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今月の音遊人:上野通明さん「ステージで弾いているときが、とにかく幸せです」
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指先から涙が噴き出しそうにエモーションを込めたポール・コゾフのギター。バック・ストリート・クロウラーの『ザ・ライヴ・パフォーマンス -ファースト&ラスト-』発売
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2022.5.10
tagged: 音楽ライターの眼, バック・ストリート・クロウラー, ザ・ライヴ・パフォーマンス -ファースト&ラスト-
最小限の音数で最大限の感情を表現するギター。10年に満たない活動期間で、25歳の若さで旅立ったポール・コゾフだが、その死から46年が経つ2022年現在でも世界中のリスナーを魅了し続ける。
1950年に生まれたポールは1960年代後半、英国ロンドンのブルース・シーンでデビューするが、フリーのギタリストとして一躍ブレイクを果たす。3枚目のアルバム『ファイア・アンド・ウォーター』(1970)からのシングル『オール・ライト・ナウ』はイギリスでチャートの2位、アメリカで4位というヒットを記録した。
そんな商業的な成功と並行して、ポールはギターの名手として支持を得ていく。ブルースを軸としながら、指先から涙が噴き出しそうにエモーションを込めたリード・ギターは聴く者のハートを捉えるもので、『ウォーク・イン・マイ・シャドウ』『ザ・ハンター』『ソングズ・オブ・イエスタデイ』『アイル・ビー・クリーピン』『ファイア・アンド・ウォーター』『カム・トゥゲザー・イン・ザ・モーニング』……と名演は枚挙にいとまがない。
1970年に英ワイト島フェスティバルで60万人といわれる大観衆を前に演奏、1971年には日本公演を行うなど世界規模の人気を誇ったフリーだが、ポールの身体はドラッグに蝕まれていく。翌1972年の2度目の来日公演に彼は同行せず1973年、バンドは解散するのだった。
ポールはソロ・アルバム『バック・ストリート・クロウラー』(1973)を発表。いきなり17分半のインストゥルメンタル『チューズデイ・モーニング』で始まるなど、決してコマーシャルな内容ではなかったが、彼の入魂のギターを全編堪能出来る作品で、現在ではアウトテイクを追加収録したデラックス・エディションが発売されている。
続いて彼はアルバムと同名のバンド、バック・ストリート・クロウラーを結成。アルバム『バンド・プレイズ・オン』(1975)を発表するが、ヘロインと鎮静剤マンドラックスへの耽溺でボロボロの状態で、しかも北米ツアーではマネージャーを殴って左手の指を突き指、急遽スナッフィ・ウォルデンが代役としてギターを弾いたこともあった。そして1976年3月19日、彼はロサンゼルスからニューヨークに向かう飛行機の機内トイレで息絶えているのを発見されている。死因は脳浮腫と肺水腫と診断された。既に完成していたバック・ストリート・クロウラーのセカンド・アルバム『2番街の悲劇』(1976)は彼の死後に発表された。
わずか10ヶ月程度の活動期間、しかもポールが欠席のこともあったバック・ストリート・クロウラーだがアルバム2作に加えて、ライヴ2公演の音源が残されている。それらをカップリングしたCD2枚組が『ザ・ライヴ・パフォーマンス -ファースト&ラスト-』だ。
CD-1の1975年6月15日、クロイドンのフェアフィールド・ホールでのライヴは5月〜6月に行われた初のイギリス・ツアーからのもの。ポールの死後、『彷徨える魂 Koss』(1977)『リーヴス・イン・ザ・ウィンド』(1982)などのコンピレーション盤で数曲ずつが小出しにされてきたが、1983年に『Croydon June 15th 1975』で全14曲がフル・アルバム化。『バンド・プレイズ・オン』からの曲に加えてソロ作からの『モルトゥン・ゴールド』、フリー時代からおなじみのアルバート・キングの『ザ・ハンター』などでポールのギター、テリー・ウィルソン=スレッサーのヴォーカルが冴えわたり、音質ももちろん良好だ。熱心なファンにとっては“定番”化している音源だが、2022年24ビット・リマスター/DSDマスタリングで音質アップが図られている。
CD-2の1976年3月3日、ロサンゼルスのスターウッド・クラブでのライヴはポールが亡くなる2週間ちょっと前の、生前ラスト・ステージだ。突き指も癒えてプレイも順調で、やはり『バンド・プレイズ・オン』からの曲をメインに弾いている。こちらは古くからテープがマニアの間で地下流通していた音源で、観客が盗み録りしたのではないかとも言われてきたが、音質・バランス共に大きな問題はなく、のめり込んで聴くことが可能だ。
なお、2020年に海外でリリースされたCD4枚組BOX『Atlantic Years 1975-1976』にはスタジオ・アウトテイク&未発表曲4曲が追加収録されていたが、『ザ・ライヴ・パフォーマンス -ファースト&ラスト-』日本盤をレーベル直販あるいは一部CDショップで購入した場合、その4曲を収録したCDシングルが先着特典としてプレゼントされるので、ぜひ手に入れて聴き込みたい。
さらに日本盤には2種類のフライヤー・レプリカ、両面ピンナップを封入するなど、気合いを込めた仕様となっている。
その死から46年、ポール・コゾフのギターの慟哭は止まることがない。
発売元:Wasabi Records
発売日:2022年6月22日
価格(税込):3,520円
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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