Web音遊人(みゅーじん)

連載50[ジャズ事始め]“なぜ日本でジャズなのか?”という問いに対する50回目の回答

横浜のジャズ・イヴェントの手伝いをしていたとき、あちこちで「日本のジャズは横浜が発祥」という話を耳にした。

決定的な証拠がないので、「……と言ってもいいかもしれない」ぐらいの認識でいいかなと解釈し、個人的には諸手を挙げて賛成はしていなかった。

というか、発祥である証拠探しよりも、「なぜ日本にアメリカ発祥(こちらも“……と言われている”という認識なのだが)のジャズが普及したのか」のほうに惹かれてしまったから、というのが諸手を挙げなかった大きな理由だったりする。

そんなことから、“ジャズ事始め”と題して、まずアメリカでの“発祥と言われている事象”を改めて勉強し、日本への渡来経路や当時の背景などを洗い直してみることにした──というのが本稿を始めたきっかけ。

まさか50回もの連載になるとは思わなかったが、“発祥”と“伝播”についてさらに学術的に追究するとなれば、もちろんこんなヴォリュームでは済まないから、「長い連載だった……」なんて感傷に浸ることは恥ずかしくてとてもとてもできない。

ただ、日本のジャズの普及を考える際に、“ジャズがジャズであり続けること”と“日本化”(あるいは“日本語化”)することの整合性を論じられる出発点まで論考が広げられればと期待していたので、その点ではなんとか途切れずにたどり着けたかなと思っている。

実は、連載を始める前の準備段階で、ランドゥーガ、エイジアン・ファンタジィ・オーケストラ、大江戸ウィンドオーケストラの取材資料が目に留まったことをきっかけに、ここに行き着くというストーリーで日本のジャズを考えられないだろうかと思っていたことを告白しておかなければならないだろう。

“和ジャズ”と呼ばれる企画は、ランドゥーガを扱った回でも触れたように、比較的早い時期からほかにも多く存在していた。

しかし、日本の音楽的傾向においてジャズを(アレンジ的=味付け的に)取り入れるのと、ジャズを消化して“日本のもの”として発信するのでは、まったく意味が違う。

なにが“違う”のかが見えてくるように探っていくのでなければ、日本のどこでジャズが発祥したのかを特定できたとしても、あまり意味がないだろうと思っていた。

ジャズには柔軟性があり、雑食と表現するのが正しいほどにさまざまな要素を取り込んで進化してきた。

このことは、このたび文庫化された拙著『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス ミュージックメディア部刊、単行本タイトル『頑張らないジャズの聴き方』)でも各所で触れているが、ジャズ本流の雑食性とはまた別に、日本におけるジャズの流れにも異なった雑食性が存在していたことを、この連載では浮かび上がらせることができたのではないかと思っている。

そこにこそ、19世紀後半の個人主義が台頭してきた時代に生まれ、自由と平等を追求しようとした20世紀に、その象徴ともされたジャズが、21世紀でもなお存在感を放っている“変容”のヒントがあるのではないだろうか──。

“雑食であること=多様性を認めること”とジャズとの関係性という次のテーマが見えたところで、“ジャズ事始め”をとりあえず締め括りたい。

「ジャズ事始め」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

facebook

twitter

特集

菅野祐悟

今月の音遊人

今月の音遊人:菅野祐悟さん「音楽は、自分が美しいと思うものを作り上げるために必要なもの」

4721views

リトル・リチャード

音楽ライターの眼

ロックンロール創造主リトル・リチャードの音楽と人生を追うドキュメンタリー映画『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』が公開

1851views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

24533views

楽器のあれこれQ&A

講師がアドバイス!フルート初心者が知っておきたい5つのポイント

19354views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

10877views

カッティング・エンジニア

オトノ仕事人

レコードの生命線である音溝を刻む専門家/カッティング・エンジニアの仕事

3489views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

6847views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14376views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20134views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

6740views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6091views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26123views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11693views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12102views

音楽ライターの眼

連載16[ジャズ事始め]“上海リヴァイヴァル”を象徴する「上海バンスキング」とアジア・ジャズの序章

4720views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

わかりやすい言葉で、知られざる楽器の魅力を伝えたい/楽器博物館の学芸員の仕事(後編)

8726views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7324views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

10630views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

14740views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6091views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

4555views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7056views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30896views