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今月の音遊人:石若駿さん「音楽っていうのは、人の考えとか行動の表れみたいなものだと思う」
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フランク・ザッパの音楽と人生をたどる映画『ZAPPA』、2022年4月に全国公開
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2022.3.11
フランク・ザッパ(1940 – 1993)の音楽と人生をたどった劇場映画作品『ZAPPA』が2022年4月、日本公開されることになった。本作は20世紀アメリカ音楽を代表するアーティストの1人と呼ばれるザッパにとって初の“オフィシャル”な伝記ドキュメンタリー映画となる。
ザッパはロック/ポップ/ジャズ/クラシック/ブルースなどジャンルを超越しながら個性あふれる音楽性、シリアスなメッセージとダークなユーモアが交錯する歌詞世界で熱心なファン層を確立。わずか52年の人生で62作のアルバムを発表している(映画中で公にされている数字。没後にも53作が世に出ているそうだ)。『フリーク・アウト!』(1966)、『ホット・ラッツ』(1969)、『ジョーのガレージ』(1979)など、リスナーごとに“名盤”の定義が異なるのも彼の特徴だ。
数々のオリジナル・アルバムに加えてライヴ音源にスタジオでオーヴァーダブしてまったくの新作を創り上げる手法も斬新だったし、自らが高度なテクニックを誇るギタリストであり、最新テクノロジーだったシンクラヴィアを導入。バンド・リーダーとしてもスティーヴ・ヴァイ、エイドリアン・ブリュー、ウォーレン・ククルロ、マイク・ケネリー、テリー・ボジオ、ヴィニー・カリウタ、エディ・ジョブソン、ジャン=リュック・ポンティ、さらに息子ドウィージルとアーメットを世に出すなど、ザッパは多角的な音楽活動を行ってきた。1980年代には歌詞検閲団体PMRCの公聴会でスピーチを行うなど、彼はロック界の言論の自由を代表するスポークスパーソン的役割も担っている。
あまりに多岐にわたる活動ゆえに、ファンであってもその全体像を把握するのが容易でないザッパだが、『ZAPPA』はその出生から音楽活動、その死までを判りやすくまとめている。 未公開を含むライヴやプライベートのフッテージ、奥方ゲイル・ザッパやスティーヴ・ヴァイ、マイク・ケネリー、アリス・クーパー、パメラ・デ・バレスなどが彼を語るコメントなど、盛りだくさんの内容で、128分があっという間に過ぎていく。超絶難曲として知られる『ザ・ブラック・ペイジ』について時間が割かれているのも嬉しいところだ。また、1982年にまさかのサプライズ・ヒットとなった愛嬢ムーンとのデュエット『ヴァリー・ガール』にも言及がされている。
本作の監督はアレックス・ウィンター。俳優としてはキアヌ・リーヴスとコンビを組んだ“ビルとテッド”シリーズが有名で、2020年に第3作『ビルとテッドの時空旅行/音楽で世界を救え!』が公開されている。劇中ではメタル寄りのロック野郎として描かれている彼だが、実は長年のザッパ・ファンだという。言われてみれば、1991年の第2作『ビルとテッドの地獄旅行』でビルとテッドのエア・ギター速弾きをオーヴァーダビングしているのは、元ザッパ門下生のスティーヴ・ヴァイだったりする(ただウィンターがこの時点でザッパとの関連を意識していたかは不明だ)。
マニアであればあるほど、あれも入れたいこれも入れたいと長くなってしまって、“シロウトお断り”の大長編となってしまうリスクを孕んでいた本作だが、2時間にキッチリ収めたウィンターのプロ意識は称賛に値する。
“ディープ・パープルの『スモーク・オン・ザ・ウォーター』の歌詞に出てくるフランク・ザッパって誰だろう?”というライト層の音楽ファンにも優しく、同時にコアなファンも楽しめるのが本作だ。
その一方で、元々マニアの多いザッパの映画なのだから、1,000時間を超えるといわれるアーカイヴ(映画でも膨大な量のフィルムとテープが保管される倉庫が映し出される)からふんだんに映像を使って、とんでもない長さにして欲しかった気もする。2021年には8時間近くの『ザ・ビートルズ:Get Back』が配信公開され、大絶賛を浴びたばかり。ザッパも大量の未公開ライヴ映像がありそうだし、触れられなかったエピソードも少なくない。
ライヴ会場に選挙民登録所を設置したことは(アメリカでは投票するのに事前登録が必要)、ロック・ファンの意識改革に多大な貢献をした。また、自分のライヴを勝手に録音、レコード/CD化するブートレグ(海賊盤)業者に業を煮やして、質の良いブートレグを勝手にオフィシャル発売する“BEAT THE BOOTS”というアイディアを実行に移したのもザッパだった。日本のファンとしては、1976年2月に行われたたった一度のジャパン・ツアーにも触れて欲しかったし、日本を活動拠点のひとつとしているテリー・ボジオの談話も欲しかったかも。贅沢を言ったらキリがないが、本作を入口にして多くのリスナーがザッパの音楽に覚醒することを願わずにはいられない。
『ZAPPA』は新たな感覚への扉を開け放つゲートウェイ映画である。
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: 音楽ライターの眼, ZAPPA, フランク・ザッパ
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