Web音遊人(みゅーじん)

錦織健が15年ぶりに“日本の歌だけを歌う”テノールリサイタルを行う

錦織健は、オペラやオペレッタからベートーヴェンの『第九』、モーツァルトやヴェルディの『レクイエム』、さまざまな歌曲からカンツォーネまでレパートリーの広さを誇る日本を代表するテノール歌手のひとりである。
そんな彼が15年ぶりに「日本の歌だけを歌うリサイタル」を行う。

「この企画は2020年5月に行われる予定でしたが、コロナ禍の影響で延期となり、ようやく実現の運びとなりました。プログラムは3部構成で、第1部が山田耕筰や滝廉太郎をはじめとする日本の歌で、第2部は溝上日出夫作曲・なかにし礼作詞の『独唱とピアノのための組曲「遺言歌」』を組んでいます。そして第3部は喜納昌𠮷やさだまさしの曲を歌います」

実は、この3部構成のアイデアは、2021年1月に宇都宮で行ったリサイタルの際、コロナ禍における感染防止対策を徹底して行ったホールのスタッフが、考え出したもの。
「2度の休憩を入れて換気を行ったわけですが、すべてが非常に理にかなっていて、感染防止対策の手本のようなものでした。栃木の人たちは根性があるなあと感じ入り、私もこれを取り入れたいと思ったわけです」

各部の間に休憩が入ると、プログラムもガラリと変わるため、聴衆の気持ちもそこで一気に変わることになる。
「今回のメインはなかにし礼さんの『遺言歌』です。なかにしさんとは彼が演出した舞台で何度も歌わせていただき、食事に行ったり、いろんな話をしたり、本当にお世話になりました。以前は、『遺言歌』を歌いたいというとホール側から渋い顔をされたのですが、いまは寿命も延び、みんなが自分の人生をじっくり考える時期にきていると思いますので、ぜひ歌いたいと考えました。なかにしさんは2020年12月23日に亡くなられたため、今回は追悼の意味も含め、心を込めて歌います」

錦織健はインタビューなどでは自由に雄弁に明るく答えてくれるが、素顔はペシミスト(悲観主義者)で、3~5年に一度どうしようもなく落ち込むときがあるそうだ。声楽家は風邪をひかないように極力注意する必要があるが、それでも声が出にくくなってしまうこともあり、ステージで「声が出なくなった」という最悪のことをいつも想定しているという。

「私はいつも最悪の状態を想定し、そこから這い上がってくることを考えるわけです。本番で声が出にくくなった場合も、お客さまとは一期一会の出会いですし、声の限り歌う姿勢を貫きます。風邪気味のときも精一杯アンコールまで歌い、もう出がらしになるまで歌って“再起不能になりました”といって勘弁してもらいます(笑)」

このひたむきさ、率直さ、歌に懸ける強い思いが聴衆の心をとらえ、一度聴いた人は錦織健のファンになってしまう所以だろう。日本の歌を歌うときも、あくまでもクラシックの声楽家としてのテクニックと表現力で勝負。その気概に満ちた歌声を心に刻みたい。

■錦織健 テノール・リサイタル「日本の歌だけを歌う」

日時:2021年5月17日(月)13:30開演(12:50開場)
会場:東京オペラシティコンサートホール
料金:一般 5,500円/シニア 5,000円/学生 2,800円(税込・全席指定)
出演:錦織健(テノール)、多田聡子(ピアノ)
曲目:日本古謡/さくらさくら、滝廉太郎/荒城の月、山田耕筰/この道、溝上日出夫/独唱とピアノのための組曲『遺言歌』(作詩:なかにし礼) ほか
詳細はこちら

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

特集

矢野顕子

今月の音遊人

今月の音遊人:矢野顕子さん 「わたしにとって音は遊びであり、仕事であり、趣味でもあるんです」

6098views

音楽ライターの眼

レスリー・ウェストの追悼CDボックス2作が発売。暑苦しい夏は暑苦しいロック・ギターで

2532views

reface

楽器探訪 Anothertake

コンパクトなボディに優れた操作性が溶け込んだデザイン

5932views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

21278views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8632views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

42850views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

8898views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10724views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12864views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2069views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8214views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9944views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

19405views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22413views

ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」とイーグルスと浜田省吾、それぞれの“希望ヶ丘ニュータウン”

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase5)ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」とイーグルスと浜田省吾、それぞれの“希望ヶ丘ニュータウン”

1618views

オトノ仕事人

深く豊かなクラシックの世界への入り口を作る/音楽ジャーナリストの仕事

4389views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

1770views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュで斬新なデザイン。思わず吹いてみたくなるカジュアル管楽器「Venova(ヴェノーヴァ)」の誕生

10307views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14361views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7065views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

2044views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3056views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9944views