Web音遊人(みゅーじん)

櫻井哲夫

今月の音遊人:櫻井哲夫さん「聴いてくれる人が楽しんでくれると、自分たちの楽しさも倍増しますね」

フュージョンバンド、カシオペアのベーシストとして一世を風靡し、現在はソロ活動に加え、カシオペアの元メンバーと結成した“かつしかトリオ”でも活動する櫻井哲夫さん。精力的な音楽活動の傍ら、大学で教鞭もとる櫻井さんに、音楽を志した原点や音楽を楽しむ人生について語っていただいた。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

スティーヴィー・ワンダーですね。『トーキング・ブック』や『インナーヴィジョンズ』『ファースト・フィナーレ』『キー・オブ・ライフ』といった1970年代のアルバムを、高校生のころからカシオペアでデビューしたくらいまで毎日聴いていました。『イズント・シー・ラブリー(可愛いアイシャ)』などのヒット曲を耳にしたり、ベック・ボガート&アピスがカバーした『スーパースティション(迷信)』がカッコよくて、その作者がスティーヴィーだと知ったりしたことで目覚めた感じです。
スティーヴィーは初期のころからドラムを叩いたりシンセベースを使ったりとマルチプレイヤーで、アレンジやプロデュースもこなすし、若くしてそれだけの才能を発揮できていることにすごく魅かれて。メッセージ性のある曲も多いし、本物のアーティストというのはここまで凄いんだなって痛感しました。

Q2.櫻井さんにとって「音」や「音楽」とは?

人生ですかね。僕は小学校3年のときに祖母をガンで亡くし、5年生のときには母もガンを患ったことから、もしかしたら母も亡くなってしまうかもしれないと覚悟を決めて、家事を全部できるようにしたんです。
同時に、命はいつか亡くなるものだから、自分が好きなことをやり続けるのが大切だと気がつきました。それが仕事になれば一番いいんだなと考えたときに、体育、音楽、美術という好きな科目の中で、音楽だったら死ぬまでできるんじゃないかと思って。それを極めて形にして、さらに人に喜んでもらえれば、人の役に立つ仕事になるわけだし。だから高校受験のときは一番うまいバンドがいる学校を偵察したりしました。
カシオペアでデビューしたのは大学在学中でしたが、卒業するころにはすでに海外進出を果たしていたので、これはもう就活するまでもないなと。そのまま今に至る感じです。だから音楽は僕の生き方、自分の人生そのものだと思っています。

櫻井哲夫

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

音楽って“音を楽しむ”のが正解だと僕は思っていて、講師をしている大学でもそういうことを教えているんですが、練習してうまくなることが目標みたいな感じになって“音を遊ぶ”という価値観を持ってない人がいることに気がつきました。音楽ではなく、音学してる人が多いのです。
勉強する素材の収集と、それを蓄積させて整理させることに時間を費やすのも必要だけど、それが全てになっちゃったら、図書館みたいになるだけなんじゃないの?って。練習するときも決まったことだけやるのでは、閃きとか遊びとか出てこないんじゃないのって。そういうことを後輩に伝えています。
だから「音遊人」って字を見ると“僕みたいだな”って思いますね。

Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?

やっぱり成長することですかね。自分で成長を感じたときに、すごくよかったなと思います。あと、自分たちが楽しんで演奏して、それを聴いてくれる人も楽しんでくれると、自分たちの楽しさも倍増しますね。
1980年代にカシオペアでワールドツアーをやったことはものすごい思い出になっていて。自分たちがベストを尽くしてやったことをどこの国でも喜んでもらえる、そんな瞬間をコンサートでは体験できるじゃないですか。そうなると自分一人の喜びじゃないんです。みんなが喜んでくれているっていうのを味わえるのは、何ものにも代えられないですね。

櫻井哲夫〔さくらい・てつお〕
ベースという楽器を使って自己実現を追求。リーダー活動は、ソロ・ライブ、櫻井哲夫バンド、Jacoトリビュート・ライブ。1976~1989年カシオペア、1990~1998年JIMSAKUのメンバーとして活動。1999年以降ソロ・アーティストとして海外にも活動の輪を広げる。後進の育成として、昭和音楽大学の講師も務める。2021年、向谷実、神保彰とともに“かつしかトリオ”結成。2023年秋にフルアルバムを発売し、10~11月に「かつしかトリオ LIVE TOUR 2023 出発進行!」開催。
オフィシャルサイト

photo/ 坂本ようこ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

塩谷哲

今月の音遊人

今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」

2514views

ホーカン・ハーデンベルガー

音楽ライターの眼

「地上で最高のトランペット奏者」と評されるその演奏に恍惚とする/ホーカン・ハーデンベルガー トランペット・リサイタル

11186views

楽器探訪 Anothertake

改めて考える エレクトーンってどんな楽器?

125449views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

14412views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

10371views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

13781views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

6595views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

6785views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

28108views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

3915views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

7319views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

23678views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

7452views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10502views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#026 ハード・バップのお手本を生み出したシンプルな編成と陽キャな企画~ブルー・ミッチェル『ブルーズ・ムーズ』編

107views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

10975views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

7298views

クラビノーバ「CSPシリーズ」

楽器探訪 Anothertake

これまでピアノを諦めていた多くの人を救う楽器。楽譜作成・鍵盤ガイド機能が付いた電子ピアノ/クラビノーバ「CSPシリーズ」

20113views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

9995views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5058views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

12477views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

5418views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

23678views