今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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2015年のデビュー以来、そのエモーショナルな演奏と、圧倒的な存在感で瞬く間に人気を集め、現在、最も注目されるピアニストのひとりである反田恭平さん。レーベルの立ち上げやコンサートプロデュースなど演奏以外にも活躍の場を広げています。そんな反田さんはこれまでどんな曲を聴いてきたのか。音楽に対するどんな考えを持っているのか。知られざる側面をうかがいました。
僕は性格的に、ひとつ何かにハマると、とことんハマってしまうんです。例えば食べ物だと、何か気に入ったものがあると、毎日そればかり食べてしまいます。服もそうで、気に入ったものをずっと着る。音楽も同様で、好きになった1曲を聴き続けますね。もちろん、時とともにハマる曲は変わるんですけれど、いまパッと思いつくのは……たしか15歳のとき、ディズニー・チャンネルに『ハイスクール・ミュージカル』という映画があって、そこで使われた「We’re All In This Together」という曲をとにかく聴いていた記憶がありますね。当時僕は高校に入る頃で、映画そのものにも夢中になりました。
あと思い出したのは、TERIYAKI BOYZの「5TH ELEMENT feat.CORNELIUS」。小・中学校と一緒だった友だちが、「君はクラシックしか聴いていないんだろう」と言って教えてくれました。言ってしまえば、僕は200年前の古い曲を漁っているような人間なので、こういう曲を聴くと新鮮で感動していました。
あとはアイドルもよく聴きました。ハマる曲の傾向としては、半音進行が使われているものが多いですね。そういえばショパンもそうだし、ラフマニノフやスクリャービンも半音進行をよく使いますね。
うーん……、至福の時間を作ってもくれるし、その反面、狂気も伴うもの、といえばいいでしょうか。
年に何回か音酔いというか、音で気持ち悪くなってしまうことがあるんです。最近でいえば、電車に乗っていて、つり革が動くときのキュッ、キュッという音が気になってしまって、ひとたび気になるとある意味ノイズキャンセルされるというか、その音しか耳に入ってこなくなってしまうんです。こういう体験は、オケとコンチェルトを演奏した帰りとかによくあります。
でも、そんな世界から一転して、モーツァルトやベートーヴェンの曲を弾くと、なんて美しいんだろう、と思います。だから、音や音楽って、至福の時間も狂気の時間も作るものなんです。
字面だけを見ると、モーツァルトみたいな人を連想しますね。彼の音楽を弾いていると、彼の人生の辛い部分は置いておいて、本当に音楽が大好きで、音楽に愛された人なんだろうな、と思います。「モーツァルトを聴くと頭がよくなる」とか、「お酒が美味しくなる」とかよく聞きますけど、そんなこと言われるのってモーツァルトだけですよね。やはり「音で遊んでた人」というのはモーツァルトですね。尊敬していますし、僕もそういう人間になりたいと思う存在です。
モーツァルトといえば、あの時代の音楽家は、自分で曲を作って演奏していましたよね。僕もこれまでに何曲か作って、観客の前で披露したこともありますが、とにかく恥ずかしいです(笑)。みんなどう聴いているんだろう?と気になりますし、どこで拍手すればいいのか、そのタイミングもわからないんじゃないかな?とも思います。自信はあるけど不安もある。不思議な感覚です。曲を書くというのは、自分が尊敬する音楽家に近づくためには通らなければならない過程だと思いますので、30代、40代には集中して取り組みたいと考えています。
反田恭平〔そりた・きょうへい〕
1994年生まれ。2012年、高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞。2014年、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学し、ミハイル・ヴォスクレセンスキーに師事。2015年にはサンクト=ペテルブルクで行われているロシア国際音楽祭に招待され、マリインスキー劇場管弦楽団とのコンチェルトおよびリサイタルを行い、ロシアデビューを飾る。2016年、サントリーホール大ホールでの日本デビュー・リサイタルは完売、2000人の聴衆を魅了した。2019年にはクラシック音楽の新レーベル「NOVA Record」を設立し話題を集めた。現在、F・ショパン国立音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)研究科(3期目)にてピオトル・パレチニに師事している。
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