Web音遊人(みゅーじん)

連載1[多様性とジャズ]ジャズはなぜ20世紀に求められたのかを“個人主義”という視点で考えてみると……

前稿までの連載で、ジャズがどのように成長して広まっていったかを、発祥の地であるアメリカと、それを“輸入”した日本との違いにフォーカスしながら論じてきた。

もともと、ジャズには“雑食性”という強みがあり、その柔軟性ゆえに異分子をも呑み込みながら増殖を続けることができたとボクは考えていたのだけれど、それを確かめる論考になったと思っている。

すると、こうした“雑食性”や“柔軟性”は、言い換えれば“多様性”であり、その点においてジャズは時代をかなり先取りした芸術形態だったのではないか──ということを検証しないわけにはいかなくなった。

というのも、大枠ではこの“多様性”を当てはめることができるジャズではあるものの、狭義では、直近の半世紀を振り返ってもスウィングやビバップといった“原理”にこだわることを繰り返していた事実があり、必ずしも“多様性”を軸として発展した芸術形態とは言えないのではないかという疑念が、どうしても脳裏をよぎってしまうからなのだ。

「“ジャズは自由の国アメリカで生まれた”ので“自由の国アメリカを象徴する芸術である”」という演繹法のワナにハマって、「ゆえにジャズは(選択の自由という)多様性を表現できる」という答えを出してしまいそうになったとき、「果たしてそれは本当なのか?」という問いが浮かんで消せなくなってしまった。

ボクは、ジャズが20世紀を象徴する表現芸術と評されるまでに発展した大きな理由に、資本主義の台頭による家族主義から個人主義への移行と、その一方で暴走していった権威主義や全体主義といった社会背景が関係していて、ジャズは個人の自由を担保する受け皿としての役割を(ロックに取って代わられるまで)意識的に担ったのではないかと考えていた。

まぁ単純に言えば、権威主義的なクラシック音楽への反発や、全体主義による締め付けへの対抗手段としての期待を、自由度を高めていこうとしていたジャズに重ねようとしていたんじゃないかと考えていたわけだ。

だから、“ジャズ事始め”の連載が一段落したところで、ジャズと個人主義、ひいては多様性について改めて考えてみたいと思っていた。

まず、個人主義から手をつけようと思うのだけれど、思想のシステム論を解説するのが本意ではないので、ジャズを忘れないようにしながら論考を進めてみたい。

オーネット・コールマンの『ジャズ来〔きた〕るべきもの(The Shape of Jazz to Come)』(1959年)でも聴きながら、次回の準備をすることにしようかな。

「多様性とジャズ」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

facebook

twitter

特集

今月の音遊人 岡本真夜さん

今月の音遊人

今月の音遊人:岡本真夜さん「親や友達に言えない思いも、ピアノに聴いてもらっていました」

9210views

音楽ライターの眼

連載4[ジャズ事始め]日本のジャズの夜明け前には小唄をアレンジした軍楽隊の演奏が人気を博していた

3562views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11907views

ヤマハ製アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぶ、ヤマハ製アコースティックギター

10756views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11770views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

3354views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10711views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3256views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13139views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

8067views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

4987views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30783views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9908views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10314views

音楽ライターの眼

トレイシー・ソーンの自伝的エッセイが刊行。エヴリシング・バット・ザ・ガールを読む

3425views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

歌うときは、体全部が楽器となるように/ボイストレーナーの仕事(前編)

25466views

ゲッゲロゾリステン

われら音遊人

われら音遊人:“ルールを作らない”ことが楽しく音楽を続ける秘訣

1804views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

3698views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7321views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5442views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バイオリンの購入ポイントと練習のコツ

20626views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3175views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30783views