Web音遊人(みゅーじん)

ザ・ダークネス

ギター不況を吹っ飛ばすライヴ・アルバム/ザ・ダークネス『ライヴ・アット・ハマースミス』

ギター・ブランドのギブソンや世界最大の楽器店の米「ギター・センター」が経営難に陥るなど、逆風が吹き荒れる2018年のギター業界。「今のヒット・チャートはヒップホップとEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が主流。ギターのロックなんてオワコンだよ!」などと、まるでロックが死んだかのような論調もしばしば聞かれる。

日本でもそう言われるのだから、それ以上にポップ・ミュージックの流行廃りが激しいイギリスではギター・ミュージックなんて誰も聴いていないに違いない!……と思ってUKアルバム・チャートを覗いてみると、案外ロックものがヒットしていることに気付く。ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズやアークティック・モンキーズは上位にランクインしているし、オアシスやフー・ファイターズのベスト盤も、まるで永遠のようにチャートに居座り続けている。

そんなイギリスで絶大な人気を誇るロック・バンドが、ザ・ダークネスである。

ザ・ダークネスは2003年にデビュー、ハードでグラマラスなブリティッシュ・ロックンロールで一躍世界の注目を集める。ジャスティン・ホーキンスのファルセットというより裏声に近いハイトーン・ヴォイスと一度聞いたら耳を離れないメロディと歌わずにいられないキャッチーなコーラスは大人の音楽ファンには懐かしく、若いリスナーには新鮮なものだった。クイーンのフレディ・マーキュリーばりの胸開き全身タイツやギラギラのコスチュームという奇抜なヴィジュアル・イメージも目を惹いた。

ザ・ダークネス

「ゲット・ユア・ハンズ・オフ・マイ・ウーマン」「アイ・ビリーヴ・イン・ア・シング・コールド・ラヴ」などを連続ヒットさせた彼らは、コアな音楽ファン層だけにアピールするのではなく、2003年にはクリスマス・ソング「クリスマス・タイム(ドント・レット・ザ・ベルズ・エンド)」を発表。数十年にわたりクリスマスの”定番”だったゲイリー・グリッターの「アナザー・ロックンロール・クリスマス」が彼の未成年性愛による逮捕でCDショップの店頭から消え去ったことも幸いして、イギリスのクリスマス・ホリデーのお茶の間を占拠するようになった。

さらに「アイ・ビリーヴ・イン?」が映画『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12ヶ月』(2005)で使用されたことで、普段ロックに興味のない女性層にアピールしたことも強かった。

もちろん従来のロック・ファンへの目配りも怠りなく、ジャスティンはソロ・プロジェクト、ブリティッシュ・ホェール名義でスパークスの「ディス・タウン」をカヴァー。ミュージック・ビデオにはスパークスのメエル兄弟も出演して話題を呼んだ。

ジャスティンのドラッグ問題もあり、一時期バンド解散を余儀なくされながらも復活。ザ・ダークネスは現在も活動中だ。日本では2011年の「ラウド・パーク」フェス以来ご無沙汰だが(ジャスティンのサルヴァドール・ダリか大泉滉ばりのヒゲが観衆をどよめかせた)、本国イギリスではコンスタントにアルバムがヒット。最新作『パインウッド・スマイル』は全英チャート8位となっている。

彼らの息の長い人気の秘密がそのステージ・パフォーマンスにあることは、2018年6月に発売となったライヴ・アルバム『ライヴ・アット・ハマースミス』を聴けば明らかだ。クイーンもAC/DCもエアロスミスも呑み込んだ、そして何よりも唯一無二のキャラが立ちまくったロックンロールが英国ロックの”聖地”のひとつであるロンドン「ハマースミス・アポロ」で炸裂する。ジャスティンとダンのホーキンス兄弟のギターも、スピーカーあるいはヘッドフォンの左右から火を噴きそうな熱さだ。

2017年12月10日、年末も押し迫ったクリスマス・ショーということもあり、観衆のテンションの高さも特筆モノで、良い気分でコーラスを歌いまくる。豊潤なブリティッシュ・ロックの歴史に、新しいライヴ・アルバムの名盤が生まれた瞬間である。

このアルバムを聴いたら、もう「ギターは死んだ」なんて言っていられない。すぐに家を飛び出して、町の楽器店でギターを試奏したくなる。こういうアルバムこそが、ギター不況を吹っ飛ばすのだ。

■ アルバムインフォメーション

『ライヴ・アット・ハマースミス』
ライヴ・アット・ハマースミス
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
発売日:2018年6月15日
料金:2,300円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

今月の音遊人

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

12661views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.8

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.8

6444views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

5750views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

40210views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11173views

宮崎秀生

オトノ仕事人

ホールや劇場をそれぞれの目的にあった、よりよい音響空間にする専門家/音響コンサルタントの仕事

1246views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13314views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13391views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

23494views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

6866views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

7978views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29119views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8426views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

9827views

宮田大チェロ・コンサート

音楽ライターの眼

ハープのスターダストを浴びるチェロの清澄な歌/宮田大チェロ・コンサート

1135views

オトノ仕事人

歌、芝居、踊りを音楽でひとつに束ねる司令塔/ミュージカル指揮者・音楽監督の仕事

2646views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

7806views

楽器探訪 Anothertake

世界の一流奏者が愛用するトランペット「Xeno Artist Model」がモデルチェンジ

23945views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6860views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

6928views

楽器のあれこれQ&A

講師がアドバイス!フルート初心者が知っておきたい5つのポイント

17544views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8385views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24773views