Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」

独特の熱気と愛情がこもったバイオリンの音色と陽気なキャラクターで、多くの音楽ファンを魅了している葉加瀬太郎さん。2016年はソロデビュー20周年を迎え、さらに新しい領域へのチャレンジを惜しまない。その熱い心に宿るのは。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

好きな作曲家については15歳のときから浮気をしていません。即答でブラームス。特に室内楽曲は選び難いほど素晴らしいのですが、どうしても1曲を選ぶとしたら『クラリネット五重奏曲』ですね。出会ってから30年以上ですが、今でも自宅で聴くことが多いですし、レコードやCDはどれも買ってしまうほどマニア化しています。きっかけは高校1年生から2年生の頃、憧れていた女性の先輩がいて、彼女がクラリネットを吹いていたことです。
ブラームスもクラリネットと出会って五重奏曲を含む名作をいくつか書きましたし、僕自身もあの音色がたまらなく好き。いろいろな演奏を聴いていても、同じ楽譜のはずなのに生まれる音楽はどれも違っており、ブラームスほど引き出しがいのある作曲家はいませんね。
実は38歳のときに思い立って、3曲あるブラームスのバイオリン・ソナタをコンサートで弾いています。音楽家としての人生を送っているのに、いちばん好きな作曲家へ取り組まないなんてうそだろうと思い、そこからのチャレンジです。実際に弾き込んでみると、やはり奥深いし難しいですね。あと10年ほどで60歳になりますが、そのときに3曲のCDを出すというのが目標です。

Q2. 葉加瀬さんにとって「音」や「音楽」とは?

ひとことで表現するなら「究極のひまつぶし」。暮らしの中でいろいろな楽しみはありますけれど、何もすることがないときには楽器を手にして音楽をします。それは、この世の中でいちばん面白いことだから。
子どもの頃から楽器の練習が大嫌いでしたけれど、上手になるためにはやらなくてはいけないこともわかっていますし、僕は若干Mっ気が強いので「いやだなあ、でもやらなくちゃ」という状況は嫌いじゃありませんでした。だからこそ、音楽家として今までやってこられたと思いますし、楽器と一緒にいることが好きなのでしょうね。気がついたらバイオリンと暮らしていたという感覚ですから、人生から楽器がいなくなることも想像できないのです。
それでも家族とバカンスへ行くときには楽器を置いていき、子供たちとひたすら遊ぶのですが、帰宅して楽器ケースを開けるときの怖さったらないわけですよ。元へ戻すだけでも3日くらいかかるということは知っていますし、弾いてみると「ああ、このポジションがうまく弾けない」といったことばかり。その繰り返しですけれど、それでも「楽しい」という感情が勝っているのです。

今月の音遊人:葉加瀬太郎さん

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

小学生のとき、今でも自分にとって神様のような存在であるイツァーク・パールマンのコンサートへ行きました。初めて本物を生で観て、演奏を聴いたらその素晴らしさにびっくり。アンコールではジョークも交えてクライスラーなどの小品を次々に弾いてくれ、僕たちを楽しませることも知っているわけです。終演後、いっしょに聴きに行ったバイオリンの仲間たちと舞台裏へ行ったら、楽屋に呼び込んでくれてみんなにサインをしてくれて、誰もがファンにならざるを得ませんよね。
音で遊ぶ人、というとギタリストのパット・メセニーやアントニオ・カルロス・ジョビン、エンニオ・モリコーネなども思い浮かびますね。みんな僕が大好きな音楽家たちで、音楽が丸い形をしているのです。そうした音楽が自分と共にあったからこそ「楽しい」ということを忘れずにすんだのかな。
演奏することは「仕事」ではなく「遊び」だと思ってきましたから、今まで辞めたいと思ったこともありません。でも、そういう気持ちを持続できたのは、ブラームスであったり坂本龍一さんであったり、素晴らしい音楽に出会えたからでしょう。

葉加瀬太郎〔はかせ・たろう〕
バイオリニスト。1968年大阪府生まれ。1990年、KRYZLER & KOMPANYのバイオリニストとしてデビュー。セリーヌ・ディオンとの共演で世界的存在となる。1996年の解散後ソロ活動開始。2002年、自身が音楽総監督を務めるレーベル“HATS”を設立。2013年、自身初のワールドツアー、2014年には、47都道府県をまわるコンサートツアーを成功させた。デビュー25周年の節目の年となる2015年春、KRYZLER & KOMPANYを再結成。同年、デビュー25周年を記念したアルバム『DELUXE〜Best Duets〜』をリリース。2016年、ソロデビュー20周年を迎え、3年ぶりにフルオリジナルアルバム『JOY OF LIFE』をリリース。オリコン週間総合チャート9位にランクイン。そのアルバムを引っさげ、9月15日東京公演を皮切りに50公演を数える全国ツアーがスタートした。
葉加瀬太郎オフィシャルサイト http://hats.jp/

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:山田和樹さん「エルヴィス・プレスリーのクリスマスソングから『8割の美学』というものを学びました」

3118views

音楽ライターの眼

だんだんと熱気を帯びてドラマチックに/三浦文彰 ブラームス:バイオリン・ソナタ・リサイタル-清水和音(ピアノ)を迎えて-

1639views

CLP-800シリーズ

楽器探訪 Anothertake

グランドピアノの演奏体験を全身で感じられる電子ピアノ── クラビノーバ「CLP-800シリーズ」

2413views

楽器のあれこれQ&A

ドの音が出ない!?リコーダーを上手に吹くためのアドバイスとお手入れ方法

191232views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17704views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7546views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

18430views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5681views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31816views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:仕事もバンドも、常に真剣勝負!

9876views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5702views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10466views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

13031views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10434views

音楽ライターの眼

没後25年、アイルランドのギター・ヒーロー、ロリー・ギャラガーの魂の炎は燃え続ける

10861views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

20532views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8463views

クラビノーバ「CSPシリーズ」

楽器探訪 Anothertake

これまでピアノを諦めていた多くの人を救う楽器。楽譜作成・鍵盤ガイド機能が付いた電子ピアノ/クラビノーバ「CSPシリーズ」

22124views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8978views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7296views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

13827views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14524views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10466views