Web音遊人(みゅーじん)

連載43[ジャズ事始め]『ランドゥーガ〜セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイ’90』解説その3

前稿 に続き、アルバム『ランドゥーガ〜セレクト・ライブ・アンダー・ザ・スカイ’90』を、収録順に解説していく。

5曲目の『田の畔節(たのくろぶし)』については、CD添付の資料に元歌の記載がないので推測していきたい。

田の畔とは畦(あぜ)のことで、稲作用の水田に水を溜めておくために、周囲を泥土で凸状に取り囲んだ部分を指している。

田んぼのなかの水をいかにキープするかが稲の生育を大きく左右するので、畦のメンテナンスは農家に欠かせない重要な作業だと伝えられてきた。

そのため毎年、畦を修復する「畦作り/畦塗り」が必要で、そのときに歌われる作業歌が各地に伝わっていったと考えられる。

曲は、パーカッションのさざめきからギターとベースのユニゾンによるリフが重なってイントロを飾り、ホーン・セクションのソリでAメロが繰り出されていく。

ドラムスのタムがアクセントをアフター・ビートに置くことで、全体に作業歌である印象を強くもたせている。しかし、曲の本筋は、協奏曲のカデンツァ、すなわちジャズで言うところのアドリブ・パートへと進んでいく。

先陣を切るのはテナー・サックスの峰厚介だ。前半はブロウ・スタイルのハード・バップを意識させる細かいフレーズを多用して、2拍子の重いテンポをすり抜けながらスピード感を上げていく。後半はフリーキーなトーンを交えることで、恍惚感さえ漂わせる熱演。

佐藤允彦のシンセサイザーがブリッジを引き継いで次のソリストのための“場”を整えると、登場したのがソプラノ・サックスのウェイン・ショーターだ。

いまだに現役最高のインプロヴィゼーション・プレイヤーだが、1990年当時は57歳の、円熟期にさしかかるすばらしい表現を、ここでも披露してくれる。

続いてアルト・サックスの梅津和時へバトンタッチ。宮城県を代表する民謡『斎太郎節(さいたらぶし)』の掛け声「エンヤ〜トット~」のように冒頭から続いているリフを相手に、絡み合ったり離れたりと、大衆音楽ならではの“気ままさ”を盛り込んだ表現がユーモラスだ。

そして、シンセ・ベースとエレクトリック・ベースのユニゾン、ドラムス&パーカッションの短いソロでリズムが空中にはじけると、エンディング。

この曲は、単調な“畦作り”という作業に、豊作を夢見て臨む農民たちの心情と、単調ではあるがそれゆえに生み出される恍惚感を、みごとに融合させたものとなっている。

6曲目は『鬱散・うっぽぽ』。“ストレス解消”を意味する“うっさん”と、“気を緩めて遊び歩くさま”を意味する“うっぽぽ”、いずれも辞書にある言葉で、羽目を外す曲調であることを示そうとしたタイトルだと推測する。

阿波国(現・徳島県)を発祥とする盆踊りの一種「阿波おどり」を彷彿とさせるリズムとリフで始まり、篠笛を思わせるシンセサイザーが紡ぐサブ・メロディのうえを、ウェイン・ショーター、峰厚介、レイ・アンダーソンがソロでつなぎ、全員の合奏による熱狂の演出へと進む。ドラムスとパーカッションによるブレイクを挟んで、再び合奏で踊りの列が散っていくようすを描くという、映像的なアレンジと演出を感じさせる内容だ。

ラスト7曲目の『稲が種あよ−』は、石垣島唄をモチーフに展開される。

シンセサイザーが醸し出す幻想的な伴奏のなかから、ピアノやソプラノ・サックス、ユニゾンを奏でるテナー・サックスとトロンボーンなどが湧き上がり、沈んでいく。

印象派音楽を彷彿とさせるような旋律の交錯を描きながら、アルバム後半(すなわち当日のステージ後半)に選曲されていた汗と熱狂を感じさせる極東アジア発信の民族音楽が発する“土や里山の匂い”から、“海の匂い”、すなわち海洋民族の視点へとテレポートしたかのような違和感。

この違和感こそが、日本に残る伝統的&民族的音楽の再発見を促すものであり、それをあぶり出すことで西洋音楽に比肩するものにできるのかどうかを試すことが、佐藤允彦のこのステージにおける意図だったのではないか──。

次回は“ランドゥーガ”をまとめてみよう。

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富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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