Web音遊人(みゅーじん)

連載19[多様性とジャズ]我が名を付けたアルバムの革新性とミンガスのリーダーシップ

もうひとつのエピソードは、アルバム『ミンガス』について。

チャールズ・ミンガスには“ミンガス”という自分の名前が付いているアルバムがいくつかあって(というか、けっこういっぱいリリースしている)、それもまた彼が“活動家”として最前線に身を置いていた(置こうとしていた)証拠にもなるだろう。つまり、自らの名を晒すことによって“抗議行動”としていたという解釈だ。

なかでもズバリ、『ミンガス』というタイトルのアルバムがある。

レコーディングは1960年、参加ミュージシャンは11名で、オリジナル・リリース(1961年)では3曲が収録されている(後のリイシューでは1曲追加)。

テッド・カーソン、ジミー・ネッパー、チャールズ・マクファーソン、エリック・ドルフィー、ブッカー・アーヴィンら“ミンガス・ダイナスティ”おなじみの面々が、ビバップ~ハード・バップで定型化された“アドリブ”の概念を明らかに打ち壊すかのように、与えられた“曲”という“場”のなかで自由気ままに“おしゃべり”を繰り広げているのだ。

リーダーのミンガスはもちろん、演奏が破綻しないようにまとめる必要性は感じているだろうけれど、それが演奏者の“制約”にならないよう、細心の注意を払っていることが伝わってくる。つまり、手綱の引き方が絶妙なのである。

それがあるからこそ、1曲20分近くの大作『MDM』で示したコレクティヴ・インプロヴィゼーションの進化形と言うべきパフォーマンスも、13分におよぶスタンダード・ナンバーの『ストーミー・ウェザー』における“ジグソーパズルのピースをまき散らしていながらそこに描かれる完成形の絵が見え続けている”という異次元的なメンバー間のコラボレーションも、可能にしているのだと思う。

さて、うっかりチャールズ・ミンガスのアルバム『ミンガス』について熱を込めて語ってしまったのだけれど、実はこのアルバムについて語る予定ではなかった。

『ミンガス』というアルバムが別にあって、それはチャールズ・ミンガスの手によるものではないのだけれど、ミンガスにとても関係が深く、しかしミンガスという存在を抜きにしてもジャズ/フュージョンの歴史に名を残すだけの内容の作品だったことについて語ろうと思っていたのだが……。

それは次回。

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富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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