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今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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【楽器と空の旅 Vol.1】トランペットと旅をする真砂陽地さんと犬飼伸紀さんが語る、楽器を運ぶための工夫と旅の楽しみ
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2026.1.28
演奏と旅は、音楽家にとって切っても切り離せないもの。ジャズやポップス、ファンク、ソウルと幅広いジャンルを横断し、数多くのアーティストの公演サポートメンバーとしても各地を飛び回るトランペット奏者の真砂陽地さんと、日本フィルハーモニー交響楽団副首席トランペット奏者として、オーケストラ公演やツアーで多忙な日々を送る犬飼伸紀さんが、楽器とともに移動する際の工夫や、旅ならではの楽しみ、そして「トランペットあるある」まで、リアルな体験を語ります。
真砂:年間100日以上は演奏旅行をしているので、いつの間にか旅好きになっていました。現地のおいしいものや会場ごとに違うお客さんの温度感など、旅だからこそ味わえる楽しさがたくさんあります。
犬飼:僕も毎年2月には九州ツアーで全県を回りますし、最近も北海道の北見や愛媛など全国各地に行く仕事が続いています。実はインドア派なのですが、ふだんあまり行かない地域に伺うとやっぱりワクワクしますね。全国で行っている日フィルの楽団員による音楽クリニックは、基本的に各セクションからひとり参加するのですが、今は自分から「行きます!」と手を挙げるほど旅が好きになりました。日フィル以外にも仙台フィルやマカオのオーケストラに行くこともあり、合間に観光スポットや穴場カフェを巡るのも毎回の楽しみです。
真砂:旅について回るのが楽器の持ち運びですよね。僕は旅でも都内の仕事でも、できるだけ同じスタイルで動くようにしています。とにかく荷物を少なく、身軽に。楽器、ミュート、オイル、グリスが入ったケースに服を追加するだけで、すぐ旅に出られる状態にしています。できれば、そのままステージに立てる服と靴で移動したいくらいです(笑)。

真砂陽地さん
犬飼:僕もケースはいつも同じものを使っています。副首席というポジション柄、吹くパートが1番だったり2番、3番だったり、アシスタントだったりと役割がさまざまなので、その都度持ち歩く楽器も変わってきます。また、クラシックは燕尾服かタキシード、もしくはその両方、さらにエナメル靴も必要なので、どうしても荷物が増えてしまう。個数を減らそうと試行錯誤中で、最近はケースとキャリーバッグのふたつにまとめるスタイルに落ち着いてきました。
真砂:ケースを変えてマウスピースを忘れそうになったことはありませんか?
犬飼:まさに、やってしまったことがありました。韓国に着いてから、マウスピースが入っていないことに気づいたことがありました。韓国の大学とのコラボ企画だったので、学校の備品でなんとかしのいで乗り切りましたが、ケースはいつも同じものを使うのが安心ですよね。
真砂:それって“トランペットあるある”ですよね。僕もシングルケースからダブルケースに入れ変えたとき、マウスピースを忘れたことがあります。慌てて現地でヤマハのボビー・シューモデルを買ったら、これが思いのほかすばらしく、今ではメインとして使用しています。あとは、オイルも忘れがちですよね。僕は“混ぜたくない派”で人のものを借りると少し違うため、複数のケースに同じオイルを入れてあります。
犬飼:オイルといえば、移動中はオイルやグリスが暖房などで温められて溶け出さないように気を遣いますね。そして飛行機では揺れることもあるので、楽器の扱いには細心の注意を払います。ベルの縁は本当に曲がりやすいので、ケースに収納するときには、ベルの内側から重さを支えている状態になるように付属のクッションや気泡緩衝材で固定して、フレアの部分はフリーにします。その上で、機内に持ち込んで上方の収納棚に入れています。

犬飼伸紀さん
真砂:僕も基本的には機内持ち込みです。棚に上げるときは自分の荷物で周りを囲って、客室乗務員さんに「楽器なので、あまり動かさないようお願いします」とひと声かけるようにしています。
犬飼:最近は楽器を持ち込む人向けに優先搭乗できる航空会社も増えてきましたよね。楽器を頭上の棚に確実にしまえるので助かります。
真砂:保安検査でも丁寧に扱ってくれますし、ありがたいですね。
犬飼:持ち運びには、ケースもとても重要ですよね。真砂さんは、マーカス・ボナ(以下MB)を愛用されていますね。
真砂:大学時代、先輩からモネットのトランペットを譲ってもらったのがきっかけです。「ハンドメイドで曲がりやすいから、頑丈なケースを使って!」と言われて購入したのがMBのシングルケース。それ以来ずっと愛用しています。今はシングル、ダブル、トリプルのケースを所有しています。100日以上の旅にも耐える頑丈さが気に入っていますし、レザーの張り替えなどカスタムできる点も魅力です。

トランペット2本とフリューゲルホルン1本を収納できるMBのトリプルケース(品番:MB02TPFH)。楽器ケースを前に背負うと、写真のように腕をおけるのも、お気に入りのポイントだそう。
犬飼:僕もMBケースの購入を検討中で、3本持っていくとしたら、B♭管、C管、ピッコロ。あとその日の演奏曲で使う楽器がロータリートランペットのB♭管、C管のみの場合でも、音出し用にピストンのB♭管は必ず持っていきます。B♭管の取り出しやすさや他の楽器の配置とのバランス、本数や種類によって不安定にならないか。どのケースサイズにどういった配置をすれば楽器が安全に保たれるかを慎重に検証している最中です。いずれにしても、MBは安心感が得られるケースという印象です。
真砂:今のお話ですが、必ずB♭管で音出しをするんですか?
犬飼:大学でそう教わったんです。本番でC管しか使わない日でも、僕たちが使うなかでは一番長いB♭管で毎日アップすることで調子が安定する、と。若いころは半信半疑でしたが、実際その通りなんですよね。僕が知る限り、クラシック奏者の99%は本番で使わなくてもまずB♭管を吹きます。
真砂:そうなんですね。僕はB♭管とフリューゲルホルン、ピッコロをトリプルケースに入れて持っていくことが多いです。ピッコロがない場合はマウスピースやミュート、備品を入れています。フリューゲルホルンはベルが大きいのですが、MBだと入るんですよね。実は、ヤマハにベルをカスタマイズしてもらった楽器があるのですが、それは機内持ち込みサイズをオーバーしているため、MBケースに入れて受託手荷物として預けています。はじめはちょっと不安でしたが、先週は北海道、今週は博多と移動するような日々のなかで、荷造りでストレスを溜めないことを優先しました。あまり神経質にならないようにしていますが、これまでまったく問題はありません。
犬飼:飛行機で楽器と一緒にいろいろな土地へ行けて、広い地域で演奏できるのは本当に幸せなことですよね。
真砂:アーティストの方々の公演に出演する仕事では旅が日常ですが、知らない場所に行くことは刺激しかないです。違う土地で知らない人と出会ったり、まったく違う空気を感じながら演奏したりすることは楽しいですね。その土地の気候や湿度によって音の鳴り方も全然違いますしね。音の感覚が変われば、演奏にも影響が出る。旅は音楽家や音楽を愛する人にとって、確実にプラスをもたらしてくれると思います。
犬飼:楽器とともに旅することは、演奏の楽しみをたくさん広げてくれますね。
Marcus Bonna〔マーカス・ボナ〕
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