今月の音遊人
今月の音遊人:谷村新司さん「音がない世界から新たな作品が生まれる」
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世界初演、サクソフォン最前線/須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート~ピアニスト、小柳美奈子と共に~
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2021.6.28
輝かしくも表情豊かな響きに心が弾む。2021年6月12日、ヤマハホールでの「須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート~ピアニスト、小柳美奈子と共に~」は、世界初演の2曲を含め、ソロ、デュオ、ピアノとのトリオでサクソフォンの新たな可能性を開いた。
サクソフォンは比較的新しい楽器だ。1840年代にベルギーの楽器製作者アドルフ・サックスが発明し、改良・進化に伴い20世紀前半に開花した。グラズノフの『サクソフォン四重奏曲』は弦楽四重奏に匹敵するこの楽器群の表現力を示す。バイオリン、ビオラ、チェロの音域に相当するサクソフォンがそろっているのだ。須川はソプラノとアルトとバリトン、田中はアルトとテナーとバリトンの各サクソフォンを使用し、小柳のピアノも交えて多彩なアンサンブルを聴かせた。
名旋律がきらびやかな音色で始まる。バッハの『無伴奏バイオリン・パルティータ第3番』の第3曲『ガヴォット・エン・ロンドー』だ。須川が編曲し、ソプラノで独奏した。一気にサクソフォンの世界に引き込まれる。
2曲目は早くも大作だ。ジュネーブ国際音楽コンクール作曲部門1位の薮田翔一の新曲『Delos』である。須川が薮田に委嘱した作品で、世界初演だ。サクソフォンは名手チャーリー・パーカーからデヴィッド・ボウイや浜田省吾らの曲に至るまで、ジャズやロックで愛用されてきたが、クラシックでは作品が少ない。須川は委嘱で作品を増やしてきた。
『Delos』はアルトサクソフォンとピアノによる作品だ。「短い音の集積」「楽曲の構築美」といった薮田作品の特徴が出ている。全7曲の最初と最後の曲でアルトが印象的なリズムを刻む主題を鳴らし、シンメトリー風の構成をとる。
「須川さんの案で、バッハとツー・ファイブ(ダイアトニックコードの2番目から5番目のコードへの進行)を重要な音楽的素材にした」と薮田は言う。ピアノは音の集積を高速の分散和音で水平に広げ、バッハの平均律クラヴィーア曲集の複雑な現代版を装う。アルトはツー・ファイブの強進行によるスムーズな跳躍が顕著だ。プーランクやミヨーの新古典主義を想起させながら、2人が音の模様をスリリングに描く。
本公演の楽器はすべてヤマハ製である。ルクレールの『ソナタ ハ長調』(ロンデックス編曲)は須川と田中のバリトンによるデュオだが、同音域の楽器同士による響きの試金石となった。田中が演奏した最新モデル「バリトンサクソフォンYBS-82」は音の芯が明瞭で、両者の表情の差異を浮き彫りにした。
もう一つの世界初演は本公演委嘱作品である長生淳の『トリリトン』だ。須川のアルト、田中のバリトン、小柳のピアノがそれぞれ音数の多い響きを出し、石柱のような重みを表す。トリリトンとは、直立する巨石2つの上に水平に巨石を置いたもので、英国のストーンヘンジに見られる。短調が漂う中で支え合う巨石のトリオに、サクソフォンによる現代音楽の最前線を聴く思いがした。
池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
日本経済新聞社メディアプロデューサー。早稲田大学卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。専門誌での音楽批評、CDライナーノーツの執筆も手掛ける。
日本経済新聞社記者紹介
文/ 池上輝彦
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: 音楽ライターの眼, 須川展也, 田中靖人, 小柳美奈子
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