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ジャズが“距離感”を重視すべき音楽であることを考えさせたあるデュオのトラウマ

ジャズが“距離感”を重視すべき音楽であることを考えさせたあるデュオのトラウマ

いまさら“アドリブ”という言葉を出すまでもなく、ジャズにおいてめざすべきは、どんなアクシデントにも対応できる“表現の引き出し”を数多く持つことであり、しかもその出し方は一方向でなく、双方向的であることが要求される。

それを破綻なく成立させるためには、相手の“引き出し”から繰り出される想定外の表現を瞬時に理解する能力が必要なのだ。

つまり、理解しあいながら演奏相手を驚かせる(刺激する)ことこそが、演奏側のみならず、聴く側にとってもジャズの醍醐味だということ。

そもそも、発せられた音を共有できる現場にいるすべての人が、当事者としてその表現にこだわるべきである(あるいは、こだわらざるをえなくなる)という方向に動いてきたのがジャズである。

そのための重要な鍵を握っているのが“コミュニケーション能力”であり、その可能性をさらに探求しようとしているのが“現代のジャズ”だと言っていい。

そして、そんな本質的な特徴が最も表出しやすいのが(演奏人数的にミニマムな)デュオである――という認識を言葉にしようとしたのが、この「ジャズとデュオの新たな関係性を考える」だった。

その動機については、ジャズ専門誌の企画で2016年の年間ディスク・グランプリを選出する際に、「気になっているのが“デュオ”というフォーマット」とコメントしたことがきっかけだと、vol.1の冒頭に記している。

しかし、この連載原稿を書くために改めてデュオの資料を掘り起こしているうちに、ボクの“デュオ観”を決定づけるほど印象深かったエポックを取りこぼしていたことが気になりだした。

それは、あるレコーディングに立ち会うことのできた体験がもたらしたものだった。

ただ、今回俎上に載せた新デュオ論の例とするには時期的にも合わなかったため、本論では取り上げないことにしたのだ。

ところが、連載を締め括るにあたって、どうしてもこのデュオの体験が頭から離れない。

次第に、「この体験があったからこそ、デュオが気になるようになって、より深く探るべくボクは筆を執らざるをえなくなったのではないか……」との思いが膨らんでしまった。

というわけで、次回はそのデュオ体験を取り上げ、なにがボクの“デュオ観”を決定づけることになったのかを、改めて見つめ直してみたいと思う。

関連記事:ジャズとデュオの新たな関係性を考える<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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