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連載7[多様性とジャズ]白人が黒人の“まね”をしていたジャズには歌があったのかなかったのか?

歌の“あるジャズ”と“ないジャズ”について、もう少し掘り下げていこう。

19世紀前半、北アメリカ大陸の玄関口として発展していたのはルイジアナ州ニューオーリンズだった。19世紀後半になると中西部が開拓され、経済圏がニューオーリンズを中心に半径500〜1,000キロメートルへと広がっていく。

それにともない、それまでニューオーリンズで流行っていた文化も各地へと波及していくことになる。直接の要因は、ニューオーリンズで“文化のゆりかご”となっていた歓楽街“ストーリーヴィル”の閉鎖(1917年)だったが、第一次世界大戦による好景気でエンタテインメントの需要が高まったことが追い風になった。

そのニューオーリンズで流行っていた文化の軸となっていたのが、後にジャズと呼ばれるようになる音楽=パフォーマンスだった。

アメリカ国内でジャズが注目を集めるようになると、白人社会でも演奏される機会が増えたわけだが、リンカーンが奴隷解放を宣言したあとも黒人差別は続き、白人の社交場で黒人演奏家が演奏の機会を与えられることはほとんどなかった。

必然的にジャズを演奏する白人ミュージシャンのニーズが高まり、1916年にシカゴの居酒屋に出演したトム・ブラウン(トロンボーン)率いるバンド(彼らをはやし立てた“Jass it up !”という言葉が“Jazz”の語源と言われている)や、1917年に初のジャズ・レコーディングを果たしたドミニク(ニック)・ラロッカ(コルネット)率いるオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドがジャズ史に登場することになる。

21世紀の現在に至ってもブラック・ライヴズ・マターといった黒人差別への抵抗運動が続くアメリカで、白人が黒人の“まね”をすることに対する抵抗や軋轢はなかったのかという疑問が、日本人には湧いてくるかもしれない。

例えば、19世紀に入って人気を呼んだミンストレル・ショー。これは、黒人の口調や動作を誇張することで観客のウケを狙ったものだったが、出演者の多くは白人の芸人だった。

“まねる”(差別意識に根ざした模倣)というワンクッションを置くことで演者も観客も“差別”を否定的ではなく肯定的に表現できる空気感を生んでいたのだろう。

今回の“ニューオーリンズの音楽が白人の手で全米へと広がり、ジャズの隆盛へつながっていった”というエピソードは、歌の“あるジャズ”と“ないジャズ”を語るための序章。次回は、全米へと広がったニューオーリンズの音楽が“楽器演奏であって歌ではなかった点”を考えてみたい。

「多様性とジャズ」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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