Web音遊人(みゅーじん)

連載46[ジャズ事始め]ジャズの枢軸を動かさんとするアジアン・チームはどのように膨張していったのか

“エイジアン・ファンタジィ・オーケストラ”について、少し掘り進めたい。

前稿で触れた1991年のイヴェント“エイジアン・ファンタジィ”は、“アジアの音楽家たちの、音楽を通した出逢いと交流、相互理解”という目的のために開催されたことを資料から引用した。

初回であり、4日間という開催日数の余裕も(資金の余裕とともに)あったことから、“出逢いと交流”のために日本のミュージシャンとアジアから招いたミュージシャンを日替わりで組み合わせて、どんな“化学反応”が起きるのかを見てみようというスタンスが感じられる。

同じプログラムの組み方で3年ほど続けたこのイヴェント、4年目(1994年)で方向性を変更し、ミュージシャンの組み合わせを軸とするのではなく、アジア連合の同一メンバーによるバンドが全日出演し、その日ごとのテーマに沿ったサウンドをクリエイトするというスタイルになった。

つまり、それまでの3回はアジア各国の“違い”が際立つステージであったものが、4回目からは一致団結したアジアン・チームがどのようなサウンドをめざすのかを模索するステージになった──ということだ。

4回目で結成されたアジアン・チームを紹介しておこう。

仙波清彦(パーカッション)、久米大作(キーボード)、グレッグ・リー(エレクトリック・ベース)、佐藤一憲(パーカッション)、渡辺香津美(ギター)、梅津和時(サックス)、植村昌弘(ドラムス)、田中顕(パーカッション)、金子飛鳥(ヴァイオリン)、吉野弘志(ウッド・ベース)という面々が、“エイジアン・ファンタジィ・ユニット”と題して5日間のプログラムに出演。

また、ドゥルバ・ゴーシュ(サーランギ/インド)、ナヤン・ゴーシュ(タブラ、シタール/インド)、木津茂理(唄、太鼓)、木津かおり(唄)、EPO(ヴォーカル)、SANDII(ヴォーカル)、小川美潮(ヴォーカル)、ヘティ・クース・エンダン(ヴォーカル/インドネシア)がゲストとして、こちらも全日の出演となっていた。

翌1995年は戦後50周年でもあることから、国際交流基金のサポートによって、シンガポール、クアラルンプール(マレーシア)、ジャカルタ(インドネシア)、東京(日本)の4都市での公演が企画され、そのために組まれたのが“エイジアン・ファンタジィ・オーケストラ”だった。

メンバーは、渡辺香津美(ギター)、仙波清彦(小鼓、パーカッション)、金子飛鳥(ヴァイオリン、コーラス)、梅津和時(サックス)、久米大作(キーボード)、小川美潮(ヴォーカル)、清水一登(キーボード)、吉野弘志(コントラバス)、吉田智(エレクトリック・ベース)、植村昌弘(締太鼓、ドラムス)、佐藤一憲(パーカッション)、田中顕(大鼓、パーカッション)、深見邦代(ヴァイオリン)、原えつ子(ヴァイオリン)、熊田真奈美(ヴィオラ)、立花まゆみ(チェロ)、賈鵬芳(二胡/中国)、張林(揚琴/中国)、陶敬頴(琵琶/中国)、ドゥルバ・ゴーシュ(サーランギ/インド)、ナヤン・ゴーシュ(タブラ、シタール/インド)、中川博志(バーンスリー)、文京雅(コリアン・パーカッション/韓国)、金正國(コリアン・パーカッション/韓国)、香村かをり(コリアン・パーカッション)、望月太八次郎(尺八、笛)、藤尾佳子(長唄三味線)、田中悠美子(義太夫三味線)、内藤洋子(箏)、木津茂理(唄、囃子)、木津かおり(唄)、木下伸市(津軽三味線、唄)で、前年の“エイジアン・ファンタジィ・ユニット”がベースになっていることがわかるだろう。

この4都市公演の成功を受けて“エイジアン・ファンタジィ・オーケストラ”は、東京で継続して開催された“エイジアン・ファンタジィ”イヴェントから離れ、1998年に2度目の海外ツアー(デリー/インド、ムンバイ/インド、ハノイ/ベトナム、フィリピン/マニラ)を実施している。

そして2000年以降は、“エイジアン・ファンタジィ実行委員会”名義による独自公演ができるまでに支持を得るようになっていた。

2000年時の新たな顔ぶれは、三好功郎(ギター)、坂井紅介(ウッド・ベース)、中原信雄(エレクトリック・ベース)、新井田耕造(ドラムス)、今藤郁子(唄、三味線)、竹井誠(尺八、笛)、姜小青(古箏)、費堅蓉(三弦)、アニーシュ・プラダーン(タブラ)、高橋香織(ヴァイオリン)、大久保祐子(ヴァイオリン)、相磯優子(ヴァイオリン)、高橋淑子(ヴァイオリン)、志賀恵子(ヴィオラ)、笠原あやの(チェロ)、グレース・ノノ(ヴォーカル)で、2001年もほぼ同じ。

2003年には、国際交流基金のサポートで3度目のASEANツアー(タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム)を実施している。

このツアーでは、中野律紀/RIKKI(ヴォーカル)、望月圭(太鼓)、山田貴之(太鼓)、タニット・シークリンディ(タイ・フルート)、スラポーン・ローヒタージョン(ラナート・エーク)、ニラン・ジェームアルン(ラナート・トゥム)、ノッパドン・サップラディット(タイ・ドラム)、アヌチャー・ボリパン(タイ・ドラム)、キティサック・カオサティット(チン)、チャイヨット・テウアン(コーン・ウォン)、タナポーン“パーン”ウェークプラユーン(ヴォーカル)と、アジア勢の多くがタイのミュージシャンに変更されている。これは、タイでの初公演であることと、同国のシリントーン王女生誕48周年慶祝を兼ねたものであったことが関係していると思われる。

エイジアン・ファンタジィ・オーケストラの概要はこのあたりで切り上げて、次回はボクが観たエイジアン・ファンタジィ・オーケストラの印象と、2000年代初頭の世界経済とアジアの位置、そしてジャズの重心移動について取り上げてみたい。

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富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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