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イアン・ハンター、84歳にしてロックンロールの道半ば。2作品がリリース
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2023.7.13
tagged: 音楽ライターの眼, イアン・ハンター, Ian Hunter, Defiance Pt.1, DEFIANCE PART 1, ダーティ・ランドリー
84歳にしてロックンロールの道半ば。イアン・ハンターの旅路は続く。
1969年にモット・ザ・フープルでデビューして以来、イアンは常にロックンロールの喜びと哀しみを歌ってきた。30歳でファースト・アルバムを発表、“30歳以上を信じるな”という既成概念を覆した彼は、ロックンロール街道を直進。その音楽性はもちろん、『メンフィスからの道 All The Way From Memphis』『土曜日の誘惑 Roll Away The Stone』『ロックンロール黄金時代 The Golden Age Of Rock ‘n’ Roll』『すべての若き野郎ども All The Young Dudes』『野郎どもの襲撃 Crash Street Kids』『ロックンロール・クイーン』など、歌詞もまたロックンロールと“デューズ=野郎ども”の連帯を歌い上げていた。さらにイアンが1972年北米ツアーについて綴った著書『Diary Of A Rock'n'Roll Star』(1974)はロック旅日記の古典として版を重ねている。
名曲の数々に加えてデヴィッド・ボウイが彼らを支援したこと、クイーンが彼らの前座から巣立っていったなどの伝説を生んだモット・ザ・フープルだが、イアンは1974年に脱退。それからソロ・アーティストあるいはミック・ロンソンとのコラボレーション、そして数回のモット・ザ・フープル再結成を挟みながら活動してきた。
さすがに80歳を超えてペースダウンするかと思いきや、2023年になって彼の2枚のアルバムがリリースされることになった。
『Defiance Pt.1』は前作『フィンガーズ・クロスト』(2016)から約7年ぶりとなる新作だ。
このアルバムの最大のセールス・ポイントは、オールスター・ゲスト陣だろう。コネチカット州にあるイアンの自宅で録った音源にさまざまなミュージシャン達がトラックを提供する形式で制作されたが、ジェフ・ベックとテイラー・ホーキンスの生前ラスト・レコーディングに近いと思われる音源をはじめ、ビリー・ギボンズ(ZZトップ)、スラッシュ、ダフ・マッケイガン(ガンズ・アンド・ローゼズ)、ジョー・エリオット(デフ・レパード)、ロバート・トルヒーヨ(メタリカ)、ブラッド・ウィットフォード(エアロスミス)、リンゴ・スター(ザ・ビートルズ)などが参加している。イアンの1980年ツアーに同行したことがあるトッド・ラングレンとの久々の合体も嬉しいし、ストーン・テンプル・パイロッツのメンバーを従えてイアンが歌うという趣向もある。
これだけの豪華ゲスト陣を招くことが出来たことについて、イアンは2020年からのコロナ禍を理由に挙げている。「みんなツアーに出られなくなって家にいたからやってくれた」そうだが、実際には彼の長年のロックンロールへの貢献、そしてその愛すべき人柄によるものだろう。少なくとも60年以上“不良”のロックンローラーをやってきた彼だが、筆者(山﨑)が直接会話した限りユーモアを込めて話す、地に足の着いた紳士だった。
そして本作の最大の魅力は、楽曲そのものとイアンのヴォーカルだ。自らがルーツ・オブ・パンクであることを誇示する『Defiance』や哀愁漂う『No Hard Feelings』、そのロックンロール人生へのステートメント『This Is What I'm Here For』など、全編ロックンロールの背骨が通った、それでいて随所でグッと泣かせるアルバムとなっている。既に“〜Pt.2”も半分以上が出来上がっているというので楽しみだ。
なお本作はエルヴィス・プレスリーを筆頭に伝説のアーティスト達を輩出した“サン・レコーズ”から発表されたことも話題を呼んだ。
さらにイアンが1995年に発表したアルバム『ダーティ・ランドリー』が新装再発される。
作品発表のペースを落としつつあった時期、ミック・ロンソンとの共作『YUI Orta』(1989/邦題は『一匹狼』)から6年ぶりとなった新作。オリジナル盤はノルウェーとアメリカのインディーズから発売、長く廃盤になっていたアルバム(2007年にイギリスで再発された)のジャケット・デザインを新たにして、初の日本流通盤としてリリースされることになった。再発とはいえ、初めて聴く人がけっこう多いのでは?
本作は元々アルバムとして発表される予定はなく、イアンと元ハリウッド・ブラッツのキーボード奏者カジノ・スティールが行ったジャムから発展していったもの。“ほとんどアクシデントで”出来上がった作品だ。
だが、そんな策を弄さない作風が功を奏し、『ダーティ・ランドリー』はイアンという人間をヴィヴィッドに描いた等身大のロックンロール・アルバムに仕上がっている。横ノリで揺れる『ダンシング・オン・ザ・ムーン』、1960年代のビート・サウンドを彷彿とさせる『アナザー・ファイン・メス』、じんわり泣かせる『スカーズ』、『すべての若き野郎ども』に通じる“デュード”達のアンセム『マイ・レヴォリューション』などで、彼は決して斬新なことを試みてはいない。だが、その音楽性のツボがしっかり押さえられているため、彼の音楽を愛するファンが魅了される瞬間がいくつもあり、入門編としても申し分ないだろう。セックス・ピストルズのグレン・マトロックやザ・ボーイズのオネスト・ジョン・プレインらパンク組のバックアップも曲にラフなエッジを加えていて絶妙だ。
両アルバムともライヴ向きのナンバーが揃っているため、ぜひステージで歌って欲しいところだが、イアンはここしばらくツアーを行っていない。2019年5月から6月にかけてニューヨークの“シティ・ワイナリー”で4夜公演を行った彼は10月からモット・ザ・フープルとしての北米ツアーを行う予定だったが、耳鳴りがひどく中止に。そのままコロナ禍に突入して現在に至る……という状況だ。2021年1月にはロサンゼルスで行われたデヴィッド・ボウイへのトリビュート・コンサート“ア・ボウイ・セレブレーション”に参加したが、単独ライヴは行われていない。
なお2015年に初来日公演が実現したもの、2017年に発表された再来日はビジネス上のトラブルで中止に。主催者側からは“昨今の北朝鮮情勢を鑑み”という発表があった。
ステージに立つことはなくとも、イアンは自らのInstagramで近況を動画でアップデート、元気なところを見せてくれている。「1950年代から現代まで、ずっと“ロックンロール黄金時代”だよ!私はこの時代に生きることが出来て幸せだね」と語る彼だが、その黄金時代を築き上げるのに多大な貢献をしてきたのが彼だ。イアン・ハンターの過去に感謝し、未来に期待したい。
発売元:Sun Records(輸入盤)
発売日:2023年4月21日
詳細はこちら
発売元:BSMF RECORDS
発売日:2023年7月28日
価格:2,750円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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