今月の音遊人
今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」
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音楽ゲームの要となるリズムノーツをつくる専門家/『太鼓の達人』の譜面制作の仕事
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2024.3.25
音楽に合わせてアクションを起こす音楽ゲーム、略して“音ゲー”。数ある“音ゲー”のなかでも抜群の知名度と人気を誇るのが、2001年発売のロングセラー『太鼓の達人』だろう。
そのゲームの面白さを左右するのが、太鼓をいつ、どうやってたたくのかを決める譜面だ。老若男女を楽しませるおよそ1,000曲にもおよぶ『太鼓の達人』の譜面は、どうやってつくられているのだろう。株式会社バンダイナムコアミューズメントラボの江藤裕平さんに聞いた。
2001年にアーケードゲーム機として登場するやいなや、たちまち大ヒットした『太鼓の達人』。以来、家庭用ゲーム機やスマートフォンなどさまざまなプラットフォームで発売され、幅広い年齢層に愛され続けてきた。
ご存じのとおり、『太鼓の達人』は楽曲のリズムに合わせて和太鼓をたたくシンプルなリズムゲーム。そのタイミングは、画面に流れてくる音符で示される。その譜面が、ゲームの面白さの決めるカギを握っているといっても過言ではない。
「われわれは、通称“譜面ジャー”と呼ばれています」
そう話す江藤さんは『太鼓の達人』の総合開発プロデューサーであり、譜面制作も担当。これまで300曲以上を手がけてきた。
『太鼓の達人』の収録曲は、ポップス、アニメ、ボーカロイドTM曲、ゲームミュージック、ナムコオリジナルなど多彩なジャンルにわたり、およそ1,000曲におよぶ。
「遊んでくださっているお客さまは幅広いので、偏りがないよう開発のあらゆるセクションのメンバーが情報を集め、そのなかから選曲しています」
楽曲が決まると、いよいよ“譜面ジャー”の仕事がスタートする。
「太鼓の音が含まれている楽曲はほぼないため、原曲に太鼓のトラックをもうひとつ足すという感じです。データを通して制作するので、DTMで楽曲を制作している感覚に近いですね」
まずは曲を聴き込み、その世界観をイメージする。音符の種類は大きく分けて面をたたく「ドン」と縁をたたく「カッ」、そして「連打」。このたった3種類を駆使し、多彩な譜面をつくっていく。
『太鼓の達人』の強みのひとつは、老若男女が遊べる間口の広さにあるだろう。だからこそ、江藤さんが心がけているのは、ターゲットを明確に意識することだ。
「この曲をいちばん楽しんでくれるのは誰だろうと想像します。たとえば、未就学のお子さんだったら、たたく間隔をつめすぎないなど、たたきやすく楽しめるようにしますね」
『太鼓の達人』には「かんたん」から「ふつう」「むずかしい」「おに」などの難易度が用意されているが、レベルごとの基準づくりにも心を砕く。実は難易度を設定すること自体は、さほど難しい作業ではないという。密度や変化を減らせば難易度は下がるし、逆もまたしかりだ。
「でも、それで気持ちいいのか、楽しんでいただけるのか。たとえば密度を減らすほど、繰り返すことによるグルーブ感は失われていきます。そのバランスを取るのが、難しいところですね。誰でも遊べることを目指しつつ、ギリギリのチューニングをする。その調整がキモだと思います」
譜面が出来上がると自らたたいて、また譜面づくり。トライ&エラーの繰り返しだ。
「正解がないので迷うこともありますが、自分の感性を駆使しながら、最終的にいかにおもしろい、気持ちいいと思ってもらうか。毎回が勝負です」
子どものころは、人を助けることができるという理由から医師になりたかった。その後、世界的な社会課題となった環境問題に興味を抱き、その分野に進むことも検討したという。「でも、そうした問題に真正面から向き合って解決するだけでなく、違うアプローチもできるんじゃないかと考えたんです。“楽しいもの”でみんなの日々をより良い方向にしたいという想いから、就活ではゲーム会社を選びました」
