Web音遊人(みゅーじん)

言葉にはできない“雰囲気”を音で描きたい/羽毛田丈史インタビュー

作曲家、プロデューサーに編曲家と、数々な顔を持つ音楽家、羽毛田(はけた)丈史。2020年に還暦を迎えた彼が、ピアニストとしてソロアルバム『PIANO 60’s』を発売した。これまでに数多くの作品を世に送り出し、2001年からはコンサートツアー「live image」の音楽監督兼ピアニストも務める彼の濃密な音楽人生が詰まったアルバムだ。ソロコンサート「image la plume」のメンバー、天野清継(ギター)、一本茂樹(コントラバス)や結城貴弘(チェロ)ら、羽毛田の信頼厚い奏者を迎えている。

“雰囲気”を大切にした作曲

楽器の特性を最大限に引き出し、テレビや映画など多くの物語を彩ってきた羽毛田の作品は、常に美しい響きと色彩に満ちている。その秘訣は何なのだろう。
「作曲する時に大切にしていることは、言葉にはできない“雰囲気”を音で描くことです。たとえばドラマなどで、登場人物のふと見せる表情に音楽が重なると一気に雰囲気が変わりますよね。しかもかかる音楽が変われば人物たちを取り巻く空気は全く違うものになる。ですから、作曲する時には感情そのものを表現しようとするのではなく、その感情をとりまく“雰囲気”を描き出すことを大切にしているのです」

編曲でこだわったのは、作品へのリスペクト

『PIANO 60’s』には、映画音楽や洋楽にジャズなど、羽毛田の音楽人生に深くかかわってきた作品が収められているが、選曲はどのようにして行ったのだろう。
「一番大切にしたのは、ピアニストとして自分のスタイルを出すことです。選曲にあたってはそれが大きな観点になっています。まずモリコーネについては、影響を受けた作品は数えきれないほどありますが、『Playing Love』は、これだけ素晴らしい作品でピアノが活躍する曲なのに、ピアニストがあまり取り上げていないなと思い選んでみました。『Deborah’s Theme』は“挑戦”です。もともと弦楽合奏のための作品ですから、非常に長い持続音で書かれています。これをピアノとチェロのデュオでやったらどうなるか……と。テンポや伴奏を変えるといったアレンジなら簡単ですが、目指したのはあくまでも原曲の形を崩さずにこれだけのことが出来る、ということを示すこと。今年残念ながら亡くなってしまったモリコーネへの追悼の念も込めて、楽曲の可能性の追求をしたかったのです」

ポール・マッカートニーによる作品も2曲収められているが、羽毛田はビートルズ、そしてポールの音楽を非常に愛しており、そもそもピアノを始めるきっかけはビートルズだったという。
「選曲はやはり悩みましたが、大好きなヨーロッパのジャズトリオのイメージでできる曲、と言う観点から選んでいます。『Norwegian Wood』はシンプルな2つのメロディで成り立つあの世界を壊さずにできることを追求し、『My Love』では、尊敬してやまないポールの世界観を表現するために、彼の歌っているメロディを完全にコピーしました。歌い回しやフェイク、ちょっとしたリズムのゆれ、間奏のギターソロまで全部です。楽曲に対する愛を存分に感じて頂けると思います」

ピアニスト・羽毛田丈史のスタイルが凝縮

葉加瀬太郎の2020年コンサートツアーのために書かれた、アイリッシュ風の音楽が美しい『Fragrant Woods』やピアノソロのためのワルツ『A Day in Nohant』など、書きおろしの新曲も存分に織り込まれつつ、彼の音楽人生において重要な意味を持つ『My Favorite Things』や『Someday My Prince Will Come』といった作品も並ぶ。
「『My favorite things』は、今年で僕の音楽人生の20年を占める『live image』の代表曲ですから、やはり入れたいなと。『Someday My Prince Will Come』はジャズの中で最も演奏するのが大好きで、一番手に馴染んでいる曲なのです。ピアノのサウンドチェックなどで必ず演奏しています。あえて録音しようと思ったことはなかったのですが、今回のアルバム制作にあたって、ぜひ入れてほしいという声をいただいたのです。サウンドチェックや休憩の間に弾いているラフな感じがいいといわれたので、セッション録音の各日程の最後に毎回即興で弾いたもののなかから選んだテイクを入れています。僕のピアノ人生が凝縮した一曲といえるかもしれませんね」

今回のアルバムは作・編曲家としてはもちろんだが、ピアニスト羽毛田丈史としてのスタイル、想いが熱く込められたものとなっている。今後はさらにピアニストとしての活動も広げていきたいと語る彼の今後が楽しみだ。


羽毛田丈史『Fragrant Woods』

■インフォメーション

アルバム『PIANO 60’s』

発売元:ハッツアンリミテッド
発売日:2020年11月11日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら
オフィシャルサイトはこちら

オフィシャルFacebook オフィシャルTwitter

特集

三浦文彰

今月の音遊人

今月の音遊人:三浦文彰さん「音を自由に表現できてこそ音楽になる。自分もそうでありたいですね」

4106views

音楽ライターの眼

ベンチャーズが来日60周年記念ツアー。変わる時代と変わらぬ音楽

10026views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

ピアノのエレガントなフォルムを大切にしたデザイン

7377views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23889views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11658views

小見山優子さん

オトノ仕事人

ゲーム音楽は勝ってはいけない、負けてはいけない。大切なのは調和──/ゲームコンポーザーの仕事

1105views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

22901views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6986views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22910views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

8395views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

5903views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5416views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13189views

セイント・ヴィンセント

音楽ライターの眼

セイント・ヴィンセントが切り開くギター・ミュージックの明日

853views

オトノ仕事人

新たな音を生み出して音で空間を表現する/サウンド・スペース・コンポーザーの仕事

7393views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

8395views

楽器探訪 Anothertake

世界の一流奏者が愛用するトランペット「Xeno Artist Model」がモデルチェンジ

26371views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8865views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8828views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

19357views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3300views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views