Web音遊人(みゅーじん)

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

毎日のようにライブが行われるライブハウスやクラブでは、出演者の顔ぶれは、その店の顔と言ってもいいだろう。それだけにアーティストへの出演交渉や公演までの諸々の手配に、担当者は日々、心血を注いでいる。どのように出演者やスケジュールが決まり、ライブが行われているのか。東京・南青山のジャズクラブ「ブルーノート東京」で、ブッキングやライブ制作を担う笹本悠里さんにお話を伺った。

ブルーノート東京の公演は、ジャズを中心にヒップホップからロックまでと幅広い。笹本さんは、出演者の約7割を占める外国人アーティストのブッキングやライブ制作を担当する。「ブッキング」とはアーティストに出演依頼をし、出演日、条件を交渉する仕事。そして出演が決まって以降、本番までの準備からアーティストの帰国までの諸々の手配をするのが「制作」の仕事だ。
「ブッキングには基本的に3つのケースがあります。個人的に好きなアーティストに依頼する場合、売り込みがくる場合、そしてお客様のニーズに応えて依頼する場合。この3本柱で組み立てています」

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

ブルーノート東京の開業は1988年。10年目の1998年に現在地に移転した。ベテランから新進気鋭のアーティストまで、出演者は幅広い。(写真提供:ブルーノート東京)

ブッキングチームの中で若手の笹本さんには、新たなアーティストの発掘が期待されており、さまざまな音楽ソースをチェックしてアンテナを張っている。
「自分で見つけたアーティストがお客様に喜んでいただけると、ワクワクしますね」
例えば、アメリカでの学生時代の友人であるバンド、スナーキー・パピーは今やグラミー賞を獲得した人気グループだが、笹本さんは入社当初より彼らをプッシュ。2017年は3日連続公演を行うまでになった。また、一人で複数の楽器を演奏し、音を重ねるマルチミュージシャン、ジェイコブ・コリアーは、YouTubeで見つけてオファーした。
新しい演奏者を発掘する一方で、毎年行う恒例のライブもある。これは毎回足を運んでくれる顧客も多いが、だからと言って安穏としてはいられない。
「人気のアーティストでも毎年同じ内容では飽きられてしまいます。そこで、例えば話題の人をスペシャルゲストに迎えるなど、アイデアを出して提案します」

笹本さんが担当するのは先述の通り主に外国人アーティストで、それも若手が多い。初めて招聘するアーティストの場合は、窓口となるエージェントを探すことから始める。
「一人のアーティストでも、公演先の国によってエージェントが違うこともあり、正しいコンタクト先を見つけることが重要です。そのためには、海外のプロモーターとも情報を共有するなど、日頃からネットワークの構築は強く意識しています。連絡を取り合っているうちに、別のアーティストのエージェントが見つかったりすることもありますから」
ブルーノート東京には東京・丸の内のコットンクラブ、横浜のモーション・ブルー・ヨコハマという系列店があり、この2店舗のブッキングも一緒に行っている。また、ニューヨークのブルーノートとも協力し合う。
「お互いに『このアーティストはどう?』と、推薦し合ったりできるのも我々の強みだと思います。ただそのぶん、アーティストのスケジュールの振り分けが大変で、まるでパズルを組んでいるみたいになるんです。最後のピースがきちっとはまったときには、思わずガッツポーズをするくらい(笑)。細やかなコミュニケーションを大切にしています」

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

ブルーノート東京の最大収容人数は約280人。フロアには高低差があり、どの席からもステージが見やすいつくりになっている。くつろげるボックスシート席など、さまざまな種類の座席がある。

アーティストの出演が確定したら、それ以降は制作スタッフの仕事となる。中にはブッキングと制作両方を担当するスタッフもいて、笹本さんもその一人だ。
制作スタッフはまず、社内に向けて出演者の決定とスケジュールを連絡。これを受けて広報スタッフはどのような宣伝をするのかを立案し、音響・照明を担当するスタッフは機材と楽器の調達に入る。宣伝に必要な写真の手配や、エンドース契約(アーティストとメーカーの間で結ばれる、使用楽器についての契約)などの確認も担う。
「特に気をつけているのはビザの申請。公演までの期間によって緊迫度が変わってきますね。ホテルや交通機関の手配も同時進行で行います。そのとき交渉している相手の都合をメインに考え、ほかの仕事は空いた時間にこなす。僕自身の仕事もパズルのようですね」

続きをみる

  

特集

塩谷哲

今月の音遊人

今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」

8222views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#021 コルトレーンが“宇宙観の表現”へと駆け上がるタイミングを“味見”してみよう~ジョン・コルトレーン『ソウル・トレーン』編

11358views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンで初めてオーディオファイル録音機能を装備

14820views

楽器のあれこれQ&A

サクソフォン講師がアドバイス!ステップアップのコツ

3097views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11775views

ホールのクラシック公演を企画して地域の文化に貢献する/音楽学芸員の仕事

オトノ仕事人

アーティストとお客様とをマッチングさせ、コンサートという形で幸福な時間を演出する/音楽学芸員の仕事

13905views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

17377views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4505views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9651views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

6694views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

5449views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11870views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

9767views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

37368views

ザ・ダークネス

音楽ライターの眼

ギター不況を吹っ飛ばすライヴ・アルバム/ザ・ダークネス『ライヴ・アット・ハマースミス』

7040views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

8126views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

11153views

【楽器探訪 Another Take】演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

楽器探訪 Anothertake

演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

7269views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

17453views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

9668views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

42104views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

4505views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35113views