入社当時、ダンスと音楽どちらのゲーム部門に行きたいか問われ、選んだのが後者だった。音楽を選択したひとつの理由は、自身の楽器経験にある。
幼少時にエレクトーンを始め、小学生まではピアノを。高校生になるとバンドを組み、キーボードやギターに打ち込むとともにドラムなども演奏した。大学で入った吹奏楽部では、バンドで培ったスキルを活かして打楽器を担当。こうした楽器経験は、譜面制作に欠かせない「聴き分ける力」となり、現在の仕事に大いに役立っているという。
「多くの人は音楽を“塊”で聴いていると思います。でも、作曲や演奏している人は“トラック”で聴いていますよね。それができないと譜面づくりはスムーズにいかないかもしれません。僕はバンドをやっているとき、誰がどういうリズムで何を弾いているかを耳コピしていたので、そういう経験が生かされたと思います」
さらに「音楽って楽しい!」というエモーショナルな要素もとても大切だという。どうすれば音楽を最も楽しく、気持ちよくできるのか。そんな視点を持ちながら制作にあたることは、仕事のうえでの大きな力になる。
江藤さんは、入社してからの16年間、『太鼓の達人』一筋でやってきた。
「青春時代に何をやってきましたか?と尋ねられたとき、僕は気後れしながらゲームと答えてきました。今の中高生たちが大人になって同じことを問われたとき、“『太鼓の達人』に青春を捧げていました”と胸を張って言ってほしいんです。それが僕の行動理念です。自分はいろいろなことを途中ですぱっと止めることが多かったのですが、『太鼓の達人』だけはある意味病みつきですね。気付けば、このタイトルに人生を捧げたいと思うようになっていました」
現在、年に一度行われているオリジナル曲の公募の立ち上げにも携わった。そこから羽ばたくアーティストも誕生し、『太鼓の達人』はゲームの枠を超えてひとつの音楽文化になりつつある。
「音楽で遊ぶ、楽しむという点では、まだまだ余地があると思っています。今は真剣に遊ぶという性質が強いのですが、『太鼓の達人』の良さを失うことなく、ワハハと笑い転げられる音楽の楽しみ方を提供できないかと挑戦しているところです」
楽しいもので、みんなの日々をより良い方向へ。学生時代に抱いた想いは現実となり、着実に前へと進んでいる。
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Q.今も楽器は演奏していますか?
A.子どものために買ったエレクトーンを自分も少し弾いたりしますが、気づくと楽器ではなくて太鼓のエア演奏をしてしまっています(笑)。基本的に何か音が聴こえた瞬間、頭のなかで自然と太鼓がなってしまう。完全に職業病ですね。でも、またギターやピアノを弾きたいと思うときはあります。
Q.趣味はありますか?
A.料理です。ゲーム開発は集団作業ですが、料理はソロ作業でかつクリエイティブ。自分がやりたいようにできるうえ、家族にすぐにフィードバックをもらえます。しかも、がんばるほど、家族に感謝されるところもいいですよね。パスタが好きなので、先日は大葉とピーナッツ、ニンニクのソースと魚介の和風ジェノベーゼをつくりました。好評だったので、定番になりそうです。
Q.好きな音楽は?
A.今、好きなのはサカナクションです。ノリはいいけれど、ちょっとしっとりした感じに惹かれています。昔はもっとヘヴィーなものを聴いていましたし、高校時代にバンドでやっていたのもパンク、ロック系でした。年齢を重ねて、趣向が変わってきましたね。
Q.休日の過ごし方を教えてください。
A.起きたら、まず朝食をつくります。まだ小さい子どもがふたりいるので、一緒に公園やゲームセンターに行くことが多いです。ゲームセンターでは、『太鼓の達人』を“どんちゃん”とよびながら、ふたりとも楽しそうに遊んでいるのが、うれしいですね。
文/ 福田素子
photo/ 坂本ようこ(2、3枚目)
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tagged: オトノ仕事人, 江藤裕平, 太鼓の達人, 譜面制作
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