今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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2017年の梅雨の時期。立て続けにボクの目の前にデュオのアルバムが出現した。
「あれ?」と思ったことが、今回のこの原稿を書くきっかけにもなっている。
加藤真一&佐藤允彦『An Evening at Lezard』
改めて紹介するまでもない、日本を代表するベーシストとピアニストのデュオである。
1980年代後半から共演歴を重ねてきた両者は、2001年にドイツのレーベルからデュオ・アルバム『Duet』をリリースしている。
このアルバムはその延長線上にあると言えるものなのだけれど、なにを基準に引いた延長線なのかと言えば、“やすらぎ”というワードに集約されるようなテイストなのではないかと思う。
20世紀後半のジャズ・インプロヴィゼーションの最前線で“闘って”いた両名が、来し方を振り返りながら行く末を見渡したとき、闘いの時期は終わったと感じたに違いない。
“対する”という部分に意味づけがなければならないというのが、インプロヴィゼーションの存在意義にもなるテーマなのだけれど、ある意味で丁々発止でもなく、予定調和をにらむわけでもないところで、いかに“2人がいる意味”をもてるかを問い直そうとした答えが、前作の『Duet』だったのではないだろうか。
それから16年、繰り返し2人のあいだで交わしてきた会話は、2人だけという排他的な世界ではなく、オーディエンスとのつながりをも含めた空間でのデュオという次元へ進んでいることを、この作品で教えてくれる。
だから、音を埋めようとしない距離感のなかに、“暖かみ”を感じてしまうのだ。
藤枝伸介&富樫春生『NIGHT SPHERE』
1970年代後半からスタジオ・ワークを始め、日本のコンテンポラリー・ジャズのみならずJポップの世界でも欠かせない人材として活動してきた富樫春生と、21世紀初頭のi-depでの活動を皮切りに、ストリート・シーンにおいて不可欠な人材として注目を浴びるようになった藤枝伸介による熱いライヴ。
ここでは、エレクトロニクス系の“道具”を使って演出しながら、内省的ではあるものの沸点を超えて切り込んでくるサックスの藤枝を、ピアノ1台で受けとめる富樫という、意外なバランスを表出させたデュオを体験できる。
それはある意味で、両者がプロデューサー的な視点をもっているから成立したパフォーマンスなのかもしれない。
たとえるとしたら、会話がなく、独白だけが交差するような舞台劇。あるいは、シテとワキが時空を超えて物語を編んでいく“能”だろうか。
これもまた、新しい。
<続>
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ/富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook
文/ 富澤えいち
tagged: ジャズ, デュオ, ジャズとデュオの新たな関係性を考える
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