今月の音遊人
今月の音遊人:富貴晴美さん「“音で遊ぶ人”たちに囲まれたおかげで型にはまることのない音作りができているのです」
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音楽は永遠の命を持ち続ける。たくさんの思いをつなぐ『ニコニコおひさま』
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2024.1.24
大きな共感を呼び、演奏の輪が広がっている曲がある。一色由利子さん(一色音楽教室主宰)作詞・作曲の『ニコニコ おひさま』だ。著名なピアニストによるオリジナルアレンジ・バージョンも話題となる中、満を持して連弾バージョンがお披露目されると聞き、一色音楽教室発表会にお邪魔した。
連弾バージョンを初演するのは、ピアニストの米津真治さんと小瀧俊治さん。たがいにソロ活動をするかたわら、デュオ活動も展開している。この日は、プログラムに掲載された3曲とアンコールを含めた全6曲を演奏。4曲目に、連弾による『ニコニコ おひさま』が披露されたのだが、プログラムには書かれていなかったため、ちょっとしたサプライズとなった。
「次はみなさんが知っているあの曲です。あえて曲名は言わずに弾きます」。そんな米津さんの曲紹介で演奏が始まると、軽快でおしゃれな音色に一瞬で心を奪われた。おなじみのメロディが聴こえてくると、「あ!」という感じで嬉しそうに友だちや家族と顔を見合わせる生徒たち。この教室の生徒や家族にとって、『ニコニコ おひさま』は特別な1曲だ。普段から歌ったり演奏したりして、大切にしている。
曲の背景にはこんなストーリーがある。かつて、一色音楽教室に2歳で入門した女の子がいた。名前は瞳さん。「耳が聴こえませんが、レッスンしていただけますか?」と、お母さんと教室を訪ねてきた瞳さんは、教室のほかの生徒とともに楽しくレッスンを続けた。一色先生はその姿を、「誰よりも楽しそうに、ニコニコの笑顔でぴょんぴょん跳ねて、リトミックを楽しんでいました」と振り返る。
努力を重ねて大学進学を果たし、留学も決めた瞳さん。その報告のために一色先生のもとを訪れた6日後、交通事故によって命を奪われてしまった。希望に満ちて夢を抱いていた瞳さんの「生きた証を残したい」という両親の願いを受け、その思いを「音楽という形で永遠に残してあげたい」と生まれたのがこの曲だった。
教室で歌い継ぐうち、『ニコニコ おひさま』は教室以外の人々にも歌われるようになり、しだいに多彩なアレンジも生まれた。その輪はやがてこの曲の趣旨に賛同したピアニストにも広がり、小原孝さん、黒岩航紀さん、藤井空さんなどが独自のアレンジをYouTubeにアップ。それを見た人がまた演奏動画を拡散し、音楽の輪はさらに大きくなっていった。そして今回、連弾という新たなバージョンが加わった。ぜひ連弾バージョンが欲しいと思い続けた一色先生の願いが米津さん、小瀧さんによって実現した。
キレのある演奏、心地よいテンポ感が、音楽をどんどん前に進めていく。4手から生まれる厚みのあるサウンドが、気持ちをとても明るくしてくれる。この音楽の中に、そして多くの人の心の中に、確実に瞳さんは生き続けている。そんな思いをめぐらしていると、どこからともなく手拍子が起こり、やがて大きくなっていった。それはまるで、『ニコニコ おひさま』の広がりを表しているようだった。
演奏後、お二人は次のように語った。
「会場全体が一体となって、気持ちがひとつになったのを感じました。曲のもつ力とみなさんの想いが見事に重なった瞬間でした。この曲のエネルギッシュな部分が僕たちの連弾にも合っているし、前向きな気持ちが伝わる曲ですね」(小瀧さん)
「手拍子が聴こえてきて、さらに気持ちが乗りました!観客の皆さんの前で初めて弾くという特別感もありましたし、ストーリーも含めたこの曲の魅力を連弾で表現したいとずっと思っていたので、ようやくそれがかないました。すごく楽しかったです」(米津さん)
連弾という新たなバージョンを世に送り出したお二人。音楽で思いをつなぐ、その橋渡し役に加わった。
「そのことが本当にうれしいですね。僕らは瞳さんにお会いしたことはありませんが、きっとすごくポジティブで前向きな方だったのでしょう。だからこそ、こうして連弾という形でみなさんの思いを伝えられて、すごくよかったです。今回演奏した連弾バージョンは、とても素敵なアレンジで、挑戦しがいのある、ちょうどいい感じの難度です。ぜひ多くの方に楽しんで弾いていただきたいですね」(米津さん)
演奏の輪が、こうしてまた広がっていく。コンサートを終え、一色先生は「音色に無限の広がりを感じ、人の心の優しさ、強さ、たくましさを心の底から味わうことができました。音楽は永遠の命を持ち続けます」と言葉を寄せた。
アレンジによって多彩に表情を変え、多くの人の思いを輝かせる『ニコニコ おひさま』。不思議な魅力をもつこの曲を、聴いて、歌って、演奏してみてほしい。それがまた一層大きな輪になって、人々に繋がっていくのだろう。『ニコニコ おひさま』のこうした広がりは、黒岩航紀さんから一色先生に伝えられたという、この言葉に象徴されるだろう。
「音楽の尊さ、美しさはこういうところにあるのでしょうね!」
米津真浩〔よねづ・ただひろ〕
東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース)卒業。同大学院を首席で修了。大学院修了後、母校である東京音楽大学にて非常勤助手として後進の指導にあたり、その後、更なる研鑽を積むため、2013年・2014年度RMF奨学生としてイタリアの名門イモラ音楽院へ留学。2007年 第76回日本音楽コンクールピアノ部門 第2位入賞。岩谷賞(聴衆賞)を受賞。ソロ、室内楽、様々なオーケストラとの共演等の演奏活動だけにとどまらず、TV出演、ボランティア活動、後進の指導、アウトリーチ活動にも積極的に力を注ぐ。現在、YouTubeにてほぼ毎日オンライン生配信でピアノ演奏配信を実施中。
オフィシャルサイト
小瀧俊治〔こたき・としはる〕
東京音楽大学ピアノ演奏家コースを卒業。同大学大学院修了。第14回コンセール・マロニエ21第1位等多くのコンクールで入賞。ソロ活動の他、龍玄とし(Toshl)のソロライブサポートや華道家・假屋崎省吾とのピアノデュオでの共演等、クラシックのみならず活動は多岐に渡る。ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスによる楽器擬人化プロジェクトMusiClavies(ミュージックラヴィス)フォルテ(ピアノ)演奏担当。尺八・篠笛アーティスト山口整萌とのユニット『ピアノ尺八INFINITY』としても注目を集めている。
オフィシャルサイト
文/ 芹澤一美
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tagged: ニコニコおひさま, 米津真治, 小瀧俊治, 一色由利子
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