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DIO: Dreamers Never Die

ヘヴィ・メタル稀代の名シンガー、ロニー・ジェイムズ・ディオの勇姿が蘇る映画『DIO: Dreamers Never Die』海外公開

ロニー・ジェイムズ・ディオ(1942~2010)の人生を辿るドキュメンタリー映画『DIO: Dreamers Never Die』が海外で公開された。

レインボー、ブラック・サバス、そして自ら率いるディオで、1970年代からハード・ロック/ヘヴィ・メタルを代表するシンガーとして君臨してきたロニーは今日でも世界中に多くの信奉者がいるが、その67年の軌跡を1時間50分に凝縮している。

新たな一面を知るレアな映像が満載

ロニーの奥方でマネージャーだったウェンディ・ディオが制作総指揮で関わっているだけあり、その音楽と映像がふんだんに使われている。ライヴ映像やプロモーション・ビデオ、スチル写真などをフィーチュア。レインボーの『銀嶺の覇者』『スターゲイザー』、ブラック・サバスの『ヘヴン・アンド・ヘル』『チルドレン・オブ・ザ・シー』、ディオの『スタンド・アップ・アンド・シャウト』『ホーリー・ダイヴァー』といった代表曲が網羅されており、まったくの初心者でもその魅力に浸ることが出来る。

市販された映像作品も多い彼だが、極力重複が避けられており、次から次へとレアなフッテージが飛び出す。1960年代、ロニー・ディオ&ザ・プロフェッツの若手時代の彼がベースを弾きながら歌う映像も収録されているし、子供の頃の写真や、若手バンド時代のザ・ビートルズばりのマッシュルーム・カットのスチル写真も貴重だ。

もちろんレア度ばかりを重視するのでなく、ロニー主導で1986年に実現した歴史的オールスター・チャリティ・プロジェクト、ヒア・アンド・エイドの映像などもポイントを突いた箇所で使われている。また、ウェンディによる邸宅の案内は、熱心なファンだったらどこかで見たことがあるだろう。

ウェンディはニジ・マネージメント(現ニジ・エンタテインメント・グループ)で数多くのアーティストのマネージメント業務を行い、ビジネスを離れても、2015年に亡くなったモーターヘッドのレミー・キルミスターの葬式を取り仕切るなど人脈の広さで知られるが、その人柄によるものか、数々のアーティスト達がインタビューに応じ、ロニーへの想いを語っている。ブラック・サバス時代の盟友であるトニー・アイオミ、ギーザー・バトラー、ビル・ワード、ヴィニー・アピスやディオのメンバーだったクレイグ・ゴールディ、ダグ・アルドリッチ、ジェフ・ピルソン、ルディ・サーゾ、サイモン・ライトを筆頭に、ロブ・ハルフォード(ジューダス・プリースト)、グレン・ヒューズ(元ディープ・パープル)、ロジャー・グローヴァー(ディープ・パープル)、リタ・フォード、ドン・ドッケン(ドッケン)、俳優のジャック・ブラックらの談話からは、彼に対する敬意と愛情が伝わってくる。さらに彼のいとこであり、ザ・ロッズのデヴィッド“ロック”フェインステインも少年時代のロニーとの思い出を話している。加えてセバスチャン・バック(元スキッド・ロウ)、ダン・リルカー(元ブルータル・トゥルース)らがほとんどファン代表のような役割で語りまくるのも面白い。

自分に厳しいぶん他人に対しても手厳しい発言をすることがあったロニーゆえ、リッチー・ブラックモア、オジー・オズボーン、ヴィヴィアン・キャンベルへのインタビューは残念ながら行われていない。

ロニー・ジェイムズ・ディオ

生きざまを写すドキュメンタリー映画。日本公開を期待

レインボーからブラック・サバス、ディオに至る軌跡はロック・リスナーにとってもはや“義務教育”であるが、知られざるエピソードも語られている。1968年、エレクトリック・エルヴズ(エルフの前身)でツアー中に交通事故に遭い頭蓋骨が陥没、100針以上の怪我を負い、同乗していたギタリストのニック・パンタスが死亡したという事件はショッキングだ。さらにレインボーのポップ化を嫌い、『シンス・ユー・ビーン・ゴーン』をカヴァーすることに嫌悪感を示して解雇されるに至った経緯、ヴィヴィアン・キャンベルとの別離、1990年代のグランジ・ブーム以降のキャリアの停滞、癌との闘病と死までがドキュメントされている。

ロニーのトレードマークであるハンド・サイン“マロイクの印”のルーツも明かされている。元々はイタリアの言い伝えで、邪眼(mal-oik)を持った人間から呪いを跳ね返すのに牛の角が有効だが、持ち歩くわけにいかないため、その代用として人差し指と小指だけを立てたもので、ロニーは祖母から教わったという。ブラック・サバスに加入したとき、前任者のオジー・オズボーンがライヴでVサインを出していたのに対抗して使い始めたものの、“悪魔の角”などと誤解されて心を痛めていたそうだ。

若き日のウェンディが女優として『デス・レース2000年』(1975)にマッサージ嬢としてチョイ役で出演していたり、ディオの『ザ・ラスト・イン・ライン』ミュージック・ビデオの監督が『ファンタズム』(1979)のドン・コスカレリで、インタビューも受けているなど、映画ファンにもアピールする内容となっている。

なお本作はドン・アーゴットとデミアン・フェントンの共同監督による作品。2人は過去にドゥーム・メタル・バンド、ペンタグラムを題材にとった『Last Days Here』(2011)でシンガー、ボビー・リーブリングがドラッグに溺れ、家族や周囲の人々に迷惑をかけるさまを赤裸々に描いており、またラム・オブ・ゴッドについての『As The Palaces Burn』(2014)では2010年、プラハ公演でファンがステージから落下して死亡したことでシンガーのランディ・ブライが逮捕、拘留されて裁判となった事件を掘り下げている(後者はアーゴットが監督、フェントンは編集)。ただ本作ではそんなダークな世界観に踏み込むよりもロニーの生きざまとその豊潤な音楽を鮮明に捉えるものだ。

『DIO: Dreamers Never Die』は2022年3月にテキサスの“SXSW”フェスティバルで先行上映。その後アメリカ国内での限定劇場公開を経て、現在では配信プラットフォームでも見ることが出来る。2023年春の時点ではまだ日本公開は発表となっていないが、稀代の名シンガー、ロニー・ジェイムズ・ディオの勇姿が蘇る本作、ぜひ映画館の大スクリーンで体験したい。

■インフォメーション

【予告編動画】

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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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