Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人 千住真理子さん

今月の音遊人:千住真理子さん「いろいろな空間に飛んでいけるのが音楽なのですね」

演奏活動はもちろん、ラジオのパーソナリティや執筆、講演など、幅広い活動を通して自身のメッセージを伝え続けているバイオリニスト、千住真理子さん。2015年、デビュー40周年を迎えた千住さんに、音楽への思いをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

バッハの作品すべてですね。これまでもっとも多く聴き、弾いてきました。コンクールで弾いたのもバッハですし、デビューしたのもバッハ。私の分岐点には必ずバッハがあって、何かにつけ、バッハに導かれたり、バッハに挫折したり……。はじめは純粋に好きになり、だんだん見えなくなったり、でもときには見えたりを繰り返しながら、相手に対する思いが深まっていく。
それはまるで人対人の関係にも似ていますが、人と違うのは、バッハに限らず、音楽って永遠に片思いなのです。あまりに素晴らしくて、近寄ろうとして蹴飛ばされたり傷ついたり、あるいは癒されたり抱きしめられたり。音楽にいろんなことをされながら、だんだん離れられなくなっていくのです。
私は5年ごとに、バッハの無伴奏ソナタ&パルティータの全曲を一晩で演奏するリサイタルを行っています。5年という節目を点にして、点から点を線に繋いでいくように、バイオリニストとしての人生を歩んでいこうと思っています。
5年という点と点の間にいろいろな経験をすることによって、演奏も変わります。たとえば今ならモーツァルトの魅力に出会っていますし、もちろん他の作曲家からも多くの影響を受けています。バッハから離れていろいろな経験をして、またバッハに戻ったときに、以前とは違う気持ちでバッハに接することができるのです。

Q2.千住さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽って空に浮かぶ星のように、それぞれの作品がまったく異なる輝き方をしていて、その魅力が私を離さない……そんな存在ですね。私はクラシック以外にもいろいろな曲を聴いて「こんなに素敵な音楽があるんだ」と感じる感性も大事にしています。
疲れたときによく聴くのは、イタリアの女性歌手、フィリッパ・ジョルダーノのCDです。彼女の声を聴くと「音って世界を創るんだなあ」と感じます。音が出た瞬間に、その音で空間を染め上げていくんですね。
そのように、いろいろな空間に飛んでいけるのが音楽だと思います。それをオーケストラとのリハーサルで教えてくださったのは指揮者の小林研一郎さんです。いかに音楽を空間に飛ばすか、ということを繰り返しおっしゃいました。そのとき「音って生き物なんだ」と思いました。
音が命をもって楽譜という2次元の世界から無限の空間へと自由に飛びまわり、音楽の喜びを表現する手助けをする。それが演奏家の真の役目ではないかと思います。楽譜にしばられて音を閉じ込めてしまうのではなく、音を縛っている手を離して「さあ、どうぞ!」と飛ばしてあげる。演奏家に自信と勇気があれば、それができるのです。
ステージで音を自由に飛ばすことができたときは、もうこれ以上ないと思うほど、大きな喜びに包まれます。今のこの瞬間が、終わってほしくないと思いますね。

今月の音遊人 千住真理子さん

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

まさに「音を自由に飛ばすことのできる人」ですね。素敵に音と遊ぶことができれば、音が好きなように世界を飛びまわるのを助けてあげられるのだと思います。それはとても難しい世界なのですが、音を自由に遊ばせることができる音楽家になれればいいなと思いますね。
音と遊ぶことがなぜ難しいかというと、音楽には勉強が欠かせないからです。「遊ぶ」と言ってもただ遊べばいいというわけではなく、演奏するには必死になって100回、200回と練習することは避けて通れません。その段階を通りすぎた人だけが、音と遊べる空間に入っていけるのです。
さらに難しいのは、「目標は100回練習して弾けるようになることではない」ということです。ですから練習をするときは、目先のことではなく、なるべく遠いところを見ようとするのがいいですね。たとえば、こういう音楽家になりたい、というように。その遠くの目的のために、今はこれを100回練習しよう、と思うことが大事ではないかと思います。
ちょっと行き詰まったときには、「音楽ってすばらしい」と音楽に感動したときの自分を思い出してみるといいですね。その感動の記憶が、音と遊べる空間へと導いてくれるかもしれません。

千住真理子〔せんじゅ・まりこ〕
2歳半より鷲見三郎氏に、11歳より江藤俊哉氏に師事。1973年全日本学生音楽コンクール小学生の部全国1位優勝。1975年第1回『若い芽のコンサート』でNHK交響楽団と共演し12歳でデビュー。1977年第46回日本音楽コンクールに最年少15歳で優勝、レウカディア賞受賞。1979年第26回パガニーニ国際コンクールに最年少で入賞。1985年慶応義塾大学文学部哲学科卒業後、指揮者故ジュゼッペ・シノーポリに認められ、1987年ロンドン、翌年ローマデビュー。
文化大使派遣演奏家としてブラジル、チリ、ウルグアイ等で演奏会を行うほか、チャリティーコンサート等、社会活動にも関心を寄せている。
千住真理子オフィシャルサイト http://www.marikosenju.com/

 

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