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今月の音遊人:山下洋輔さん「演奏は“PLAY”ですから、真剣に“遊び”ます」
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ベートーヴェンの苦闘からシューマンの夢幻へ。仲道郁代 スペシャル・コンサート~フォルクハルト・シュトイデ(バイオリン)を迎えて~
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2020.2.4
tagged: 仲道郁代, 音楽ライターの眼, ベートーヴェン, フォルクハルト・シュトイデ
2020年、生誕250年のベートーヴェンと210年のシューマン。40年差の間には古典派とロマン派という西洋音楽史上の時代区分があるが、双方のつながりを実感する公演があった。1月13日、ヤマハホールでの「仲道郁代 スペシャル・コンサート~フォルクハルト・シュトイデ(バイオリン)を迎えて~」。仲道のピアノソロに、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスターのシュトイデとのデュオも交え、ベートーヴェン、シューマンとその妻クララの作品の本質を追求した。
1曲目のベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第21番ハ長調『ワルトシュタイン』作品53」を仲道は驚くほど大胆に弾く。第1楽章を豪放に駆け抜ける。性急でリズムやタッチにやや不安もあったが、ベートーヴェンの怪物性を強烈なデュナーミクで浮き彫りにした。パリのエラール社から贈られた広音域で音量の大きい新型ピアノを使って作曲されただけに、ソナタやロンドの古典形式からはみ出しそうなほど壮大なスケールで鳴るべきだ。古典派にしてロマン派の発端でもあるベートーヴェンの本質が、仲道の演奏で浮かび上がる。短く穏やかな第2楽章を持ち前の繊細さで鳴らし、第3楽章では遅めのテンポでスフォルツァンドを強調、重厚さを出した。明るいハ長調の中に苦悩もにじませる解釈は、楽聖のすごみを伝える。
続くベートーヴェン「バイオリン・ソナタ第7番ハ短調作品30-2」は劇的だ。シュトイデのバイオリンは滑らかだが、張りがある。第1楽章では軍楽調も勇壮に奏でられ、ナポレオン戦争の時代を想起させる。仲道のピアノはこの曲でも強弱が激しく、バイオリンとの緊張感を高める。古典形式の中で難聴と闘う悲劇を語るかのようだ。こうしたドラマの内面が夕映えのような夢幻に染まるのが、シューマンの作品だ。
シューマンも仲道が得意とする作曲家。後半はまず妻クララの「3つのロマンス作品22」から第2、3番をシュトイデと共演した。気品に満ちた哀愁の叙情性は仲道の真骨頂だ。夫シューマンの「幻想小曲集作品12」(抜粋)では第2曲「飛翔」の激烈なピアノ独奏が印象に残った。
最後はシューマン後期の「バイオリン・ソナタ第1番イ短調作品105」。ドイツ・ロマン主義の画家フリードリヒの絵のような薄暗い幻想風景が広がる。現実から夢幻へと飛翔したシューマン。その精神がついに揺らぐ様子が第3楽章の終結部ににじみ出る。2人のスリリングな掛け合いが頂点を築き、不安と憧れの交錯を余韻として残す。
ベートーヴェンの苦闘からシューマンの病に至るまでの時代を奏でた公演。アンコールのクララ作曲「3つのロマンス作品22」第1番からは、夫シューマンの主題が聞こえてくる。追想という名のロマン派の美質が聴き手を捉えてやまない。
池上輝彦〔いけがみ・てるひこ〕
日本経済新聞社文化部デスク。早稲田大学卒。証券部・産業部記者を経て欧州総局フランクフルト支局長、文化部編集委員、映像報道部シニア・エディターを歴任。音楽レビュー、映像付き音楽連載記事「ビジュアル音楽堂」などを執筆。専門誌での音楽批評、CDライナーノーツの執筆も手掛ける。
日本経済新聞社記者紹介
文/ 池上輝彦
photo/ Ayumi Kakamu
tagged: 仲道郁代, 音楽ライターの眼, ベートーヴェン, フォルクハルト・シュトイデ
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