今月の音遊人
今月の音遊人:千住真理子さん「いろいろな空間に飛んでいけるのが音楽なのですね」
8551views
夏の八ヶ岳高原音楽堂を舞台に「サマーリゾート・ミュージック・ウィーク」を開催!/葉加瀬太郎インタビュー
この記事は4分で読めます
7698views
2022.6.8
tagged: インタビュー, 葉加瀬太郎, サマーリゾート・ミュージック・ウィーク, 八ヶ岳高原音楽堂
バンドやオーケストラ、野外フェスティバルなど、多彩なライブを楽しませてくれるバイオリニスト、葉加瀬太郎。2022年の夏は、高原の避暑地で開催される「葉加瀬太郎 サマーリゾート・ミュージック・ウィーク」の舞台に、約1週間登場する。気心の知れた仲間たちと親密な音の会話を届けてくれそうだ。
舞台は、信州・八ヶ岳高原音楽堂。自然と調和する美しい木造ホールは葉加瀬にとっても憧れの場所で、数年前から真夏の拠点とすべく、ライブにレコーディングにと積極的に活用してきたという。
「世界で一番好きなホールです。オープンな感覚でリラックスできて、残響もちょうどいい。その凜とした美しい響きは、洗いざらしのデニムに真っ白の質のいいコットンのTシャツを着た、ナチュラルでスタイリッシュな女性のよう」
豊かな表現にユーモアを交える葉加瀬らしいコメントでホールへの愛着を語ってくれた。
このホールで「サマーリゾート・ミュージック」と銘打って2019年から行っているのが、西村由紀江(ピアノ)と柏木広樹(チェロ)のトリオ編成のコンサート。互いに大学に入学した頃から知り合った同世代の仲間で、葉加瀬が率いる「HATS(ハッツ)」のレーベルメイトでもある。
「この3人でやるときは、オーケストラやバンドのように、スタジオで時間を区切ってリハーサルしないんです。それにリハーサルとは言わず、『合わせ』と言う。『何時スタート?じゃあ11時ぐらい?』という感じで僕の家に集まって。リビングのピアノのそばで、『ここ、こう変えたら?』などと言って譜面を書き直しながら進める。2週間に1回くらいのペースかな。僕たちの一年に一度の発表会というか夏合宿が、この八ヶ岳です」
タンゴのアストル・ピアソラ、ボサノバのアントニオ・カルロス・ジョビンなど海外の名曲をはじめ、それぞれのオリジナル曲をトリオ用にアレンジして演奏する。
「まだ表立ったツアーはやっていないけど、地道に活動を続けていて、アルバムや譜面もいずれ出すつもり。3人で一緒にいると楽しくてたまらないんです。オーケストラやバンドとは違う喜びがあって。冗談半分で、終の住処と言っています」
2022年は、そのトリオとしての公演に加え、西村、柏木、さらに、加古隆(ピアノ)、羽毛田丈史(ピアノ)、小野明子(バイオリン)という顔ぶれがソロコンサートを行い、葉加瀬は全ての公演にゲストとして出演する。計8日間、ステージに立つことになり、実に精力的な活動となるが、葉加瀬はその先を見据えている。
「僕のファミリーが八ヶ岳にだんだんと根付いていき、拡大することによって、クラシックの音楽祭というか、1か月のサマーキャンプのようにしたいという壮大な夢があるんです。海外からもアーティストが来て、学生たちへの公開レッスンもあって、みんなで音楽を共有するようなものに育てたいなと思っていて。そうすると僕は夏の八ヶ岳に2か月ぐらいいられるでしょ」と笑う。
そんな構想を語る葉加瀬の脳裏には、大学1年生で参加した「木曽福島音楽祭」の思い出がある。ここに代理講師として登場したのは、ヨーロッパから帰国したばかりのバイオリニスト、古澤巌だった。葉加瀬は中学の時から古澤の大ファンで、これをきっかけにバンドを組み、今に至る友情を築いてきた。
「そこで僕の運命は決まったようなもの。その当時から一緒にいるのは、柏木であり、西村であるんです。だから、『サマーリゾート・ミュージック』は人生の総まとめを始めているようなもの。愛する人をどんどん八ヶ岳に呼んで、そのうち、『ハッツヶ岳』にしたいんだよね」と、自身のレーベルである「ハッツ」になぞらえて、シャレてみせた。
さて、2022年のラインナップのうち、ピアノの羽毛田丈史は葉加瀬のコンサートツアーの音楽監督としておなじみだろう。加古隆は「ここで加古さんのピアノを聴いたら気持ちいいだろうなあと思って」と、葉加瀬が出演を依頼した。NHK『映像の世紀』のテーマの作曲で知られるベテランだ。そして、バイオリンの小野明子は、葉加瀬が暮らすロンドンで知り合った、バイオリンの師匠なのだ。
「最初は娘の先生でした。でも、レッスン室から聞こえる音がとんでもなくすごいので、弟子にしてください、とお願いしたんです。僕は、ショーアップしたバイオリンのために、そして自分ならではの音色を作るために、機能的で合理的な弾き方を捨ててきてしまったのですが、これではブラームスは弾けない。初めて先生に見てもらったとき、『どこがダメですか』と聞いたら、『全部ダメです!』とたたき直されました」
小野は、バイオリンの巨匠、ユーディ・メニューインの愛弟子。12歳のときロンドンのメニューイン音楽院に単身入学して以来、イギリスで暮らしている。そのため日本での演奏機会はあまり多くないが、葉加瀬は「ヴィルトゥオーゾ(音楽的な達人)です」と圧倒的な技巧を称賛する。
八ヶ岳音楽堂のキャパシティは250人。「音楽は会話に例えられるけど、オーケストラになるとスピーチ、バンドだとパーティみたいになる。でも、ここでは完全な個室だから親密な『対話』。音楽的にさらけ出すこともいっぱいあります」
聴き手にとっては、葉加瀬の音楽人生や交友関係があらわになる現場をそばで見られる貴重な機会になりそうだ。
会場:八ヶ岳高原音楽堂(長野県南佐久郡南牧村)
会期:2022年7月23日(土)〜7月31日(日)※各日15:00開演(14:30開場)
7月23日(土):加古隆ソロ&クァルテット/ゲスト:葉加瀬太郎 ※チケットは完売しました
7月24日(日):西村由紀江ピアノ・コンサート with 葉加瀬太郎
7月25日(月):羽毛田丈史カルテット with 葉加瀬太郎
7月26日(火):柏木広樹チェロ・コンサート with 葉加瀬太郎
7月29日(金):小野明子ヴァイオリン・コンサート with 葉加瀬太郎
7月28日(木)・30日(土)・31日(日):葉加瀬太郎 サマーリゾート・コンサート/葉加瀬太郎(バイオリン)、柏木広樹(チェロ)、西村由紀江(ピアノ)
詳細はこちら
文/ 仁川清
本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
tagged: インタビュー, 葉加瀬太郎, サマーリゾート・ミュージック・ウィーク, 八ヶ岳高原音楽堂
ヤマハ音遊人(みゅーじん)Facebook
Web音遊人の更新情報などをお知らせします。ぜひ「いいね!」をお願いします!