピアノ)ほか
曲目:ベートーヴェン/ピアノソナタ第8番『悲愴』、ピアノソナタ第23番『熱情』、ピアノソナタ第32番、交響曲第9番 ほか
オフィシャルサイトはこちら
文/ 福田素子
tagged: ベートーヴェン, No.9 不滅の旋律, 白井晃, 末永匡, 梅田智也, 稲垣吾郎, 剛力彩芽, 舞台
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