Web音遊人(みゅーじん)

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

五感のうち、視覚に次いで知覚の割合が多い聴覚。映像を見ていても、耳から入ってくる情報によって知らず知らずのうちに感情を動かされていることは多いのではないだろうか。
映像に音をつけ、テレビ番組などをより魅力的に演出する仕事が「音響効果」、略して音効。多彩なジャンルのテレビ番組を手がける株式会社東京サウンドプロダクションの高橋健人さんに、音効が果たす役割や仕事内容について聞いた。

膨大な音源から最適な音楽を探し出す

ふだん何気なく見ているテレビ番組も、あらためて音に意識を向けてみると、撮影時に収録された音のほか、ナレーション、BGM、効果音などさまざまな要素で成り立っていることがわかる。「音効の仕事は、番組のBGMやテーマ曲を選ぶ“選曲”とフォーリーとよばれる動作に合わせた効果音をつくる“効果”の大きく2種類があります」
高橋さんがメインで行っているのは選曲の仕事。ニュース番組からバラエティまで担当は多岐にわたる。
「作業に入る前に、ディレクターさんと番組の大まかな方向性やイメージについて確認します。その後、まだナレーションが入っていないVTRとタイムコードが書かれたナレーション原稿が送られてくるのですが、選曲の仕事は、これらを見ながらナレーションが入る部分や展開が変わる場面を確認し、それに合うBGMを選ぶことから始まります」
そこには、具体的な音の指示はない。どこにどのぐらいの長さの音楽を入れるのかも音効の裁量だ。
「ナレーション原稿とVTRでイメージが浮かんできます。浮かぶようになってくるんです(笑)。そして、そのイメージに合った曲を、既存の音源から探し出します」
高橋さんが向かうのは、1980年代から最新の作品まで、あらゆるジャンルを網羅したCDの社内ライブラリー。その所蔵数は、およそ10万枚におよぶ。それらをひと通りは聴いているという高橋さんの頭の中にも、膨大なライブラリーがある。

株式会社東京サウンドプロダクション 高橋健人さん

「BGMに使う曲は、30分番組なら多いときで30~40曲、1時間の場合は単純にその倍です。一曲一曲を選ぶことも大切ですが、全体的な構成を考えることも重要です。楽器の種類などにも変化を持たせながら、メリハリをつけるようトータルに考えながら選んでいます」
さらに、ナレーターによっても選曲は変わる。
「男女、あるいは声質によって声のキーやトーンは違います。声が持つ周波数を考え、その魅力がうまく引き出せる楽器や楽曲を選ぶことには気を遣っていますね」
曲を選んだら、デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)というソフトを使ってパソコンで編集。使いたいフレーズをつなぎ、時間内に収まるよう音楽的に完結させる。音楽が突然途切れるのではなく、余韻を残しつつ自然に終わるようエフェクトをかけるといった演出も凝らす。
一方、音効のもうひとつの柱である効果は、動作音や周囲の環境音などを別に収録し、番組を演出する仕事だ。スタジオにはギターやシンセサイザーなどの楽器から、キッチン用品、ナゾの小道具までが所狭しと並ぶ。
「たとえば、時代劇など刀の音を出すために、刀鍛冶さんにつくってもらった“効果刀”という専用の道具もあります。ほかにも砂利が敷いてある板とスニーカーを使って足音をつくったり、六ミリフィルムでたき火の音をつくったり。ギターやシンセサイザーで音をつくることもありますし、何でもできますよ」

ディレクターが書いた下絵に色をつける

高橋さんが音効の職に就いたのは、今から20余年前。新入社員として最初に命ぜられた仕事は、ひたすらCDを聴きまくることだった。必死で覚えたCDの数々は、その後、頭の中のライブラリーを構築する上で大きな財産になる。
「初めてひとりで担当した番組は、今でも覚えています。自分が選んだ音楽が番組になって放送されることが信じられませんでした。僕だけでなく、たくさんの人が見ている。達成感がありました」ひとり立ちし、自分の中で何となく一歩成長したと感じ始めたころ、自分なりの「音効論」が見えてきた。
「それは人に教わるものでもないし、一人ひとり異なるものです。違うから面白いし、それがその人にしか選べない音楽や演出の仕方につながるんですよね。個性は重要だと感じています」
良し悪しはあるものの、正解がないのが音効の仕事。より高みを目指し、今もインプットを欠かさない。通勤はもちろん、散歩やジョギングなどオフの時間も音楽がお供だ。
高校時代にバンド活動に打ち込んでいた高橋さんは、実はレコーディング・エンジニアを目指して専門の短大に進んだ。しかし、時代は就職氷河期の真っただ中。就職先はなかなか見つからない。そんなとき、音響効果という仕事と出会った。
「オンオフ問わず、一日中音楽と過ごすことにはまったくストレスを感じないです。音効という仕事が合っていたのでしょうね」
そう笑顔を見せる高橋さんは、常に心に留めていることがある。
「選曲するときに、自分本位にならないことです。番組はいろいろな人が携わってつくられています。とくに企画から撮影、編集までを手掛けるのがディレクターさんで、番組は彼らのものだと僕は捉えています。彼らがどうしたいのかを考えるのが最優先。ディレクターさんが制作したVTRは、いわばまだ色がついていない下絵です。そこに色を入れていくのが、僕の仕事です」
現在は既成の音源から選曲を行なっている高橋さんだが、ゆくゆくは番組のための音楽を一からプロデュースしてみたいと語ってくれた。

株式会社東京サウンドプロダクション 高橋健人さん

Q.子どものころの夢は?
A.スポーツ少年で野球をやっていたので、野球選手でしょうか。でも高校になってバンド活動を始めたことが転機になり、音楽に携わる仕事に就きたいと考えるようになりました。レコーディング・エンジニアになるという当初の夢は叶いませんでしたが、今思えば音効という仕事は自分に向いていたと思います。

Q.好きな音楽は?
A.(1980年代末ごろの)バンドブーム世代なので、高校時代はB’zのカバーバンドをやっていました。B’zファンの友人が「自分はボーカルをやるから、お前は松本孝弘(ギター)をやれ」と。必死で練習しました。いまもロック系が好きで息抜きに自宅で弾いています。仕事も音楽、息抜きも音楽といった感じで、音楽と過ごす時間を大切にしています。

Q.休日の過ごし方は?
A.家族で旅行することが多いです。行ったことがないところに行ってみたいという願望が強いんです。自分が携わった番組で取り上げた場所も、VTRで見るだけではなく実際に足を運んでみたくなります。風景や人、食……新しい刺激や経験は、仕事に対するモチベーションもアップさせてくれます。スキューバダイビングやスカイダイビングなど、知らない音や景色と出会えるものにも挑戦してみたいですね。

東京サウンドプロダクション

photo/ 坂本ようこ

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