今月の音遊人
今月の音遊人:世良公則さん「僕にとって音楽は、ロックに魅了された中学生時代から“引き続けている1本の線”なんです」
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幼い頃からさまざまな楽器に触れ、チェロとサクソフォンを学んだ後に、東京藝術大学音楽学部の声楽科に入学。在学中から劇団四季で活躍し、退団後もミュージカル、演劇、ドラマなどで活躍中の石丸幹二さん。人生をいつも音楽と共に歩んできた石丸さんに、あらためて音楽への思いをうかがいました。
アメリカのソプラノ歌手、ジェシー・ノーマンが歌うシューベルトの歌曲『魔王』です。
私は音楽大学でサクソフォンを専攻していましたが、途中で藝大の声楽科を受け直して歌の道へと進みました。そのきっかけとなったのが、ある時テレビで見たジェシー・ノーマンだったのです。『魔王』を歌いながら、父親・息子・魔王の3役をひとりで、声と表情だけで見事に演じ分ける彼女の姿に大変な衝撃を受けまして、「何者だろう?この人は」と思ったのがはじまりです。
それからはもう、ひたすら彼女の歌を聴いて、来日公演には駆けつけて楽屋にまで押しかけて行ったりしていました。クラシックだけではなく、ミシェル・ルグランと共演したり、黒人霊歌をはじめ、あらゆるジャンルを歌うディーバにすっかり憧れた私は、「ジェシー・ノーマンのような表現者になりたい!」という思いで歌の世界に飛び込みました。
とはいえ、急な方向転換に周囲は驚きましたし、当時の私の求めているものと、実際にできることの差が大きすぎて苦しんだこともありました。けれども、歌だけでなく「表現」を追求することが、演劇の世界へと踏み出す一歩にもつながっていったのだと思います。オペラ歌手にはなれなくても、心の底から言葉の中に踏み込んで表現することは私にもできるだろうと考えたのです。テレビで彼女を見なかったら、今の私はなかったと思います。
もはや私の中の細胞のひとつのような感覚でしょうか。音楽をあえて聴かないようにすることもありますが、そうではない時はずっと音に包まれていたり音楽が流れていたりする環境にいますし、私自身、いつもメロディーを口ずさんでいます。
ですから、ドラマや演劇といった音楽とは直接関係のない現場から、ミュージカルや、司会を務めているテレビ番組『題名のない音楽会』などの音楽の現場に戻ってくると、湯船につかったような、少し安心したような気分になります。シャワーを浴びるのと同じ感覚で、音を浴びていますね。
私にとって、聴いていて心地良いなと感じる音は、ノイズの少ない、透明度の高い音でしょうか。楽器でいえばフルートや鈴のような澄んだ音色で、美しい余韻が残るようなものが好きです。ししおどしの「スコーン」と抜けるような音も良いですね。人工的に歪ませたりしていない、自然のままの音を浴びるとリラックスします。
ライブ演奏をする人たちの姿を、まずイメージします。その日、その場所にしかない音楽を生み出す人が「音で遊ぶ人」なのではないでしょうか。ジャズの即興演奏などは、その時々によって違った展開をしていく、まさに「今、そこで生まれている音楽」ですよね。クラシックでも、たとえばマルタ・アルゲリッチが、神がかった演奏をして会場が熱狂したといったことも、「今、そこにしかない音楽」だと思うのです。だから私は生の演奏にこだわるんですね。
私自身が演奏する側に立った時も、「こんなことが起こるのは今だけだよ」という瞬間をお客様と分かち合いたいと思っています。
もうひとつのイメージは、文字通り楽器を楽しんでいる人。私は幼稚園の時、はじめての習いごとでエレクトーン教室に通っていました。ありとあらゆる音が出ることに感動して、いちばん気に入っていたマンドリンの音色ばかり弾いていましたね(笑)。最近では、ギターを習い始めました。吉田次郎さんというギタリストとめぐり会ったことがきっかけなのですが、まだまだいろいろなことに挑戦し続けていきたいです。
石丸幹二〔いしまる・かんじ〕
歌手/俳優。幼少の頃から高校入学まで、ピアノ、スネアドラム、トロンボーン、サクソフォンなどさまざまな楽器に触れて育つ。高校ではチェロを学び、東京音楽大学ではサクソフォンを専攻するが、3年時に中退。1987年に東京藝術大学音楽学部声楽科に入学。1990年、大学在学時にミュージカル『オペラ座の怪人』(劇団四季)のラウル・シャニュイ子爵役でデビュー。劇団四季にて舞台俳優として活動を続け、2007年12月に退団。1年の充電期間を経て、09年から俳優活動を再開し、舞台のみならず、テレビや映画でも活躍。コンサートやアルバムリリースなど、音楽活動も本格的に行っている。
石丸幹二オフィシャルサイト http://ishimaru-kanji.com/