今月の音遊人
今月の音遊人:横山剣さん「音楽には、癒やしよりも刺激や興奮を求めているのかも」
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名手3人が醸し出す、音の会話の楽しさ奥深さ/徳永二男、堤剛、練木繁夫による珠玉のピアノトリオ・コンサートVol.4
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2018.3.6
徳永二男(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)、互いをよく知るトップ奏者3人がヤマハホールで年に1度開いている、トリオシリーズの第4回。前の週に降った大雪が舗道の傍らにまだ残る寒い夜だったが、ステージで紡ぎ出されるサウンドは暖炉の炎のようにじんわり暖かく、心をほぐしてくれた。
1曲目のベートーヴェン「街の歌」は、3人のユニゾンでスタート。ほどなく、高音域を生かした華やかなピアノにチェロが明るい音色で寄り添い、ヴァイオリンが艶やかに歌い出す。第1楽章から引き込まれ、深みのある旋律の第2楽章では堤のチェロが朗らかな牧歌を思わせる響きを放つ。徳永のヴァイオリンや練木のピアノと主題を受け渡し合いながら、柔和なムードに。第3楽章はピアノが粋な役回り。ベース音でリズムを際立たせ、効果的に盛り込まれたスタッカートや長いトリルなど、練木の色彩豊かな演奏に伴って、ヴァイオリンとチェロが晴れやかに進行する。まるで、楽しく銘酒を酌み交わす朋友たちのよう。和やかな情景が浮かんでくるのだった。
2曲目のドヴォルザーク「ドゥムキー」は、エスニックな音楽だ。旋律の陰陽変化が特徴的なスラブ民謡「ドゥムカ」に着想を得て作ったと聞く。6楽章からなるが、4/8拍子、2/4拍子、6/8拍子など面白いリズムを駆使してあり、曲調の変化とともに、速度の緩急も著しく、変拍子の組曲を聴いているかのような気分を味わえる。
なかでも、第2楽章、第4楽章、第5楽章は、テンポにつられて身体が動き出しそうになるほどだ。ステージの3人も入り込んでノリノリの風情だった。堤は、常からアイコンタクトを取りつつ、身体を左右にゆったり揺らしながら妙技を披露するが、そのパフォーマンスが自然にワイドになっていく。
スラブ哀歌風の数多のフレーズ、リズムや速度などが、万華鏡のように変化し続けるこの曲に、ドヴォルザークのオリジナリティーのみならず、邦楽器の「泣き」に似たものをふと感じたり……。3人の醸す響きは、なかなか趣深かった。
休憩を挟んで、最後はシューベルトのピアノ・トリオ「第1番」。ベートーヴェンのピアノ・トリオ「大公」に触発されて書いたといわれ、同じ変ロ長調で、明るく心開けるような曲調だ。「大公」は3人がこのシリーズを始めた2015年の演奏曲。人気のライヴCDとなり、秀逸な演奏を家でも聴くことができる。休憩時間に、そのライヴが素晴らしかったと話している観客も見受けられた。この日のシューベルトを期待して聴きにきた雰囲気が伝わってくる。
果たして、ブリリアントなサウンドで第1楽章が始まり、チェロのピチカートなども華やいだ響き。場内に幸福感が満ちていくのを感じた。また、子守歌のような優しいピアノの音色にチェロが優しく応え、受けたヴァイオリンと美しいハーモニーを奏でていく第2楽章は、3人のホームパーティーを思わせる演奏で、特に心に残った。
楽しげに踊る光のようなピアノ旋律で始まり、心弾む特徴的なフレーズが楽しげに続く第3楽章や、終楽章のエネルギッシュなアンサンブルも素晴らしかったが、第2楽章の演奏には、後にひくうまさを感じた。
大きな拍手に応えて、徳永がお礼の言葉や2019年の開催日報告(2月23日の昼予定)などのあいさつを済ませると、アンコールはなんと「シューベルトの第2楽章」という。凍てつく夜に、温かいポトフをおかわりできた気分。音の会話の楽しさと奥深さを再び堪能し、満腹感を味わいながら、家路についた。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ Ayumi Kakam
tagged: 徳永二男, 音楽ライターの眼, 堤剛, 練木繁夫
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