今月の音遊人
今月の音遊人:三浦文彰さん「音を自由に表現できてこそ音楽になる。自分もそうでありたいですね」
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ピアニストとしての真摯な生き様が爽やかな感動を伝える。仲道郁代『ピアニストはおもしろい』
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2015.9.4
tagged: ピアニスト, 仲道郁代, ピアニストはおもしろい, 春秋社
「どうしてピアノを始めたのかはわからない」という、ちょっと意外な一文で始まる仲道郁代さんの著書『ピアニストはおもしろい』は、300ページを超える力作。読み始めた瞬間から、ぐいぐいと仲道ワールドに引き込まれていくのは、時に仲道さんらしいユーモアも交えながら、自身の言葉で率直に綴った文章のひとつひとつに深く共感するからだろう。
順風満帆と思われるピアニストへの道。しかしそれは、工夫と努力、困難を乗り越える力を必要とする厳しい道だった。子ども時代には「順番に段階を踏んでいく日本式の教育」を受けた。それを「宝だった」と振り返るとともに、父の仕事の関係で経験したアメリカでの生活にも触れる。良いところを賞賛するアメリカ文化の中で室内楽や作曲にも出会い、視野を広げる。14歳の時には、ホロヴィッツの歴史的コンサートを聴くチャンスにも恵まれた。大曲を弾き終え、聴衆の大喝采に応えた後…。
「アンコールが続いた中で、ふと『ドファ』と、ある曲が始まった。静かな静かな音で、それはシューマンの《トロイメライ》だった。と、何の前触れもなく、涙が一筋頬を伝わって落ちた。(中略)たった二つの音の連なりに泣けた。(中略)帰宅してピアノに向き合ったとき、これまでとは異なる新しい感覚がそこにあった」(本文より)
「たどり着けないけれど、見つけたい地点。その感覚を持つことが音楽に向き合う喜び」と語る瑞々しい感性と純粋な思いに、自然に感動がわき上がってくる。
その後、単身帰国して日本で学び、ドイツ留学へ。留学中に国際コンクールに挑み、本格的にデビュー。時に失敗して落ち込んでも、ずっとピアノを弾き続けた仲道さんの生き方に勇気をもらう。
どんな時も弾き続けたのは、「ピアノの音が好きだったから」。それは「懐かしいような、甘酸っぱいような、胸がキュンとなる何かをもたらす音」と、ピアニストの言葉でピアノの魅力を語る。演奏家の視点は、作曲家や作品、楽器、そして弾き振りの体験について綴った章でもいきいきと躍動する。ピアノを学ぶ人にとって実践的に役立つだろう。
ピアノを大好きになった幼い日々、尊敬する師との出会い、コンクールでのエピソード、音楽仲間との交流、母となり演奏活動との両立に奮闘した日々、演奏家として社会で果たす役割を考え行動したこと…。それらすべてが糧となり、今のピアニスト仲道郁代が存在している。そう思うと、今すぐにでも仲道さんの演奏が聴きたくなった。
仲道郁代(なかみち・いくよ)
4歳でピアノを始め、桐朋学園大学1年在学中に日本音楽コンクール第1位、その後、文化庁の在外研修員として学んだミュンヘン国立音楽大学留学中にジュネーブ国際コンクールで最高位、エリザベート王妃国際コンクール入賞。1987年、本格的に演奏活動をスタート。近年では、ベートーヴェン、ショパン、モーツァルトなどのシリーズ企画、子どもたちと音楽との幸せな出会いをプロデュースするプログラム「不思議ボール」、各地の学校を訪問するアウトリーチ活動も積極的に行なっている。
オフィシャルサイト:http://www.ikuyo-nakamichi.com/
『ピアニストはおもしろい』
著者:仲道郁代
発売元:春秋社
発売日:2015年2月13日
価格:2,000円(税抜)
ご購入はヤマハミュージックWeb Shopの本書のページをご覧ください。
文/ 芹澤一美
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