Web音遊人(みゅーじん)

アレンジャーの個人史であり、日本のポップスの歴史/船山基紀が作品集を発表

沢田研二『勝手にしやがれ』、少年隊の『仮面舞踏会』など、記憶に残るイントロや刺激的なアレンジを次々に生み出し、その功績が改めて注目されている編曲家、船山基紀。初の作品集『船山基紀 サウンド・ストーリー 時代のイントロダクション』が発売されたのを機に、その華麗なる音作りの秘話を明かしてくれた。

アレンジャーの原点は「ヤマハ音楽振興会」

船山が編曲家になる道を開いたのは、早稲田大学在学中からアルバイトで入り、そのまま就職したヤマハ音楽振興会だった。『ポプコン』の愛称で知られた『ポピュラーソングコンテスト』を主催していた振興会。船山の仕事は、譜面で応募された楽曲を演奏して判断できるようにアレンジすることだった。「フォーリズム(4人編成のバンド)だとアレンジに大きな個性が出ないもの。でも、一味違うものも出せるんだなと思った」。そう船山が刺激を受けたのは振興会の先輩、萩田光雄だった。萩田と船山は、ポップス編曲家の二大巨頭。その二人は若き日、振興会で切磋琢磨していたのだ。
名門ジャズサークルでサクソフォンを吹いていた船山にとって、日本を代表するサクソフォン奏者、渡辺貞夫との出会いも大きな喜びだった。当時の渡辺は米バークリー大から帰国し、習得したジャズの理論を振興会で定期的に教えていたのだ。「僕はそのときのお茶係をしていたので声をかけてもらい、家に押しかけたりもした。貞夫さんがバークリーで取ったノートはすごくきれいで、僕も手書きで写していまだに家にあるんです」。後に、田原俊彦、少年隊、KinKi Kidsなどジャニーズ事務所のアイドルの曲を多数手がけた船山。「まさかその時の理論が、ジャニーズのブラスアレンジでバンバン使われるなんて思わなかっただろうね」と笑う。

優れた演奏家たちがいてこそのアレンジ

発売された4枚組みの作品集では、Disc1にポプコン出身者の楽曲がズラリと並んでいる。クリスタルキング『大都会』、円広志『夢想花』、庄野真代『飛んでイスタンブール』のほか、石井まゆみ、赤ずきんなどの貴重な楽曲も収録している。渡辺真知子『迷い道』では、歯切れのいいピアノが印象的だが、これはこの頃の船山アレンジに特徴的だ。「ピアノのハネケン(羽田健太郎)がいたからこそ出来たことなんです。難しい装飾音も全く濁らず弾いてくれる。1970年代は素晴らしいミュージシャンに囲まれ、全てを吸収していた修業の時代でしたね」
Disc2は、田原俊彦『ハットして!Good』、五輪真弓『恋人よ』など1980年代初等の楽曲を収録。「この頃は、シンセサイザーを使えるピアニスト、矢嶋マキが頼りでしたね」。音質に対するこだわりも向上、中島みゆき『悪女』のクリアな響きが印象的だ。

コンピューターと人間力

「ヤマハのDX7というシンセサイザーが出てから、日本の音楽界がガラっと変わったんです。DX7を4台ぐらい並べて使ったこともある」。Disc3以降は「ザ・船山サウンド」というべき派手な音作りが完成する。当時最新鋭のシンセサイザー、コンピューターを駆使した『仮面舞踏会』(少年隊)、『Romanticが止まらない』(C-C-B)、『淋しい熱帯魚』(Wink)などが収録されている。「僕を入れてマニュピレーター3人体制でやっていました。『仮面舞踏会』は少年隊のデビュー曲としてものすごく期待が大きかったから、誰が聴いても批評できないような、訳が分からないイントロを作ろうと思った。キーボードの大谷和夫さんが苦労しながら弾いてくれました」
現在は主に、船山が一人でコンピューターと向き合って制作する。「でも、これだと結局、コンピューターの性能以上のことはできないんです。人間力が足りない。音楽は人間の揺らぎがあってこそだと感じるんです」。少し寂しそうに語る船山だが、50年近い日本のポップス界の変化を知る意味でも貴重な作品集だ。

■インフォメーション

アルバム『船山基紀 サウンド・ストーリー 時代のイントロダクション』

発売元:ソニー・ミュージックダイレクト
発売日:2020年12月16日
価格:11,000円(税込)
詳細はこちら
オフィシャルサイトはこちら

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