今月の音遊人
今月の音遊人:由紀さおりさん「言葉の裏側にある思いを表現したい」
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音楽家の修行時代から見えてくる人生を築く多様な道筋/澤谷夏樹『音楽家65人の修行時代』
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2021.3.24
tagged: ブックレビュー, 澤谷夏樹, 音楽家65人の修行時代
音楽史や作曲家の知識はあっても、そのほとんどは彼らが大成してからのもの。若い頃のことは知らないことのほうが多い。だからこそ、音楽家の青春時代にスポットライトを当てた『音楽家65人の修行時代』が理屈抜きに面白い。著者は音楽評論家の澤谷夏樹。足かけ6年にわたった『月刊ピアノ』の連載が、1人3ページという読みやすいフォーマットで、親しみやすい文庫判になった。ページをめくるたびに、想像を越える濃密な世界に引き込まれていく。
本人が筆写した楽譜の発見(2006年)によって、新たな師弟関係が明らかとなったJ・S・バッハ。父親のレッスンが厳しく、いつも泣きながら鍵盤楽器に向かっていたというベートーヴェン。幼い頃の環境がのちの〝貴族趣味〟を培い、身につける小物や服、自宅の内装などを高級品で固めていたショパン(本文より)などなど、意外な人間模様が浮かび上がる。
修行方法、習得した力、キーアイテムを取り出したコラム「修行のポイント」には、就活力、語学力、愛され力、はたまた訴訟のノウハウといったユーモラスな言葉も並び、無名の若者がどのように有名になっていったのかの興味を倍増させる。短くまとめられたプロフィールや音源紹介との絶妙なバランスによって、リアルな人物像が描き出されていく。
連載中は「その都度、取り上げる対象を選んでいた」と語る著者。しかし、「音楽家の家庭の出身か」「経済面や音楽教育面で恵まれた環境にあったか」「音楽学校を卒業したか」という3つの軸をもとに総覧すると、65通りの経歴が大きく8つに分類できることに気づいたという。
「その8種の傾向を探ると、一般的に考えられているものとは違う道筋のほうが、音楽家になる道筋としてはメジャーであることが見えてきます。時代も国も環境も大きく異なる65人が、それぞれ音楽家として身を成していく過程が、今のわれわれの生活にどんな意味をもつのか。彼らは、なかなかに面白い答えを出してくれたなと思います」
この答えに関心のある方は、まず第4章から読むのもお勧めだ。
苦境に陥ったり、借金をしたり、よき理解者に助けてもらったり……。名曲を世に出した65人の多彩な個人史は、人生の回り道には実は深い意味がある、とでも言っているようだ。
「何かを目指すとき、そこに直線的に向かっていくだけではなく、そこに合流、もしくは並行していくような、またはそこから少しそれるような道筋も、とても大切であることを読み取っていただければと思います。それは逆に、音楽家になるのに別のことがらが大切だったのと同様に、将来まったく違う道に進むとしても、音楽の勉強をすることが大事になるとも言えます。その両面を感じていただけたら著者冥利に尽きますね」
『音楽家65人の修行時代』
著者:澤谷夏樹
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:1,045円(税込)
詳細と購入はこちら
音源視聴はこちら
澤谷夏樹(さわたに・なつき)
音楽評論家。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業、同大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了(いずれも音楽学)。2003年より音楽評論を開始。柴田南雄音楽評論奨励賞および本賞受賞。著書にバッハ大解剖!』(監修・著)、『知っているようで知らない バッハおもしろ雑学事典』『「バッハの素顔」展』(共著)。国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員。
文/ 芹澤一美
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