Web音遊人(みゅーじん)

上野耕平さん

今月の音遊人: 上野耕平さん「アクセルを踏み続けることが“音で遊ぶ”へとつながる」

東京藝術大学在学中から、次世代をリードするクラシカル・サクソフォン奏者として注目され、2014年には1st.CD『アドルフに告ぐ』をリリースした上野耕平さん。ソリストとしてのコンサート活動と並行し、自身も所属する「The Rev Saxophone Quartet(ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット)」「ぱんだウインドオーケストラ」など、幅広い演奏活動を行っています。豊かな音楽性でサックスの可能性を広げる上野さんに、好きな音楽のことなどをうかがいます。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

中学生のときに初めて聴いて以来、今でも繰り返し聴いているのがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の『ニューイヤー・コンサート』、2007年にズービン・メータが指揮をした回のCDです。「ニューイヤー・コンサート」はその前年、マリス・ヤンソンスが指揮をした年に初めてテレビで観たのですが、ウィンナ・ワルツのなんともいえないルバートにはまってしまいました。
音楽が気持ちよく流れていく中、ふっとテンポが緩んで、たっぷりと時間をとってから再び音楽が始まるという自然な流れは独特の味わいがあり、ウィンナ・ワルツはそのとてもわかりやすい例だと思います。当時すでにサックスのレッスンは始めていましたが、テンポを自由自在に活かしていいんだと気がついたことも大きく、音楽における時間の使い方はウィンナ・ワルツが教えてくれたといっていいでしょう。
お気に入りの曲は、ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ『くるまば草』の序曲と、ヨーゼフ・シュトラウスの『うわごと』というワルツです。ヨーゼフの曲は単に明るいだけではなく、ちょっと内向的で潤いがあり、シュトラウス・ファミリーの中ではいちばん好きですね。今でも、なにか大切なことを教えてくれるような気がして、よく聴いているのです。

上野耕平さん

Q2.上野さんにとって「音」や「音楽」とは?

「栄養補給ができるもの」だと思います。これは音楽に限らず、たとえば電車のモーター音も自分にとっては大切な栄養分。おそらく空気の振動が自分にとっては心地いいんでしょうね。
鉄道が大好きで、どこへ行くのでも乗ったことがない路線を使ったり、気になる車両のモーター音をスマートフォンなどで録音していますから、知らず知らずのうちに音で癒やされています。自分にとっては当たり前のことなので、もはや「音」として意識していないかもしれません。それでも初めて乗る路線や車両には興奮しますし、モーター音を録音して後から聴き返すのは他に代えがたい喜びです。
ただ、そういった生活をしているせいか、ときどき「音はいいから、ちょっと休ませて」と思ってしまうこともあります。特に、自分で演奏しているにも関わらず吹奏楽の仕事をした後は疲れていることがあり「けっこう気を遣っていたんだな」と思うことも。でも、それだけ音楽の力があるということでしょうし達成感を得られることも事実ですから、やはり「音」の力はすごいなと実感します。

上野耕平さん

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

しゃべるように音を操れる人、自分の声で話すように楽器を演奏できる人だと思います。もちろん自分でもそういった演奏を理想としていますし、常に意識し続けたいことでもあります。それに気がついたのは、サクソフォン四重奏を始めてからかもしれません。
自分一人ですと、楽譜に「レシタティーヴォ」という指定があれば一人で語るように演奏することは心がけますが、四重奏になると4人で会話をすることになりますし、常に他の3人がどういったニュアンスで語りかけてきて、自分がどう答えていくのかを考えながら演奏します。そうしたやりとりを極めると「音で遊ぶ」という領域に入れるのではないでしょうか。
自分はどのような場合でも、演奏するときにはライブ感を大切にしていて、コンサートでも「絶対になにか爪跡を残して帰るぞ!」という気持ちを忘れません。演奏を重ねていくと、うまくいかないところやリスクの大きなポイントもわかってしまうのですが、そこで怖がると守りに入ってしまいますよね。自分は常に攻め、アクセルは踏み続けたいですし、そうした中から「音で遊べる」という感覚も生まれると思うのです。

上野耕平〔うえの・こうへい〕
8歳から吹奏楽部でサクソフォンを吹き始め、東京藝術大学器楽科を卒業。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、史上最年少で第1位ならびに特別大賞を受賞。以後、国内外の数々のコンクールやコンサートで高い評価を得て、演奏活動をはじめ、さまざまな分野で活躍。2014年に『アドルフに告ぐ』でCDデビュー、2015年にはコンサートマスターを務める「ぱんだウインドオーケストラ」のCDをリリース。2018年11月には、東京藝術大学同窓生によって結成された「ザ・レヴ・サクソフォン・クヮルテット」の2枚目のアルバムをリリース。
上野耕平オフィシャルサイト http://uenokohei.com/

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:反田恭平さん「半音進行が使われている曲にハマります」

15665views

音楽ライターの眼

メンバーは替わっても、その演奏の柱は決して揺るがない/タカーチ弦楽四重奏団

7836views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

4942views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

40201views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15058views

オトノ仕事人

あらゆるトラブルに対応できる、優れたリペア技術者を世に送り出す/管楽器のリペア技術者を育てる仕事

5321views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13312views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5212views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

9824views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

2990views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

4441views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9652views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

10327views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8211views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.8

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.8

6441views

オトノ仕事人

歌、芝居、踊りを音楽でひとつに束ねる司令塔/ミュージカル指揮者・音楽監督の仕事

2646views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1493views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11250views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

3978views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5185views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

106444views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13387views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29115views