Web音遊人(みゅーじん)

恋は神代の昔から。バロック期の恋の歌を古楽器伴奏で切々と/コンチェルト・イタリアーノ・スペシャル・アンサンブル

恋は神代の昔から。バロック期の恋の歌を古楽器伴奏で切々と/コンチェルト・イタリアーノ・スペシャル・アンサンブル

イタリアバロック音楽演奏で世界的に活躍中の古楽合奏団、コンチェルト・イタリアーノがヤマハホールに初登場。マドリガルと呼ばれる世俗歌曲を、生誕450年のクラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643)の作品を中心にたっぷり披露した。

舞台配置は、中央にチェンバロ、左右にソプラノとテオルボが1人ずつの合計5人。

世俗歌曲は、概ね1節数行で2~5節程度で構成された文学的な詩に、シンプルな旋律を付けたものだが、作者不詳の詩も珍しくない。リナルド・アレッサンドリーニの朗らかなチェンバロとクレイグ・マルキテッリ、ウーゴ・ディ・ジョヴァンニ両人のテオルボの多彩なハーモニーがソプラノ歌唱と溶け合って、心がすうっと落ち着いていく。

歌詞の内容はというと、恋心を炎にたとえて、想い人に振り向いてほしい、ほほえみに癒やされたいなどと願ったり、はたまた心変わりを嘆いたり、つれない態度を責めてみたり……。昨今のラブソングと大差はない。

モンテヴェルディは、このようなマドリガルの作曲に人生の大半を費やしている。1587年に出版されたマドリガル第1巻から1638年の第8巻に至る期間を計算しただけでも、実に半世紀あまり!しかも、死後の1651年に第9巻も出ているのだ。

この日は第7巻の作品が主で、ソロかデュオで歌われた。モニカ・ピッチニーニはドラマチックなソプラノ、アンナ・シンボリは静寂を描くような繊細なソプラノで、デュオのコール&レスポンスやフレーズの追いかけ合いなどでは、持ち味の違いが妙味を醸し出し、今どきのツインヴォーカルが自由に掛け合って歌う原点を見る思いがした。

さて、古楽ファンでもなければ、日頃あまりお目にかかれないのがテオルボ。

マンドリン型のリュートに、低音弦の長いネックが加わった構造で全長150センチくらい。糸倉が2カ所にあり、ペグは7本ずつ使われているようだったが、バリエーションがあり、マルキテッリのテオルボの方がボディは大きい。2台とも専用スタンドがなく、開演前や休憩時間は舞台にゴロンと寝かされていて、なんともユーモラスに見えた。

マルキテッリ、ジョヴァンニとも開演ギリギリまでチューニングしていたそうだが、ライヴ中はほとんどせずに進行した。弦が多いので、ナーバスになりすぎてもキリがないらしく、おおらかに接しているようだ。休憩時間の後半に、ふたりがステージに出てきてチューニングしていたが、短時間で終了。

色彩豊かなサウンドで、チェンバロやソプラノと一瞬一瞬のハーモニーを楽しみながら息の合った演奏を届け、聴いているこちらも一度弾いてみたい気分に。遠い昔にちまたの男女が、テオルボを弾きながらこんな歌を歌っていたのかと思うと、なんだか感慨深い。

欧米では、若い世代が古楽器バンドを楽しむムーブメントもあると聞く。プロの世界でもマドリガルをジャズ風アレンジで歌ったりして、現代人が身近に楽しめるようにとの模索も見受ける時代である。

バロックの世俗歌曲を知らない人はまだまだ多いが、今回のように対訳つきのプログラムがあれば、本格的な内容でも十分鑑賞できる。コンチェルト・イタリアーノ公演をきっかけに、さまざまな古楽を聴いたり、楽器に触れたりできる機会が増えると素晴らしい。

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

10035views

ウィグモア・ソロイスツ・コンサート

音楽ライターの眼

変幻自在の表現力、至福のアンサンブル/ウィグモア・ソロイスツ・コンサート

911views

豊かで自然な音と響きを再現するサイレントバイオリン「YSV104」

楽器探訪 Anothertake

アコースティックの豊かで自然な音色に極限まで迫る、サイレントバイオリン™「YSV104」

11837views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

21212views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11153views

オトノ仕事人

コンピュータを駆使して、ステージのサウンドをデザインする/ライブマニピュレーターの仕事

4389views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

7523views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6814views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11226views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

5698views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5292views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29676views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11542views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12814views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase17)シェーンベルク生誕150年、「ピアノ協奏曲」に聴く十二音技法のロマンチシズム

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase17)シェーンベルク生誕150年、「ピアノ協奏曲」に聴く十二音技法のロマンチシズム

1246views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

2158views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

1737views

reface シリーズ

楽器探訪 Anothertake

ひざの上に乗せてその場で音が出せる!新感覚のシンセサイザー「reface」シリーズ

13293views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

19065views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5163views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

55438views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6814views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25065views